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月うさぎ

今日22時に月を見ようよ。
鼓動が速くなる。突然の好きな人からの誘い。仲は良いと思う。二人で遊んだとかはまだない。
「そんな夜に外出れるの?」
「違うよ。それぞれの家で月を見るの!さっき今日の月は綺麗だって理科の先生が言ってたじゃない」
その言葉を聞いて、鼓動も落ち着いてきた。冷静に考えよう。遊んだ事もない男と月を見るなんて、ありえないじゃないか。
それでも、そんな提案をしてくれたことだけで嬉しい。今ここが教室じゃなくて、部屋だったら…。舞い踊っただろう。
その後の授業の記憶はない。隣で見るわけでもないのに、浮かれている。それがよくわかった。逆に悲しくもなった。
それでも進展のなかった関係が進んだようで嬉しかった。

夜までは長かった。生まれて初めてか。いや、遠足の前日くらい長く感じた。22時とかいういつも何気ない顔で登場する時間は、ゆったりと歩いてくる。
なぜか僕は緊張していた。ただ、一人で月を見るだけなのに。彼女と話すわけでもないのに。
アラームをセットした。それまで、目をつぶり、空を見上げようと思った。気持ちが高まりすぎて、3分前には空を見上げる。
暗い世界へ引き摺り込まれる。ものすごく長い3分間。こないだのワールドカップのアディショナルタイムよりも長く、1秒が刻まれていた。
目をつぶると彼女が笑っていた。月が綺麗だよって喜んでいる姿が。もうこのままでもいい。そう思っていた矢先、アラームが鳴る。
瞬間的に目を開けた。
月が綺麗だった。あぁ、うさぎが踊っている。月の中で楽しそうに。僕も踊るとしよう。うさぎには、地球で舞う人間が見えているだろうか。
彼女は隣にいない。彼女の声も届かない。それでも、今この瞬間同じ月を見ている。心がつながっているように感じた。学校にいるときよりも身近に。
連絡をしようと携帯を開く。その時に、月が綺麗だよって連絡がきた。彼女からだった。タイミングが同じだよって笑う。
君が好きだよって打ち込む。それを消す。顔が赤くなり、夜風でそれを覚ました。
返信に少し悩んだが、これにしよう。

「うさぎが踊ってるよ。僕たちも踊らない?」

うさぎには、携帯を見ながら顔が赤くなる人間が見えているだろうか。


空見上げ
踊るうさぎと
舞う私
貴女と同じ
月を見ていて

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