はじめまして。
テーマ:「転校生」
結局、また話しかけられなかった。
体育祭の終わり、どれだけ呼びかけても
反応を示さない彼女に苛立ちを覚え、
強く当たってしまったあの日。あの時。
ようやく聞こえてきた彼女の声はどこまでも透き通っていた。それでいて、どこか寂しさを感じさせるもの言いで。言い放たれた言葉がいつまでも心に引っかかっている。
「私はあえて話さないの。話しかけないで。
私の見た景色や抱いた感情は、私が言葉にしようとした時点で色を失い、言葉にできた時点で香りや形が崩れ落ちる。儚くて愚かな感情を他の誰かに共有する必要がないから私はこうして話さないのよ。」
そう言いながら、彼女の体は震えていた。
きっと、精一杯の勇気を振り絞って、
男性への恐怖と戦いながら話したのだろう。
それに、話してしまうことへの恐怖に怯えていたようにも思えた。
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「私に話しかけないでください。みんなの望むようなものは何も用意できないし、何より私が話しかけられることを望んでいませんので。」
あの時は生意気だと思っていたが、
今になって、彼女が転校してきた日に残した言葉の真意に気づけた気がした。
大切な友達の大切な日常をカタチに残そうと写真を始めた僕が、どれだけの数日常を撮っても、完全に保存することができないことを知った。
あれ以来、写真を撮っていない。
それは、大切な日常を美化し、事実を一切伝えぬまま現してしまうことへ恐れを抱いたからであった。
あれからちょうど1年経ったあの日。
体育祭の日に彼女が言い放った言葉は以前の僕の心を優しくも残酷に傷つけてきた。
だが、言語化できないがゆえに言語化する選択肢を除外したのであろう彼女に興味を持ったのは事実だった。
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話しかけられずに日々を過ごしていたある日。
何も話さずにまた彼女は転校していった。
あの言葉の真意を知ることができなかった僕はまたいつもの日常に戻る。写真を撮ることのない日常へと。
そして、彼女の残した言葉もいつしか頭から抜け落ちていた。
人の心に土足で踏み込んできて、踏み荒らした彼女は、去っていくときは足跡1つ残さずに去っていくのだった。
「他の誰かに伝えることで、私の世界が崩れ落ちていくのが怖いの。」
きっと、彼女はまたどこかの学校でそんなことを言っているのだろうか。
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