皆を照らして
「みんなでお月見しない?」
夏実が高崎ゼミの人たちに声をかける。9月にもなり、少しずつ秋の訪れを感じる。
彼女を好きになって2年。振られて1年が経った。彼女も僕もそのことは気にせず、過ごせている。
ゼミのみんなは、お月見に賛同している。細かくなんて言っているかは、わからない。ただ、この盛り上がりからそう感じる。
「北村君も行くでしょ?」
彼女が顔を近づける。その距離に少し驚いて曖昧な返事になった。振られたとはいえ、こういう無神経なところが夏実にはある。
好意はないとしても、好きだったという壁が僕の中で距離を企てる。結局、彼女の押しに負け、お月見には行くことになった。
この押しに勝てる人がいるのだろうか。あの無邪気に笑う姿は、否定を否定してくれる。
今日の夜、高崎ゼミの14人は、お月見をすることになった。
月が綺麗に輝き始め、ゼミのみんなは、お酒を飲みお祭り騒ぎ。お祭りの中にいるのは好きではないが、お祭りを見るのは好きだ。
みんなが騒いでるのを見ながら、缶ビールを片手に煙草を吸う。
秋の月は綺麗だ。あんまりどの季節が好きとかはない。ただ、秋に見る月は、昔の人たちと繋がっている感じがする。それだけのこと。月がというより、その感情が綺麗なのかもしれない。
そんな時、騒いでる夏実と目が合った。そして、微笑んだ。僕には、彼女を中心に騒いでるように感じた。夏実がみんなを明るくしている。
「これじゃ、お夏見だわ」
頭に浮かんだことが幼稚染みてて一人で笑った。僕は、月に向かって煙を吐いた。
「北村君も楽しんでるね。こっちに来れば良いのに」
いつの間にか、夏実は後ろにいた。
「楽しんでるように見える?」
少し胸の鼓動が早まった気がした。それが、ばれないように冷静を装って答える。嫌味っぽく聞こえてしまうかもしれない。本当に冷静に発言を考えられたのは、言葉を音にした後だった。
「気づいてないの?北村君楽しんでる時しか、煙草吸わないよ」
確かに日常的に吸うわけじゃない。大学の喫煙所や家で吸ったことはないと思った。新しい発見を夏実に言われてすることがおかしくてまた、一人で笑った。
「月はなんで綺麗なんだろうね」
静かな夜空の下でその言葉が響いた。お祭り騒ぎの時と違って、彼女が月を眺める眼差しは優しかった。
「自分で光ってないからね。太陽の光を良いとこ取りしてるんだよ」
「それでも、私たちを照らしてくれる。月ってすごいね」
そう言いながら微笑んだ。その優しい眼差しで。そのほほえみがみんなを照らしているよ。その言葉は、音にならなかった。
「やっぱり秋が好きだなぁ。北村君は秋好き?」
「夏が好きなわけじゃないんだ。夏実なのに」
「夏に生まれただけです。関係ないよ〜。暑いし日焼けするし、夏は苦手かな」
そんな彼女の肌は、星のように白い。確かに夏とは真反対に属しているように見える。
「夏が好きだよ」
「えっ、どうして??」
「秘密」
僕は、なぜかこの理由を秘密にした。いや、頭の中で夏実が好きだよって言ってしまったように感じた。そんなこと言うはずがないのに。
彼女は、なんで??と疑問をずっと投げかけてくる。また、押しに負けてしまうかな。
それでも、君の誕生日があるからなんて理由は隠しておこう。
まだ夏実のことが好きだ。その言葉を音にしないように、煙草に火をつけて。
気づいてないの?君が笑ってる時しか、煙草吸わないよ。
頭に浮かんだ言葉がおかしくて、また一人で笑った。
太陽に
照らされた月に
照らされる
君のほほえみ
皆を照らして