個性が埋もれない、多様性のある小説投稿サイトを作りたい
皆さんにとって小説投稿サイトとは何でしょうか?
答えは人それぞれだと思いますが、僕は小説投稿サイトとは作品と物語に関わる全ての人とのマッチングサイトであると考えています。
今日まで、ストーリーエディタとしてサービスを提供してきたNoveLandですが、現在投稿サイト化を目指して開発を進めています。
この記事ではNoveLandがどのようなマッチングサイト、つまりは人と作品とが出会う場所を作ろうとしているのかを説明していこうと思います。
そろそろ新しい仕組みが欲しくない?
Web小説の歴史について少しだけ語ると、インターネット黎明期の本当の初期の頃は個人のHPから始まりました。
ですが、こういった状況では読者も作者も大変な労力を伴います。なぜならば、読者はネット上のあちこちから作家のHPのURLを探し出さなければなりませんし、作者はWeb技術の知識を身につけて公開作業を行う必要があるからです。
そんな中、この問題を解決したのが普段僕たちが利用している小説投稿サイトという一つのシステムでした。
投稿サイトができたことにより、僕たちは手軽に作品を読むことができたり、作品を公開したりすることができるようになったのです。
しかしながら、その手軽さゆえに現代の小説投稿サイトは、現在次なる問題を抱えてしまっています。
それは、小説投稿サイト上に投稿される作品の数が多くなり過ぎてしまっているということです。
これにより、一周回って昔と同様に作品を探すのが大変・読者に作品を見つけてもらうのが大変、という状態に陥ってしまっています。
こうした状況によっていくつか不便さが発生してしまっており、どれだけ不便かについて例をいくら挙げても挙げ切れないのですが、ここでは代表的なものを2つ取り上げます。
少数派にとってのランキングの機能不全
そもそも、ランキングってなんのためにあるのでしょうか?
答えは、読者がクオリティの高い作品を簡単に見つけられるようにするためです。
ランキングは現実的な時間で投稿サイトの中からいろんな作品に目を通すことができるのであれば、とても有効な機能です。
なぜならば、仮にランキングに掲載されている作品が自分好みじゃなくても、読者は自力で自分の好きな作品を探し出すことが可能だからです。
その一方で、作品の数が増え過ぎた投稿サイトでは一度ランキング上位が人気ジャンルの作品で埋め尽くされると、それが好みではない人は膨大な作品群の中から自力で探し出す必要が出てきてしまいます。
作品を能動的に探すこと自体が好きじゃないと、どうしてもこの作業は少し辛いです。
そして、膨大な作品から好みの作品を見つけ出すことに疲れてしまったユーザーは、(実質的に)別のコンセプトを持つ投稿サイトへと移住してしまうといったような事態が起こってしまいます。
この記事を読んでいる方の中にも、普段自分が利用しているサイトのランキングの上位が恋愛の作品で埋め尽くされてしまったので、ファンタジーが上位を埋め尽くしているサイトへアカウントを変えた、といったような経験がある方もいるのではないでしょうか?
つまり、ユーザーたちの多数決によって決まるランキングは、少数派のユーザーにとって機能不全に陥ってしまっているのです。
作家がオリジナリティを出すことの難しさ
Web小説を普段あまり読まない人はこう言います。
「Web小説ってなんか似たような作品ばかりだよね」
Web小説を普段から読む人はこう言います。
「いや、読んでみるとそれぞれでちゃんと違うよ」
この話題は定期的にSNS上でも挙がる話かと思います。
僕はどちらも正しい意見だと思っているのですが、この食い違いはいったいなぜ生まれてしまうのでしょうか?
その理由は、小説投稿サイトに投稿される作品には、形式的に他の作品に揃えなければならない、という圧力が働いてしまっているからです。
どういうことなのか、ストーリー構成的な観点と、世界観的な観点から説明します。
まず、ストーリー構成の方に関しては、基本的に読者は作品を探すことに苦労をしたくありません。
なので、作家が読者に自分の作品を見つけてもらいやすくするためには、タイトルやキーワードでその物語がどんな方向性で描かれるのかを説明する必要があります。
「異世界転生」「悪役令嬢」「追放」「ダンジョン配信」など、これらのワードがあれば、読者はどんなストーリー展開が繰り広げられるのかある程度予想がつくため、作品を探す手間を省くことができます。
逆にこれらのテンプレートに該当しないと、クリックされなかったり、検索で作品が見つけられることがないため、完全に独自なストーリー展開で勝負するのは難しいのです。
また、ストーリー展開のみならず、本文の単語単位でもオリジナリティを出すことが難しいです。
小説投稿サイトで作品を読んでいる読者は基本的に複数の作品を並行して読んでおり、このような状況下ではその小説に固有な未知の単語は読者にとって大きな負担になってしまいます。
下手にオリジナルの単語を登場させようものなら、他の小説から戻ってきた時に、これなんて意味だっけ?となって話がよく分からなくなり、離脱に繋がってしまうというわけです。
これを極力避けるため、作家たちはみんながわかる単語を選択していきました。
その結果、異世界なのに現実世界の単語ばかりが登場したり、作品間で同じような世界観を共有してしまったりすることの一因となったのです。
まとめると、内容に関してはそれぞれの作品は別の物語が描かれているけど、ストーリー展開の型や単語選択などの形式的な部分で揃ってしまっているため、中身を見たことがない人が外から見た時に一緒に見えてしまう、ということです。
どちらの主張も正しいから平行線を辿っているんですよね。
とまぁ、こんな感じで数ある問題の中での2つを上げたわけですが、いずれにせよ僕の考えは一貫しています。
理想的な小説投稿サイトにおいては、読者は面白い作品を読むことに集中するべきであって作品を探すための努力を過度にするべきではないし、作家は作品のクオリティを上げることに集中するべきであって作品を目立たせるための努力を過度にするべきではありません。
そして、投稿された作品はすべからくテンプレや流行に必要以上に縛られることなく、作家が思い描いた通りの世界観のままにそこに存在しているべきです。
つまりは、小説の本来の多様性を維持しつつ、それらを的確に読者に届けることこそが次世代における小説投稿サイトのあるべき姿なのではないでしょうか。
NoveLand が広げるWeb小説の可能性
NoveLandには他の小説エディタには無い特徴として、本文中にキャラクターやオブジェクト(キャラクター以外の作品に固有な名前)を埋め込んだり、段落ごとに発言者を設定したりすることができます。
これは言い換えると、NoveLandはその作品がどんな内容なのかを構造的に知っているということになります。
たとえば…
ある発言があった時に、それが誰の発言なのかを知っている
キャラクター/オブジェクトが本文中にいつどんな形で登場するのかを知っている
作品に固有の単語の意味を知っている
プロットと各エピーソードを紐づけているので大まかなストーリー展開を知っている
… etc
NoveLandの多様性を高める取り組み その1
推薦システムのよくある手法の一つとして、「この作品を読んでいるユーザーは他にこんな作品も読んでいます」というようなものがあります。
これは言うなれば、同じ小説が好きな友達に他の小説を紹介してもらうようなものですから、満足度の高い推薦を行うことが可能です。
しかしその一方で、その友達が知らない小説は、知らない以上はおすすめすることができないという問題があります。
要するに、投稿されたばかりの作品や運悪く評価を受けられずに埋もれてしまった作品が推薦されることは滅多にないということです。
そんな中、NoveLandがストーリーの構造を詳しく知っているという点はとても役立ちます。
なぜならば、過去に自分の気に入った作品と同じような特徴を持っている作品を、他のユーザーに読まれたかどうかに関係なく推薦することができるからです。
たとえば、主人公だけが無双するよりかは周りの魅力的なキャラクターも活躍する作品が好きなユーザーには、キャラクターごとの登場割合などからそういった作品を推薦することができたりします。
他にも、王子のキャラが好きとか妹のキャラが好きと言ったようなキャラクター好みについて、属性が同じかつ性格が似ているキャラクターが登場する作品を優先的に画面に表示することができたりもします。
つまり、
タイトルが短い作品であったとしても、
投稿されたばかりの作品だったとしても、
埋もれかけてしまっている作品であったとしても、
テンプレを意識せずとも、
作者が思い描いた通りに書いてさえいれば、それを好きと言ってくれる読者に作品を届けることが理論上できるのです。
NoveLandの多様性を高める取り組み その2
NoveLandでは現在提供している機能として、本文中にキャラクター/オブジェクトが登場したらその登場エピソードを一覧表示することができます。
この機能を応用し、本文の閲覧画面に登場キャラクター/オブジェクトの一覧を表示させる予定です。
例えば読者がこの単語の意味はなんだっけ?となった時に、1,2回タップすれば作者が用意した単語の説明をその場で表示することができます。さらにはその単語の各登場位置を表示できるので、遡って話の流れを思い出すこともできます。
これまで、こういった登場人物・概念紹介ページは、作者自身が例えば作品の先頭などに自分で作る必要がありました。
NoveLandではその必要はなく、さらには各登場エピソードへのリンクが自動で作られます。
しかも、読者にとってまだ登場していないキャラクターは表示させないので、ネタバレ回避もバッチリです。
これにより、読者が単語の意味が分からなくなってしまうことが原因で離脱してしまうことがグッと減るでしょう。
それに伴い、作者は読者への負担を過剰に意識せずにオリジナルの世界観を作り込むことができるようになるはずです。
NoveLandの多様性を高める取り組み その3
作品を評価する時の軸は何もストーリー展開だけではないはずです。
というのも、キャラクターや世界観の設定なども、読者に評価されて良い部分だと僕は考えています。
そこで、NoveLandではキャラクター/オブジェクトを登録した上で執筆するので、これを活かしてキャラクター/オブジェクトの紹介ページなり感想機能なりを実装する予定です。
具体的な機能の方針についてはまだ未定ですが、キャラクターや世界観を軸に作品を探す方の選択肢を増やしたいなと考えています。
NoveLandの多様性を高める取り組み その4
NoveLandは次世代の小説投稿サイトを目指しています。
そのため、通常の小説投稿サイトが当たり前に持っている機能を見直して実装します。
具体的には主に以下の3つです。
ジャンルを運営が決めない
タグ(キーワード)は章ごとに設定する
全体で共通のランキングは作らない
まずはジャンルについてです。
運営がジャンルを決めないとはどういうことかというと、作者の方が作品を投稿する際にはキーワード(タグ)のみを設定するようにし、ジャンルという設定項目は用意しないという意味です。
なぜそうするかと言いますと、そもそも、ジャンルとはサイトに投稿された作品と作品との関係性によって流動的に決まるものであって、事前に決まるものではないからです。
また、事前にジャンルの枠を決めてしまうと、どうしても使われないジャンルが出てきてしまったり、後でジャンルのラインナップを変更したくなった時に、既に設定してしまったユーザーに修正を強いる必要があったりする、などの問題が発生します。
そこで、キーワード(タグ)のみを投稿時に設定するようにすれば、僕ら運営は常に変わりゆく人気ジャンルやトレンド、ユーザー層を注視し、トップページに表示されるジャンル一覧をキーワードを用いて適切な粒度で表示されるように調整することが可能になるはずだと考えています。
次に2つ目のタグ(キーワード)は章ごとに設定することについてなのですが、通常の投稿サイトでは作品単位で設定することが可能だと思います。
しかしながら、この作品全体に対するタグは作品を説明する上で少し表現力がたりません。
例えば1つの作品に対して、「ファンタジー」「恋愛」というタグがついているとしましょう。このとき、この作品は見かけ上はファンタジー要素50%、恋愛要素50%の作品となっており、それぞれがいつどれくらいの割合で登場するのかは読んでみるまでわかりません。これではミスマッチが生まれ、継読率が下がってしまうことの原因になります。
最悪の場合、自分好みの作品を見つけられない読者はランキングの上位が自分好み作品で占められているサイトへと移動し、サイト内の多様性が失われてしまうでしょう。
そこで、NoveLandでは章ごとにタグをつけられるようにし、この問題の解決を目指します。
例えば、全章に「恋愛」タグが付けられており、物語の中盤に「ファンタジー」というタグが付けられていれば、本文を読まなくても序盤からガッツリと恋愛ものであり、途中のサブ要素としてファンタジーが登場するんだなってことをタイトルを長くせずともなんとなく把握することができるはずです。
次にランキングについてなのですが、先ほど触れた通りランキングとはすなわち多数決であるため、たとえどれだけ工夫を凝らそうとも少数派の評価は無かったことにされてしまいます。
特定のジャンルばかりが人気を集めてしまうと、ジャンルの淘汰が起こってしまい、多様性が失われる原因になります。
まだランキングをどう扱うかについては未定なのですが、少なくとも目指す最終形としてNoveLandにおけるランキングは全ユーザーで共通の軸を持たないようにする予定です。
ランキングを自分好みにカスタマイズできるようにしたり、ユーザー好みの勢いのある作品をおすすめしたりなど、全体ではなく読者一人一人に目を向けた代わりとなる方法を検討中です。
NoveLandの多様性を高める取り組み その5
読者が作品を探すための最も一般的な機能として、検索機能が挙げられると思います。
しかしながら、通常の文字列検索を活用するためには、検索ワードがタイトルやあらすじなどに含まれていないといけません。
終盤の最も盛り上がる展開をネタバレする訳にも行きませんし、探索のできる範囲がかなり限定的です。
それを解決する1つの手段としてAIによる検索機能が考えられます。
このAI検索機能は作品の雰囲気を理解し、検索した内容に近い作品をAIが提案してくれます。
すでにそういった機能がある小説投稿サイトも登場し始めており、NoveLandでもいつかは実装したいなと考えています。
ですが、こういったAIによる検索機能は技術的な問題として、AIが学習していない未知の単語や概念に弱かったり、文章が長すぎると文脈を理解しきれなかったりします。
これは小説という媒体にとって、少し相性が悪い性質です。
例えば「フィンレク」というある作品に固有な単語があって意味的には検索したい概念だったとしてもそれを拾いきれなかったり、登場頻度が低いモブキャラの情報を詳しく理解しきれなかったりします。
NoveLandは元々AIを正しい目的で活用するために設計されたこともあり、未知の単語でも作者が用意した説明によってAIを補助することができたりなど、これらの問題に対する解決策があります。
難易度が高いためだいぶ先の話になってしまいますが、いつかは「物語の中盤で〜みたいなキャラが〜をする展開の作品」みたいな検索ワードから条件に合致する作品を持ってくるという理想的な検索機能が作れたらいいなって思っています。
最後に
いかがだったでしょうか?
中には実現するまでに時間がかかる機能もありますが、目指したい方向性はこの記事でお伝えした通りになります。
一点誤解しないでいただきたいのは、このNoveLandが作り出す新しい仕組みは、これまでWeb小説が積み重ねてきた文化を一切否定しないということです。
タイトルが長い作品はあってもいいし、テンプレ作品があっても全然良いと思っています。なんならそういった作品が多数派を占めるという状況そのものはおそらく変わらないでしょう。
僕はただ、これまで通りやりたい人たちはこれまで通りかつそれ以上に活動することができ、一方で閉塞感を覚えていた人たちがのびのびと自分らしく活動できる場所を作りあげたいのです。
多様性ってそういうことですしね。
これまで小説執筆ツールとして運営してきた NoveLand ですが、実はプロジェクトの立ち上げ当初から全く新しい小説投稿サイトを作ることを目指してきました。
サービスの名前であるNoveLandには、Novel Land (小説のプラットフォーム) の Novel Land (新天地) というダブルミーニングが込められています。
読みたい作品が読める、届けたい人に作品が届く、そんな多様性あふれる小説投稿サイトを目指して活動を続けていきますので、今後とも応援よろしくお願いします!