【夢日記】川上憲伸と霧吹きスプレー
僕は川上憲伸と共に生活していた。関係性は対等ではなさそうだった。僕は使用人のような立場で川上憲伸が住む豪邸の一室で寝起きしながら身の回りの世話をしているみたいだった。
僕は川上憲伸が気を悪くしないように細心の注意を払いながら生活していた。とはいえ、川上憲伸が気難しい人というわけでもない。僕のような使用人に対しても朗らかに接してくれるし、むしろ「なにオドオドしとるんや!w」とおどけながら、僕の肩をコツンと小突いてきたり、相手の方からスキンシップを取ってきてくれていた。
強いて言うと、その「コツン」が「ゴツン」ぐらいの時があって、肩をさすりたくなる時も、あるにはあった。けれども、全く悪気が無いのは伝わってきたので、気に病むことのほどではなかった。アスリートゆえに、力加減を調節しているつもりでも、僕みたいな一般人からすると、それでもやっぱり強かった、みたいなことだろうと思う。そもそも、身体を鍛えていない僕にも責任がある。
川上憲伸が風呂から上がって来ると「お〜い、ちょっと来てくれ〜」と、僕にお声が掛かった。このタイミングで呼ばれるのは「俺の身体に霧吹きスプレーをシュッシュッとかけてくれ」という意味であると分かっていた僕は、ソレを片手に、川上憲伸の寝室にまで出向いた。
川上憲伸は「おう。いつもの頼むわ」と、仰向けになって、ベッドにゴロンとなっていた。ボクサーパンツ一枚で、寝ながら見ることが出来るスタンドらしきものを使って、iPadで映画かなにかを見ている。この光景も見慣れている。川上憲伸のナイトルーティンの一つと言っても差し支えないだろう。
僕はいつものように霧吹きスプレーを川上憲伸にかけていた。この仕事は何回も経験をしているので既に慣れっこだ。けれども、どんな成分を川上憲伸の体に吹きかけているのかは、よくわからなかった。最初に「コイツでシュッシュッとやってくれへん?」と言ってポンと手渡されただけなので、中に何か入ってるのか、僕には皆目見当がつかない。
おそらく「霧吹きスプレーの中身って何が入ってるんですか?」と聞いたら、「おう、コイツはな・・・」と気さくに応えてくれるだろう。でも、なぜか聞けない自分が居る。それは、映画かなにかを見入っているのを邪魔したくない、という気持ちから来ているのだろうか。であれば、聞くべきタイミングは今じゃない。気軽に聞ける状況の時に、聞けば良いさ。
ここまで考えて、僕なりの結論に達したかと思いきや、今度は別のことに思い煩った。「気軽に聞けそうな状況であったとしても気軽に聞いていないのではないか?」。確かにそうだ。川上憲伸がリビングでくつろいでボーッとしている時でも「ひとり時間を邪魔したら悪いよな」とか思って、こっちから話しかけられなかったりする。そうしていると、川上憲伸の方から「なあ、今日のメシやけど〜」などと話しかけてきて、僕が聞きたかったことは心の奥底に沈めて、そのまま、聞く機会を逸する、そんなことばかりを繰り返している気もする。
思い立ったが吉日、ではないのか。たとえ映画かなにかを見ている途中であったとしても、だ。とりあえずポンと聞いてみたらいいじゃないか。もしも「今、コッチ(映画かなにか)がええところやから、あとでな〜」と言われたって、別にいいじゃないか。それで気分を害するような器の小さい方ではないのは、とっくの前から分かっているじゃないか。川上憲伸は寛大なお方だ。むしろ、細かなことにいちいち気にしている方が、かえって失礼に当たるんじゃないのか?
僕は、自問自答を経て、意を決して「よし、聞こう!」と腹を決めた。霧吹きスプレーを身体にかけ終わったら「そういえば、このスプレーって、どんな成分が入ってるんですか?結構サラサラしてますよね」と聞く。文言まで決めた。これならいける。たとえどんなリアクションがかえって来たとしても気にしない。気にし過ぎない。
僕の質問ボルテージが最高潮にまで高まった中、霧吹きスプレーをシュッと吹きかけた時に、事件は起きた。
「わっ、なにするんや!」
あろうことか、僕は、川上憲伸の身体ではなく、川上憲伸の顔に、霧吹きスプレーを吹きかけてしまったのだ。彼は映画かなにかを見ている状態だったので、おそらく目は開けていたことだろう。そこに突然、霧吹きスプレーをかけられた。目に入った可能性も高い。これはマズい。とんだ失態をおかしてしまった。
僕は「あっ、すいません、すいません・・・」と、しどろもどろになりながら、謝罪の弁を続けていた。けれども、川上憲伸は、朗らかな態度を崩すことなく「もう〜、勘弁してやあ〜w」と、足で他の身体をチョンチョンッと小突いてくるだけだった。「チョンチョン」というよりも「コツンコツン」と「ゴツンゴツン」の間ぐらいの力だった気もするが、川上憲伸にとっては「チョンチョン」であることは容易に窺えた。肉体的痛みと比べると精神的痛みは無に等しかったので、僕は「やっぱり器が広いお方だなぁ」と思った。
結局、今回も聞けずじまいに終わった。
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