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小説家になろう 異世界小説の歴史 〜異世界小説の起源はなんなのかという話 ・ 実は追放は2回に分けて流行していたという話 ・ 悪役令嬢はなぜ誕生したのかという話 ...etc〜

こんにちは、普段はNoveLandという小説やゲームのシナリオなどのためのストーリーエディターを作っています。Ryuonです。

僕は約2年ほど前にYoutubeでWeb小説の歴史に関するゆっくり解説動画をあげていましたが、リアルの方が忙しくなってしまったことと、NoveLandを作りたいという思いが強くなってしまったため途中で断念しました。

今回は当時に結局動画化できなかったネタを供養しようと思います。


全体的な話として、異世界小説=異世界転生と言えるのは実は小説家になろうの歴史の中ではわりと最近

Web小説に詳しい人でも、異世界小説といえば転生だよねって思っている方は結構いることでしょう。

小説家になろうの運営が開始されたのが、2004年4月2日だったので今日に至るまで約二十年間ほどの歴史があります。

小説家になろうには異世界に関する二大キーワードとして、「異世界転移」と「異世界転生」が存在していますが、毎年投稿される作品内において異世界転生の作品の数が異世界転移の数を抜いたのは、実はここ数年のことなのです。

これに関しては言葉で説明するよりも、目で見た方が早いので以下を見てください。

このグラフは小説家になろうに掲載された全作品のうち、異世界転移と異世界転生というタグがついた小説の作品数の比率を各年ごとに求めてグラフ化したものです。

2010年代前半になるまで異世界転生の割合が少なかったことや、初めて「異世界転生の作品数 > 異世界転移の作品数」となったのは2020年であったことなどがこのグラフから読み取れます。

無職転生や天スラなど、有名な作品が昔から多数存在していながら、転移と転生のそれぞれが抜かしたり抜かされたりするわけでもなく、綺麗に「異世界転移 -> 異世界転生」という流れがあります。

これは偶然なのでしょうか?

少なくとも僕の答えは違っています。
というのも、異世界転移こそが最もシンプルかつ歴史のある異世界モノであると思っているからです。

どういうことなのか、順に追っていきましょう。

異世界小説の原点 「異世界転移」

異世界小説で一番最初に流行したのは異世界転移

まず、事実だけを最初にお伝えすると、異世界小説のなかで一番最初になろうのランキングに載るようになったのは異世界転移です。

時期としては2000年代後半になり、小説家になろうの代表作としては「ウォルテニア戦記」などが挙げられ、2009年に連載が開始されこの記事の執筆時点でいまだに総合累計ランキング172位となっています。

また、この時代の異世界転移の特徴として重要な点は、一人で転移しているということが挙げられます。

これらについては以下の過去ランキングのデータから各作品いついて追ってみるとわかり、実際異世界転生は2010年代前半になるまでほとんどありません。

異世界テンプレを形成する上で重要な観点となる創作コストパフォーマンス

異世界転生、悪役令嬢、追放ものなど、これらの異世界小説のテンプレには必ず共通して当てはまることがあります。
それは、いずれも創作コストパフォーマンスが高いということであり、以下の側面があります。

  • 専門的な知識を必要とせず、世界観の説明が簡単にできる(コスト)

  • 深く工夫を凝らさなくてもそれなりに面白い(パフォーマンス)

要するに、作りやすくて面白いということです。

まず、前提としてWeb小説を投稿する作者のほとんどは素人です。
ミクロな視点で個々の作品を見れば、転生という発想は昔からあったとしても、マクロな視点で見ればなんの助走もなしにその発想ができる作者は少数であり、その少数の作者がランキングの上位に食い込み、読者や作者の間で少しずつ常識となることでテンプレが形成されると僕は考えています。

先ほど 異世界転移 -> 異世界転生 という流れについて紹介しましたが、それぞれは言い換えると以下のようになります。

  1. 異世界転移 (異世界にオリジナルの主人公が迷い込む)

  2. 異世界転生 (異世界にオリジナルの主人公の魂が迷い込む)

まず最初に主人公が現実世界の状態のまま異世界へと移動する異世界転移が流行り、その次に主人公の魂だけが移動し赤ちゃんや人外として生まれ変わる異世界転生が流行った。

さて、皆さんはこれを見てどう思うでしょうか?
ひょっとしたらこう言えるのではないでしょうか?

単純なアイディアから、より複雑なアイディアへと変化してきた

仮にこの仮説が正しいとしましょう。
であれば、異世界転移よりもさらに前により単純な発想によって作られた作品群があるのではないか?
僕はこれを最初に見た時にそう思わずにはいられませんでした。

異世界転移の起源はゼロの使い魔の二次創作?

では、異世界小説の起源はいったいなんなのでしょうか?
その答えはネットで検索すると簡単に様々な情報がヒットします。その中でも、異世界小説はゼロの使い魔の二次創作が大元であるといわれることが多いです。

https://ncode.syosetu.com/n5028db/

確かに、ゼロの使い魔の冒頭部分の異世界召喚については現在の異世界転移の作風ととてもよく似通っており、アニメが放送されたのが2006年なのでタイミング的にも異世界小説の先駆けという表現もあってはいそうです。
しかしながら、僕自身がWeb小説の世界に足を踏み入れたのは2015年ごろであり、二次創作の作品にはあまり興味がないため、当時の様子についてまったくもって知りません。
そのため、ゼロの使い魔が異世界小説に対して大きな影響を与えたと当時を知っている人に言われたとしても、それを意見として理解はできるけど史実として納得することはできずにいました。

もう少し誰の目で見てもはっきりとわかるような証拠はないのだろうか、そう思った僕はさらに調査をすすめました。
そして、当時の様子について調べていく過程で、とある単語を見つけることになります。

それは「オリ主」という単語です。

オリ主とは、オリジナル主人公の略で おりしゅ とか おりぬし と読み、二次創作作品に主人公として登場する、書き手のオリジナルキャラクターのことを指します。
(基本的には一次創作で使われることはないのですが、小説家になろうでは基本的に二次創作が禁止されていることもあり、誤用でオリ主というキーワードが一次創作で使われている作品が散見されます)

さて、このオリ主という単語ですが、なぜ僕がこの単語に注目したのかと言うと、先ほど僕が提唱した「単純なアイディアから、より複雑なアイディアへと変化してきた」という仮説にドンピシャで当てはまるからです。

というのも、すでにある程度設定が作られており、読者に世界観を説明する必要もないため創作コストが低く、その設定は商業的に成功している程度には面白さが担保されているため、とても単純な発想で高い創作コストパフォーマンスを発揮できます。

先ほど紹介した転移と転生の流れにオリ主加え、創作コストが低い順に並べると以下のようになります。

  1. 二次創作のオリジナル主人公 (既存の作品の世界にオリジナルの主人公が迷い込む)

  2. 異世界転移 (オリジナルの異世界にオリジナルの主人公が迷い込む, 2000年代後半)

  3. 異世界転生 (オリジナルの異世界にオリジナルの主人公の魂が迷い込む, 2010年代前半)

ここで、もしも仮にゼロの使い魔のアニメが放送された時期の2006年と近い時期にオリ主という二次創作のジャンルが流行していたということが証明できれば、オリ主がゼロの使い魔の世界に召喚されるという二次創作の描写は一次創作にも大きく影響し、先ほど紹介したウォルテニア戦記のような異世界召喚という異世界転移の作品が大きく生み出されるようになった要因ということがいえることになりそうです。

ではオリ主という単語がいつ頃流行っていたのか、グラフを見てみましょう。
これには Google Trends というサービスを使います。
Google Trends はあるワードがいつ頃にどれくらい検索されたのかを調べることができ、複数のワードを追加することでそれぞれのワードの人気度合いを比較することが可能です。
この Google Trends に「オリ主」「ゼロの使い魔 ss」「異世界 小説」と入力してみた結果が以下になります。(ssは二次創作という意味を持ちます)

これをみると「ゼロの使い魔 ss」「オリ主」「異世界 小説」という順序になっていることがわかります。
「ゼロの使い魔 ss」というワードはアニメが放送された2006年7月に一気に伸びていますが、一方で「オリ主」というワードは概念なので登場してから言葉が定着するまではある程度のラグがあったことが予想されます。

つまり、オリ主という概念がジャンル化するほどに活発に作品が作られていた時期とゼロの使い魔の二次創作が流行していた時期はほぼ同時期であったということ、しかもその時期は異世界転移が流行する直前の時期であったということが言えそうです。

これにより、ゼロの使い魔が異世界小説の起源である、という当時を知る先人たちの主張についても納得ができそうです。

補足

ここまで、小説家になろうを中心に語りましたが、実は2000年代にWeb小説投稿サイトとして覇権を握っていたのは小説家になろうではなくArcadiaという掲示板サイトでした。

また、現在のなろうの原型ができたのは大幅なリニューアルが行われた2009年9月末のことであり、この時点ではまだランキングはありません。

2009年10月ごろの小説家を読もう!

2010年末に、総合評価の高い順検索結果から、現在のような日間/週間/月間/四半期ランキングの形式となり、人気の作品によりアクセスがしやすくなりました。

つまり、この頃の異世界小説は小説家になろうの外側で醸成されていき、徐々に小説家になろうへと浸透していったのだと言えそうですね。

異世界転移の作品は大きく分けて二種類に分化していった

ここまでの説明で、異世界小説のジャンルのうち最もシンプルかつ歴史があるのは異世界転移であることがわかりました。

当時の作家はこの異世界転移をベースに自分の作品を描くことになるのですが、ただ単に流行りを真似をすれば良いというわけではありません。
読者としては同じような作品ばかりでは飽きてしまうし、作者としてもオリジナリティを出すために新しい要素を追加する必要があるからです。

それぞれの作品にはそれぞれの独自性がありますが、異世界転移に加えられた新たな要素として、特に流行した手法が2つあります。
それぞれについてみていきましょう。

転生

まず、1つ目は皆さんもお馴染みの転生です。
これまでは、現実世界の主人公がその体のままで異世界に転移していましたが、新しい命として生まれ直すという形で魂のみが異世界に転移するという一捻りが加えられました。

異世界転生が流行し始めたのは2010年代前半で、「転生したらスライムだった件」や「無職転生」など、異世界小説の代名詞とも言えるような作品があり、それぞれ連載が開始されたのが2013年と2012年です。

この転生という手法は、神様からチートスキルを付与される転生ボーナスや異世界にて前世の知識を少年/少女時代から発揮することで、主人公上げをする描写が多くみられます。
いわゆる初級魔法を繰り出しただけで周囲がその凄まじい威力に驚き、「まった俺何かやっちゃいました?」ってやるやつですね。
転生先を自由に選べるので独自性も出しやすく種類も豊富で非常に人気のジャンルとして発展しました。

集団転移

続いて、異世界転生に並び異世界転移を発展させた2つ目の手法は集団転移です。
これまで主人公たちは一人で異世界に転移していましたが、だんだんとクラスごと転移されるようになったり、他人の異世界召喚に巻き込まれたりなど、複数人で異世界に転移するようになります。

集団転移が流行り始めた時期も異世界転生と大体同じ時期の2010年代前半であり、代表作は「盾の勇者の成り上がり」、「ありふれた職業で世界最強」などが該当し、それぞれ2012年と2013年に連載が開始されます。

この集団転移のよくある作風としては、一緒に転移した人たち全員にチート能力が与えられるも、主人公のみが不遇の能力が与えられてしまい、なんやかんやあって別行動することになり、その過程でチート能力を手に入れたり実は不遇だと思われていた能力が一番最強だったりして、一緒に異世界に転移してきたメンバーを見返す、といった内容が多くとても人気を集めていました。
代表作として挙げた2作品も、このストーリー展開に該当しています。

異世界転移/異世界転生 ランキング隔離

数々の代表作が生まれ、作家たちがそれぞれで試行錯誤を重ねることで多種多様な異世界小説が誕生していく中、ある出来事がおきました。

それは、2016年5月24日に小説家になろうで実施されたジャンルの再編成とランキングの仕様変更です。
特にランキングの仕様変更が大事なので以下に当時の発表内容を載せておきます。

要約すると、作品に現実世界から異世界への移動が要素として含まれている場合、異世界転移と異世界転生のキーワードをつけることを義務とし、異世界転移/異世界転生 専用のランキング用意してジャンル別のランキングからは排除するよ、ということです。

この仕様変更により、ランキングの画面はこんな感じに変わりました。

ランキング隔離直前の様子
ランキング隔離直後の様子

ちなみに、これまで何気なく異世界転移と異世界転生という言葉を使っていましたが、正式に呼ばれるようになったのはこの施策が実施された時からです。
異世界転生とは異なり、異世界転移については異世界迷い込み、異世界トリップ、異世界召喚などの表記揺れが多数ありましたが、これにより一つの呼び方に纏まりました。

転生/転移の隔離は異世界小説に対してどのような影響をもたらしたのか?

さて、ここからが本題です。
そもそもなぜ転生/転移がジャンル別ランキングから除外されることになったのでしょうか。
それは、各ジャンルのランキング上位を転生/転移の小説が独占し、小説家になろうはもはや異世界小説専門サイトになってしまっていたからです。
ジャンルの再編成が行われる前のジャンルは以下のように分けられていました。

「文学」「恋愛」「歴史」「推理」「ファンタジー」「SF」「ホラー」「コメディー」「冒険」「学園」「戦記」「童話」「詩」「エッセイ」「その他」

当時の転生/転移の流行っぷりについて、例えば、戦国武将などの歴史上の人物が異世界転移する作品には「歴史」が設定されていたり、今でいう「陰の実力者になりたくて!」みたいな勘違い系の主人公が異世界転生する話であれば「コメディー」が設定されていたり、子供向けの作品の童話にすら異世界というキーワードをランキングで見かけるくらいでした。

この施策には、異世界テンプレ小説をランキングから追い出し、他のジャンルの作品が表に露出する機会を増やすことで、作品の多様性を生み出したかったという運営の意図が伺えます。

さて、実際のところ、この施策に効果はあったのでしょうか?

結果的にいうと、このランキングの仕様変更により、解決できた問題とできなかった問題があります。

まず、異世界転生/異世界転移 の作品ばかりがランキングに乗ってしまっていたという問題、これについては見事に解決されました。
異世界へと行く描写が含まれている作品は専用のランキングが作られるようになり、UI的に一箇所にまとめられるようになったわけですから、該当しない作品が読者ユーザーの目に留まりやすくなりました。
これにより、転生/転移を行わなくてもポイントを獲得しやすくなり、運営の狙い通り現地の主人公の作品の数が増えることになります。

しかしながら、その一方で解決できなかった問題もありました。
それは、結局人気を集める作品はメジャーなジャンルのテンプレストーリーであり、マイナーなジャンルやストーリー展開はランキングに乗れず、ユーザーが発見することのできる作品の多様性が少ないままになってしまっていたということです。

ランキングの仕様は変更されました。しかし、読者たちに何か変化があったわけではありません。
果たして、そもそもそれまで読者たちがWeb小説に本当に求めていたものは、異世界転生/異世界転移だったのでしょうか?

その答えは先ほど紹介した、転生と集団転移という2大テンプレストーリーについてその後を追ってみるとわかります。
では、それぞれ詳しくみていきましょう。

現地転生

まず、異世界転生モノについてです。

改めて異世界転生モノのテンプレ要素を思い出してみましょう。
細かい部分についてはそれぞれで異なりますが、ほぼ全ての異世界転生の作品には以下のような特徴があります。

  • 現実世界の主人公が自分がいた世界よりも文明レベルの低い異世界に転生する

  • 転生ボーナスや前世の知識を活かして無双する

ランキングの仕様変更により、このストーリー展開ではポイントを獲得することが難しくなってしまいました。
ですが、依然として人気があったわけです。
そんな中、読者の需要を掴みつつ、ジャンル別ランキングに載るようにしたい、そう考えた作家たちによってとある手法が生み出されました。

それは、異世界の現地主人公が同じ世界の中で未来に転生するという手法です。
要するに、現実世界から異世界への移動がなくなりさえすれば良いのです。

この手法により、先ほど紹介した異世界転生の特徴は以下のように形を変えました。

  • 異世界の現地主人公が自分がいた時代よりも文明レベルの低い未来に転生する

  • 前世の力を発揮して無双する

前世の世界と比べると転生後の世界のレベルが低いのでこれまで異世界転生主人公がやっていたように初級魔法を披露しただけで「また俺何かやっちゃいました?」という描写を入れることが可能になる、というわけですね。

この現地転生の代表作は「失格紋の最強賢者」 「魔王学院の不適合者」などであり、それぞれ連載開始時期が2016年の12月と2017年で、なろうのランキングシステムが変わった後の時期と合致します。

異世界転生をランキングから除外したからといって、転生がランキングから消えると思ったか?

追放

続いて、集団転移についても見てみましょう。
集団転移のよくあるストーリー展開は以下でした。

集団で転移する -> 追い出される -> チート能力を得る or 実は強かった -> 追い出した人たちを見返す

異世界転生同様にこの集団転移についても、読者には人気がある、でもこのままではジャンル別ランキングに載ることができない、この問題を解決するための手法が編み出されました。
といっても、現地転生の解説を読んだ皆さんなら、それがどのような手法なのか簡単に想像がつくでしょう。
そうです、とにかく現実世界から異世界への移動がなくなりさえすれば良いのです。
よって、上記のストーリー展開は以下のように書き換えられます。

勇者パーティーから追い出される -> チート能力を得る or 実は強かった -> 追い出した人たちを見返す

よくある追放モノのテンプレですね。
ここまでの流れを理解できると、追放モノが流行ったのは単なる偶然などではなく、必然であったことがわかります。

代表作としては「真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました」、「勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う」が挙げられ、それぞれ2017年と2018年に連載が開始された作品です。

まとめ + おまけ

異世界転生/異世界転移 をランキングから除外したことにより、確かに現実世界から異世界に主人公が移動するという描写は減りました。
しかしながら、いわゆる異世界テンプレはその姿形を変えつつも、現地主人公たちの活躍によってバッチリとランキング上位に残り続けました。

そして、ちょうどこの時期から「なろう系」という言葉が一般に定着し始めます。

それ以前では小説家になろうの作品といえば 異世界転生/異世界転移 であり「影の実力者になりたくて!」や、「ヘルモード」など、依然として人気のジャンルではありましたが、そこに現地主人公も混ざることにより、転生転移関係なくとにかく舞台が異世界で主人公がテンプレを踏襲していればなろう系呼ばれるようになりました。

ちなみに、追放が流行り始めたこの2018年には「おっさん」というワードも一時的にですが流行します。
Webという技術が世に広まってからだいぶ月日が経ち、ユーザーの年齢が全体的に上がってきている、ということがこういったデータから読み取ることができます。

小説家になろうの暗黒の時代 〜追放ざまぁ〜

ランキングの仕様が変わったことにより小説家になろうの生態系が姿を変え、それもしばらく安定していた2020年初頭、急にとあるジャンルが爆発的に流行り始めます。

それは追放もとい、「追放ざまぁ」です。

以下のグラフは「タイトルに異世界を含む作品数」と「タイトルに追放を含む作品数」を並べたグラフです(本当は追放だけのグラフを用意したかったのですが、昔作ったグラフが見つからなかったので異世界付きで失礼します)
少し見づらいのですが、追放の作品数は2018年から増え始め、2019年に一度微減してから2020年に急増していることがわかります。
当時の小説家になろうに投稿された作品数全体は2018年、2019年、2020年と順々に増えていたわけですから、追放は2018年に一度ブームとなり、2019年に一度下火となってから2020年に2回目のブームを迎えていたことが言えそうです。

しかしながら、この2020年の第二次追放ブームは2018年の第一次追放ブームと明確に区別するべきだと僕は考えています。
なぜならば、2つの追放が流行っていた時期の作品を比較してみると第二次の方では、主人公を追放した側のキャラクターたちが没落していく様子が過剰なまでに描写されている、という特徴があるからです。

そのため、この時期の追放モノは単に追放と呼ぶのではなく、追放ざまぁと呼ばれています。

ではいったいなぜこの追放ざまぁがこんなにも流行ることになったのでしょうか?
追放ざまぁが流行し始めた時期である2020年の4月にあった出来事といえば一つしかありません。

それは新型コロナウイルスの流行とその蔓延防止のための緊急事態宣言です。
人々が未知のウイルスに健康的にも経済的にも不安を抱える中で、他人が落ちぶれていく様子を強く描写したこの追放ざまぁは、社会的なニーズととてもよくマッチしていたんじゃないかと僕は考えています。

また、ここで一つ補足しておくと、追放ざまぁが流行る少し前になろうの評価システムの仕様変更がありました。
そのため、追放モノが流行った理由はこれが原因なのではと考える人もいるかもしれません。
確かにこれも理由の一つとして考えられると思いますが、僕はこれだけでは1つのジャンルだけがあそこまで流行ってしまったことの根拠としては少し弱いと考えています。
なぜならば、ユーザーが求める物自体が変わらない限りシステムをどれだけいじっても人気を集めるストーリー展開に変化がないことは、すでにこれまでのランキングの歴史が証明しているからです。
(仮に特定ジャンルに対して優遇するようなシステムにしたとしても、外堀だけ変えただけで実質的に変わらない内容の作品がランキングの上位に来るし、逆に一切評価システムを変えなくても、男性ユーザーがカクヨムに流出すると現状のように女性向けの作品がランキング上位に来るようになる)

また、僕がこれだけコロナを根拠に出したがる理由は小説家になろうの外側にもあります。

というのも、YouTubeでも小説家になろうと似た傾向があったんじゃないかと考えているからです。
ちょうど冒頭で紹介したYouTubeチャンネルの活動をやっていた時期がこれくらいの時期だったので、当時の状況をそれなりに知っているのですが、当時はなろう系レビューと称して、この設定おかしくない?と重箱の隅をつつくようなツッコミ系の動画が流行っていました。
実際正しい指摘もあるのですが、中には少し言い過ぎなのではないかと思うような動画があったり、なろう小説を批判するためだけのチャンネルが登場したりもしており、とりあえずなろう系小説や漫画を面白おかしくディスってれば数字がとれる、そんな時代でした(今もかもしれないけど、当時は本当にひどかった……。実際に「なろう 叩き」とかでYouTube検索すると追放ざまぁが流行っていた時期の動画が多い、気がする……)

また、僕の肌感覚ですが、〇〇な人間の末路、みたいなタイトルで登場人物が老後に苦しむような展開の漫画動画もこの時期に急に増え始めたように思います。

この時代は、小説家になろうにかかわらず全てのコンテンツ投稿サービスにおいて、他人下げをすること自体が高い評価を受けやすい時期であったのではないでしょうか。

異世界小説の歴史まとめ

僕が異世界小説の歴史について調べていた2021年ごろまでの歴史をまとめると以下の図のようになります。

追放ざまぁの次にはタイトルに聖女とついた作品が流行したり、徐々に異世界恋愛の作品の数が増えていったなどの変化がありましたが、そのあたりの話については他の方に託そうと思います。

悪役令嬢ものについて

Youtubeチャンネルで動画化済みということもあり、ここまで一切触れてきませんでしたが、ここまできたら語りたくなってきたので、悪役令嬢についても触れます。
※実はあんまり詳しくないです

悪役令嬢ものが流行った理由

今でこそ女性向けの作品が流行っているなろうですが、2013年、まさに転生ものがランキングで当たり前に見かけるようになっていたこの頃、なろうの読者の人数は男性の方が多く、わりと偏っていました。
2019年時点になってしまいますが、以下の記事によると 男:女 = 7:3 です。

つまり、当時の女性向けの作品が総合ランキング上位に載るためには、必ず男性にもある程度評価される必要がありました。
そうなってくると、悪役令嬢ものが流行った理由はとてもシンプルで、男性でも楽しむことができるから、ということになります。

実際、悲惨な末路が確定しているゲームや小説のキャラに転生してしまった、という設定は男性向けのジャンルに対しても大きな影響を与えました。

たとえば有名どころでいうと、「没落予定なので、鍛治職人を目指す」などがあげられ、ゲームの中の没落貴族に転生してそのフラグを回避するために行動するような作品が数多く投稿されるようになります。
そして、これらの作品のキーワードにはもちろん悪役令嬢が設定されています。

悪役令嬢というジャンル名になった理由

個人的に悪役令嬢という名前になった理由の仮説が面白いので、紹介しようと思います。
というのも、女性向けジャンルで始まった流行とはいえ、悪役令嬢というジャンル名はやや具体的すぎると僕は考えており、男性ウケもいいので悪役転生モノや没落回避モノとかの方が適切にジャンル名を表現できていると思っているからです。

僕の中での結論としては、悪役令嬢という作品が誕生する上で最も大きな影響を与えた作品はこの2作品です。

それぞれ2012年と2013年に連載が開始した作品です。
謙虚堅実の方は悪役令嬢の元祖とも言われておりおそらくこれより以前に悪役令嬢のザ・テンプレ作品はなろうにはありません。
一方で、悪役令嬢後宮物語という作品なのですが、実はこちらは皆さんの想像するような悪役令嬢ものとは全く関係がありません。

しかしながら、一つの事実として以下の画像ようにこの二つの作品は全く同じ時期にランキング上位に掲載されていました。

2013年10月25日のジャンル別年間ランキングBEST3

悪役キャラクターとして転生し、悲惨な末路を迎えるのを回避する。この設定がある程度読者にとって人気があると気づき始めた作者たちは自分の作品に取り入れ始めます。
しかしながら、小説投稿サイトには数多くの作品が投稿されるため、設定が伝わるようにタイトルやキーワードを工夫しなければなりません。

通常の流行ジャンルの流れであれば「乙女ゲームの悪役キャラに転生したけど〜」といったようにタイトルで説明し始めてからジャンル名が定着します。
ですが、それが起こるよりも先に、この2作品が載っているランキング上位をリアルタイムで見ていた作者たちは、今流行っているこのテンプレは「悪役令嬢」という名前なのでは?と適当につけたことによってこの名前が始まったのではないか、というのが僕の仮説です。

以上が悪役令嬢についてでした。
婚約破棄とかについても語れればよかったのですが、僕は全く何も知らないので他の詳しい方がいつか似たような記事を書いてくれることを願います。

あとがき

再び宣伝になってしまいますが、ストーリーエディタNoveLandの方もよろしくお願いします!
執筆以外の作業時間をなくし、創作に充てる時間を最大化できるようなエディタを目指して作っています📚🖊️

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