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オープンソース戦略の無限の可能性(前編)
2010年にbaserCMSというオープンソースをリリースしてから13年、長いなあ・・・。最近、バージョン5という最新版をリリースしたこともあり、これまでを振り返りつつタイトルの件についても書いてみたいと思う。
自己紹介とbaserCMSの起源
江頭竜二と申します、#note初投稿 です。株式会社キャッチアップというシステム会社を経営しており、今回のテーマである「baserCMS」のファウンダーでもあります。
会社を設立する前の2007年頃、最初、僕はフリーランスのエンジニアとして、提案から納品まで全て一人で行っていました。
クライアントごとに一つ一つ手作り。なわけはなく、エンジニアだから再利用したい。同じコードを2回以上書きたくない。というわけで、まずはライブラリ化から始めます。
次第に、クライアントごとの要求に対応できるライブラリを作る必要が出てきました。それに対応するため振る舞いを設定値によって変更できるようにしていきます。
Web系のお仕事として特にメールフォームが多かったんですが、設定値の切り替えで
は限界が来てしまった。そこで、設定内容をデータベース化し、管理画面でメールフォームの項目を自由に登録できるようにします。
その頃からフレームワークにCakePHPを採用することに。
ライブラリ化していくと問題が出てくるのがバグの対応。一つの納品先でバグが見つかると他の納品先でも同じバグが存在する可能性が。当時はバージョン管理も普及していなかったので(Subversionの初版は2000年らしい!)、納品先ごとに目視チェックで修正するしかない。
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また、当時、コーポレートサイトの新着情報のオーダーも多かった。
そういうブログ的な仕組みは、当時、Movable Type が主流でしたが、オープンソースの利用も少しずつ企業の理解を得られるようになってきていて、WordPressのオーダーもそのあたりから増えていったように思います。
ただ、当時、WordPressには、日本語がまともに扱えるメールフォームの仕組みがまだ無かったので、僕がつくったWebサイトのライブラリと WordPress や Movable Type をセットで納品していた記憶があります。
その後、クライアントからの要求は徐々に複雑化していき、そうすると提供していた複数のパッケージが組み合わさった「イビツな仕組み」もどんどん複雑になり、管理が難しくなっていきます。
では、メンテナンス性をどう改善するか。僕自身が楽になるためにはどうすればいいか。
その答えとして、僕が作った「Webサイトのライブラリ」にシンプルなブログの仕組みを組み込み、一元管理できるようにする事を選びました。そして、このライブラリにも「baserCMS」という名前を付けました。2009年ごろのことだったかな?
当時のライブラリ(baserCMS)の基本セット
Webページ作成機能
メールフォーム機能
ブログ機能
フィードリーダー機能
その頃には、Subversionも導入し、タグを打つことも習得していたので、メンテナンスはかなり容易になっていました。
「これ販売できないかな?」とも思いましたが、フリーランスとして1人でやっているので、納品とメンテナンスだけでサポートまでは手が回らない。また、たとえ販売したとしてもそこから広がりがあるとは思えなかった。
そして、そもそもこのbaserCMSに需要があるのかな。と考えていました。
なぜオープンソースを選んだのか
あれは2009年、天神の「もつ鍋24」でのこと。
コミュニティで知り合った ヌーラボの橋本さん に相談したところ「これは販売できるレベルにはなっている」と言ってもらい少し自信がついた。
ただ、やっぱりサポートのことなどを考えると「売る」というのはやはり難しいなと。
「じゃあオープンソースにしたら?」と橋本さん。
え?オープンソースを使う側の僕が、提供する側に?
せっかく作ったプロダクトをたくさんの人に使ってもらえるならそれもアリかな。
では、どうやって多くの人に使ってもらえるようにする?
Web制作会社が企業からWebサイトを受託して納品する時に、最低限必要な機能がはじめから揃っていて、導入しやすく、さらにメンテナンスがしやすいパッケージを目指すというのはどうだろう?
後からその場に合流してくれた CGFMの金内さん(通称:我流さん) に「コーポレートサイトにちょうどいい」というキャッチフレーズを頂き、そこからオープンソースとして提供する事にしました。
オープンソースとして提供するにあたって、当時参加していた『サト研』(2008年からスタートした『サイト研究会(仮)』という福岡のIT系コミュニティ)で協力者を募ることにしました。
サト研で、baserCMSについて話すと、何人かの方が興味を持ってくれ、協力してくれることに。「baserCMS普及委員会(仮)」というコミュニティを作り、そこで活動することになりました。
まずは、クローズドなフォーラムを作って、そこに参加してもらい、この初期段階ではクローズドリリースとしてパッケージを配布し、参加者にバグを叩き出してもらう。
お陰様で2010年2月に初の正式版をリリースすることができました。
(その後もバグまみれで色んな方にご迷惑をおかけしましたが、、、)
その後、協力してくれていた、当時フリーランスデザイナーの 中村美鈴さん から提案が。
「魅力を伝えるWebサイトをちゃんと作ろう」
当時、数年前のリーマンショックの煽り受けてか、広告業界は停滞気味。僕自身も仕事がなくて、お金がほとんどない状態。そんな状況で渋っていると彼女はこう言います。
「お金はいらない、みんなで協力して作ろう」
こんなことがあるの?驚きました。
こんなこと言ってくれる人に初めて出会いました。
中村さんの呼びかけで、コミュニティの何人かがWebサイト制作に協力してくれることになりました。ロゴデザイン、サイトデザイン、HTMLコーディング、CMS組み込み等、それぞれが担当分野で素晴らしいWebサイトが出来上がりました。本当にありがたかった。
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OSCへの参加で風向きが変わった
そして、2010年12月、コミュニティのメンバーと OSC(オープンソースカンファレンス Fukuoka) に出展。これが草の根活動の第一歩となりました。
現在、OSCは、コロナ禍の影響でオンラインで開催されていますが、当時はオフライン開催前提で来場者も多く、Web業界の人たちも多数参加していてお祭りみたいに盛り上がっていました。
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その時のOSC Fukuokaは、福岡工業大学で開催されたのですが、ちょうどその少し前に、偶然にもその大学の公式Webサイトのリニューアル提案が行われており、ある会社からbaserCMSを利用する提案したいと相談を受けていました。
提案先のWebサイトは数千ページの巨大サイト。
当時、baserCMSはそれまで大規模なサイトへの導入実績がなく、少し不安でしたが、なんとか実績を作りたく、全力で提案を応援することにしました。
OSCに出展し、精力的にPR活動をしたことが功を奏してか、なんとか受注・・・!
そこから少しずつ風向きが変わっていったように思えます。
そして、受注を獲得した翌年の2011年、baserCMSのWebサイトのアクセス数が急に伸びます。何故だろうと思って調べてみたところ、baserCMSが、レンタルサーバーの簡単インストールに採用された様子。そのサービスを提供していたのは、ドメインキング、 heteml でした。(その後、ロリポップにも搭載して頂きましたが、その際のアクセス数の伸び方はもっとすごかった)
追い風吹いてる!
そして、全国行脚へ
そして、2回目の OSC Fukuokaに参加するのですが、その時に福岡大学の濱田先生という方から「自分の応援するオープンソースを普及させたくて全国のオープンソースカンファレンスを巡っている人が何人もいる」ということを教えて頂きました。
すごい!でも全国を巡るなんて無理だ。お金もかかるし飛行機のチケットを自分で取れるか心配だ。(手配系がすごく苦手)そんなことで渋っていると。ITMの清末さんという、以前からちょっとだけ知り合いで、baserCMSを少し応援してくれていた方から意外な提案が。
「一緒に全国行きますよ」
なんと。しかも当たり前のように言うなあ。あなたのメリットはあるの?と思いつつも、その後押しで全国行脚を決断します。
そこからは、毎月、清末さんが僕の飛行機を予約してくれているようで、勝手に予約メールが飛んできます。(ありがたい!)
そして福岡空港で待ち合わせ、「今月もよろしくお願いします」と、飛行機に乗り込みます。
全国行脚1年目は、愛媛から始まり、名古屋、北海道、仙台、京都、東京、沖縄、広島と、福岡以外の8箇所を巡りました。
当時、ぼんやりと戦略とは言えない程度のものですが、全国行脚において次のようなイメージを描いていました。
1周目:全国の各エリアの幹事を作る
2周目:幹事にセミナーで発表してもらいそのサポートに入る
3周目:幹事を中心に各エリアのユーザーと懇親会を開催
実際に、全部実行もできたかな。きつかったけど。
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急にですが、自分自身の話をすると、僕はけっこう自己中で、自分のことしか考えていない感じの人間です。誰かの役に立つだとか、社会に貢献するだとかには無縁な感じでした。
ただ、最初は、baserCMSのことを知らない人が多かったのですが、普及のために全国のOSCに出展していくうち、徐々に知ってくれる人が増え、実際に使ってくれている人とも出会いました。使いにくいだとかダメ出しの意見もありましたが、応援や感謝の言葉も多く頂きました。
あれ?いつの間にか社会に貢献できてきてる?こんな僕が?
なんだか不思議な感じがしていたことを覚えています。
とはいえ、自身が作ったソフトウェアを知らない人が使ってくれているというだけで、エンジニア冥利に尽きる。ありがたい。
後編はこちら。