【3203字】2024.06.12(水)|エアコン初登板
「今年は6月11日だったか…。」
我が家では、エアコン投手の初登板日を、限界の限界まで、我慢に我慢を重ねて、「ダメだ~!もう耐えられない!」と、全員が音を上げるまで、ギリギリまで日にちを遅らせる、といったハウスルールがある。
このハウスルールは、僕が子どもの頃からあったものだ。物心が付いた頃にはあった。「1回つけたらつけっぱなしになるで~」が合言葉だった。子どもの僕は、エアコンという文面の利器を作動するための魔法の機械(リモコン)が、今にも手に届くところにありながらも、「1回つけたら~(以下略)」という”脅しの言葉”が脳内再生されて、「まだだ!まだ終わらんよ!」と、自らを奮い立たせていた。
そんなわけで、今年、2024年は、6月11日が、我が家の限界だった。6月11日。早いと言えば早い。まぁ普通と言えばまぁ普通。遅いと言えば…、いや、遅くはないな。いくら地球温暖化が進行しているからといっても。遅くはない。
一昔前は「7月になるまでは耐え抜くんや!」という克己心を、一人一人が身に付けていた時期もあった。しかしそれはもう昔の話。今と昔では温度差も異なるはず。それに”異常気象”と呼ばれる現象も、過去と比べて増えて来た気もする。季節外れの「夏日(25℃以上)」とか。
もしかすると、我が家と似たハウスルールを定めている家庭も、結構多いのかもしれない。「ウチはウチ、ヨソはヨソ」とは良く言ったもので、他人の家庭事情は詳しく知らないが、前述した「1回つけたらつけっぱなしになるで~」に関しては、概ね賛同をいただいた記憶がある。
それを踏まえると、エアコンのつけ始めの時期は、誰しも「もう別にええやろ…。」とか「いや、もうちょっと我慢するか…。」とか「最悪生死にかかわる…。背に腹は代えられんて…。」などと、エアコンをつけるべきか、つけないべきか、思案を重ねているのかもしれない。
今現在も、エアコンをつけながら、キーボードをタンタンと叩いているのだけど、指がメチャクチャ滑らかに動く気がする。快適だ。いくらでも打てそう。文字が紡げそう。誰も待ってないと思うけど。こんなことなら、もっと早く、エアコンをつけても良かったんじゃないか、とも思えてくる。
いつだったかは定かでないが、今日ではない、もうちょっと前の日に、しんどい日があった。あの日は、温度が高いというよりも、湿度が高い日だった。いわゆる”ジメジメした日”である。これから、梅雨の季節が始まって、そんな一日も増えそうだが、さながら”予行演習”みたいな日があった。ちなみに筆者は兵庫県の加古川市在住である。
あの日の段階では、我が家全員が「もうダメだ~!」と弱音を吐いていなかったので、当然、エアコンは稼働しなかった。けれども僕は、内心、エアコンの「冷房」ではなく「除湿」機能を使いたくてたまらなかった。
おそらく、母に「エアコンの除湿ボタンを押しても構わぬか?」と直談判したら、「まぁ許してやろう」と答えてくれたはずだ。なぜなら母も湿度が高い日に滅法弱いからだ。
けれども、僕は、グッとこらえた。なぜなら、母もまた「アッツゥ…。」などと呻きながら、頭を扇風機のところに持って行って、髪の毛を持ち上げて、頭の芯の部分から冷やそうと、必死に努力しているさまを見ていたからだ。
そう。あの日の母の姿は、まさに「心頭滅却すれば火もまた涼し」であった。そんな母を尻目に「エアコンの除湿ボタンを~」などと懇願することは、とてもじゃないが、僕には出来なかった。”ハウスルールを破る”ということよりも”母の頑張りに背く”ことが、僕自身、許せなかったのである。
指の動きだけでなく、頭の回転もスムーズだったのか、いつもと比べて、執筆時間も短かった気がする。それもこれもエアコンのおかげかしら?
さて、これから、エアコン投手には、「権藤、権藤、雨、権藤」ばりのフル回転、いや、「エアコン、エアコン、エアコン、エアコン、エアコン、エアコン、エアコン、エアコン、(以下略)」ばりの、フルフル☆フル回転が待っているはずだ。
「おい!覚悟は決まっているか!?」
(背後にあるエアコンに視線を移す僕)
※ガチで数秒間観察しています。
うむ。「おうよ!任せろ~い!」と言っていた。準備万端だ。それもそのはず。数日前に、近日中に控えているであろう、初登板日に備えて、洗浄しておいたのだからな。今はもう、元気ビンビン。トニービンを3馬身差で圧勝してやるぐらいの勢いだ。
「さて、この勢いが、どこまで持つのか、見ものだな…。」
エアコンが、背中越しに、戦々恐々としているさまを感じ取った僕は、ニヒルな笑みをたたえて、執筆作業を終えたのだった…。