#1【野球ノート】森下翔太は豪快さと堅実さを合わせ持ったバッター
「えっ、その球に付いてくるの!?」
「内外・高低」を広く使ってバッテリーが上手く攻めているように見えても、しぶとくバットに当てて来る、そんな嫌な印象が凄くある。
「嫌な印象」というのは、単なるイメージではなく、数字にも表されている。阪神タイガースという注目されやすい球団もあってか、既に「三振しない男」とメディアが命名したように、森下は三振しない。
さらに特筆すべき点はバッティング内容の良さだ。単に当てるのが上手いだけじゃない。凡打になってもヒット性の打球を飛ばすシーンが目立つ。あれを見させられるとバッテリーは嫌だろう。打ち取ったという気持ちにさせない。
そう。アウトのなり方が良い。具体的に言うと、追い込まれてからのストレート対応が素晴らしい。森下のバッティングを見ていると、追い込まれた後は、どのコース、どの球種にも対応しようという意識が感じられるのだ。
バッターの待ち方として「ストレート待ちの変化球対応」なんてことが言われたりするが、森下の場合、追い込まれたら「変化球待ちのストレート対応」をしてくる。少なくとも僕の目にはそう見える。
色んな速度、色んな軌道に対応しようとする中でストレートが来ると、どうしたってタイミングが遅れる。それは当然のこと。だけど森下は、タイミングが遅れても、バットを出すことが出来る。それだけでなく、逆方向に強い打球を飛ばして来る。これが見事なのだ。カープファンの立場から言わせてもらうと、嫌なのだ。
「えっ、その球をマン振りするの!?」
森下の対応力の高さを述べてきたが、彼の魅力はそれだけにとどまらない。
2023年4月6日(木)の試合、遠藤淳志と対峙した場面。ワンストライクを取られた後、ベースのかなり手前でバウンドしたチェンジアップに対して、フルスイングを仕掛けて来た。僕はこの場面が今でも脳裏にこびりついている。
「あそこまで振れるのは恐ろしいな・・・」
試合を眺めているだけの僕がそう感じたのだから、カープバッテリーは、相当、怖さを感じたんじゃないか。僕は勝手に思っている。
なぜそこまで怖さを感じるのか?
そう。ブンブン振り回すだけの怖さじゃないのだ。いや、ルーキーということを考えれば、振れるだけでも十分魅力的なんだけど。けれども、森下は、その一つ二つ上を行く怖さがある。
それが、ここまで前述してきた、対応力の高さにあるわけだ。要するに、追い込まれる前と、追い込まれた後とで、別人のようなバッティングスタイルになる。まるでプロで長年メシを食って来たような巧みさを、彼のスイングから感じたわけだ。
おそらく森下は決め打ちしてきたのだろう。次のボールはここらへんのコースにこの球種が来る。それが来ると踏んでのスイング。結果、読み通り来なかったことで、“とんでもないボール球” に手を出した。
並大抵のバッターじゃないなと改めて感服させられた。もし僕がピッチャーだったら「あれが読み通りパチンとハマればどこまで飛ばすんだろう・・・」と戦々恐々としてしまう。
遠藤はどう思ったんだろう。願わくば「そんなボール球に手を出してくれるの?ラッキー儲かった」ぐらいに構えていて欲しい。僕のような弱気な心では、戦う前から負けてしまうから。