#47【夢日記】ダンスの大会で失態をさらし途中退室を命じられる
こんな夢を見た。
僕はダンサーとして活動していた。
プロを志すアマチュアダンサーだった。
どうやら、目前に迫る大会に向けて、日夜、厳しい練習にはげんでいるようだが、自分が思い描くプラン通りにコトが運んでおらず、フラストレーションが溜まっているようだった。
それでも、やぶれかぶれになることはなく、四苦八苦しつつも、自己をコントロールして、練習に精を出していた。
そんな努力の甲斐もあってか、当初、予定していたプラン通りとは行かずとも、なんとか「これぐらいのパフォーマンスを出せれば本番でもちゃんと出来るんじゃないかな」と、自分の中で自信を持てるぐらいには、精度を上げていくことが出来た。
本番の日に、審査員の前で披露する演目は、だいぶ前から決まっていた。問題は精度を上げることだった。ココに関しては、元々、自分の得意分野だと自負していたのだ。
演目がはじめから決まっておらず、審査員の方に「○○というダンスを披露しなさい」と言われたり「△△の雰囲気で自由に演じてみなさい」と言われたりするのは、正直、自分の苦手分野だった。
だけど、今回は違う。どんなダンスが審査員に求められているのかは、日時が発表された時点で分かっていた。それに、振り付けも、自分で創作するのではなく、決められた動きを、どれだけ洗練させられるか、という部分が重要だった。
だからこそ、僕は、いつも以上に気合いが入っていた。ここで魅せずにいつ魅せるんだ。男だったら、やる時はやらんとあかんだろう、と。
※「男だったら〜」という発言は、ジェンダーフリーの現代において、時代錯誤と取られかねない言い回しなので、あんまり使わない方が無難じゃないかな、と思っています。
そんな中で、本番を迎えた。
「○○さん(僕の苗字)、入ってください」
審査を行う部屋に案内され、僕は、緊張した面持ちでドアを開け、静かに、入室した。
そこには、3人の審査員の方が居た。
3人とも、難しい顔をして、こちらを見ている。
とてもじゃないが、ダンサーには見えない。
そんな様子をうかがっていると、ただでさえ緊張していた身体が、余計にこわばってくるのを感じた。
「ダメだダメだ。これではいけない」
僕は、自らにそう言い聞かせながら、ダンスが踊れる準備、心の準備と体の準備を、同時並行で、急ピッチで進めて行った。
審査員の一人が口を開いた。
「じゃあ早速ですけども、お願いします」
そうだ。
今回は初めから段取りが決まっている。
こちらもそういう腹積もりで臨んでいた。
ただ、分かっていながらも、「思ったより唐突に始まるんだな」と、若干、心の準備が、追い付いていなかったようにも、思われた。
それが、失敗の始まりだったのかもしれない。
・・・。
「ここまで出来ればもう大丈夫。あとは審査員の前で堂々と披露するだけだ。これで上手く行かなくても悔いはない!」
確かに、そう思えていたのだ。
練習の段階では。
それぐらい、僕の中で、完璧に近いパフォーマンスを、それなりに高い安定感を持って、コンスタントに発揮することが出来ていた。
言葉に嘘偽りはなく「これでダメなら仕方ない」と、本心本音で言うことも出来る状態だった。
しかし。
僕は、本番で、大きなミスを犯したのだ。
「これでダメなら仕方ない」とは、到底思えないぐらいの、大失態を。
練習では、何度も何度も繰り返して踊り、体に覚え込ませていた演目であったにもかかわらず、僕は、途中で、フワッと、飛んでしまったのだ。
(あれっ・・・)
(次はどんな動作だっけ・・・)
(ヤバい・・・)
そう思い始めた時には、もうどうしようもない。僕の身体は、ピタッと、完全に止まってしまった。
審査室に重たい空気が流れる。
最初に、始まりの合図を行なった審査員とは別の方が、気まずい雰囲気を煙たがるように、ポツリと言った。
「コホン(咳払い)」
「頭には入っているんだろう?」
「リズムやテンポのことはもういいから」
「とりあえず最後まで踊り切りなさい」
そう促されても、僕は、押し黙ったまま、難しい表情を浮かべて、どこを見ているのか分からないような視線で、目も虚ろな状態で、ただただ、突っ立っていた。
「どうしたの?」
「後の人も控えているんだよ?」
僕は「目の前の審査員だけでなく、他の人、その他諸々の関係者各位に迷惑をかけているんだ」ということに気付いた時点で、ハッと我に返った。
それでも、身体は動かない。
僕は、審査員の急かすような口ぶりに対して、ダンスで答えるのではなく、否、ダンスで答えることが出来なかったために、重たい口を開いて、こう答えた。
「それが、頭が真っ白になって・・・」
「忘れてしまったんです・・・」
「途中からでは、ちょっと・・・」
「一連の動作で覚えているというのか・・・」
神にも誓って言えるのだが、僕は、別になにも「もう一度はじめから俺のダンスを見てくれ!」「次はちゃんと踊れるから!」と、審査員の方々に、情けを乞いたいわけではなかった。
ただ、ありのままの真実を、答えただけだった。
僕は、厳密に言えば、本番で披露するダンスの演目が、頭に入っていなかったのだ。
頭に入れるのではなく、身体に覚え込ませていたのだ。
「『つう』と言えば『かあ』と答える」と言った具合に、この動作の次はこの動作、という風に、演目を、1セット丸々、一連の動作で、数珠繋ぎにしていたのだ。
だから、途中で止まってしまったが、最後まで続けて良いと許可が出たから、止まった箇所から再開する、ということが、出来なかったのだ。
しかし、こんな状況下で、「なぜ僕は途中から再開することが出来ないのか」を、理路整然と答えるのは、ほぼ不可能だった。
そして、審査員の方々にも、僕の伝え方が悪かったのか、真意とは違った形で、受け取られてしまったらしかった。
ここまで口を開くことなく静観していた審査員が、痺れを切らしたように、こう答えた。
「あなたのダンスをまたイチから見ろって?」
「僕らだってそんなに暇じゃないんだよ?」
「他の人の気持ちを考えたことはある?」
「『私だけを見て!』と思っていない?」
捲し立てるように、更に続けた。
「表現者を志す人によくいるんだよ」
「あなたみたいに思い上がった人がね」
「そういう態度を直すとこから始めなさい」
「もう今日はいいから。お疲れ様でした」
そう吐き捨てると、残りの2人の審査員が顔を見合わせるのも気にせず、「しっしっ」といったような手の合図で、退室を促された。
僕は、部屋から出る他はなかった。
退室して廊下に出ると、何事もなかったように、係員の人が、次の参加者の名を呼んだ。
失意の念に駆られながら、僕は目を覚ました。