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ワンオペ育児は歴史的非常事態 _feat.ホモ・サピエンスの育児<育児編#3/4>

現代の子育ては、史上最高の難易度じゃないかと思います。

子育て家庭の多くがそうである「両親で育てる」のが、いまの育児の特徴ですよね。

子育てや教育にまつわるサービスや技術は過去最高にそろっている状態ながら、歴史上の子育てや家族の形を見ていったときに「核家族による育児」はほとんどありません。

ホモ・サピエンスは複数で子や高齢者たちの面倒を見る

ライフネット生命保険の創業者で立命館アジア太平洋大学(APU)の学長で、歴史に詳しい出口治明さんもおしゃっていますが、地球上で最も支配的な種として繁栄してきた現生人類であるホモ・サピエンスは、家族が複数集まって集団をつくり、子どもを一緒に育ててきました。

20万年前に地球上に誕生したホモ・サピエンスが定住生活を始めたのは、1万3000年前〜1万2000年前からです。それまでのおよそ19万年間は狩猟採集をしながら、群で移動生活をしていました。

人類が、アフリカからユーラシア大陸、北アメリカ、南アメリカなど世界に拡散していった「グレートジャーニー」ですね。

ワンオペ育児と真逆の習性

ホモ・サピエンスの集団行動とは、水のあるところなどキャンプに適した場所を見つけると男性も女性も働ける者が森へ入ってその日の食料を集めました。その間、赤ちゃんや子ども、お年寄りは1カ所に集まり複数で面倒を見ていました

集団として1つになり、お互いに助け合いながら暮らすわけです。

ある人類学者によると、人が安定した社会関係を結ぶことができる集団の数は100人〜150人ぐらいだとか。100人程度の中には子どももいて、子どもたちはその集団で生活することで、森や自然の中で暮らすために必要な知恵を学び、社会性も身につけました。

周りの大人みんなで保育する

児童教育事業の立ち上げをしたときに、日本には子どもが小さいうちは母親が子育てに専念すべきでそうしないと子に悪影響が出るとされる「3歳児神話」との考えがあると知りました。

でも、歴史上の子育てを見ると、子育てに専念する人が母親である必要はありません

むしろ、ホモ・サピエンスは集団保育で社会性を育んできた習性をもつ社会的動物なので、お母さんが1対1で子どもをケアしなければならない保育のほうがその習性に合っていません。

周りの大人みんなが保育に参加して、複数の大人でこれまた複数の子どもの面倒を見るのが本来の姿のようです。

生みの親だけを指す単語は存在しなかった?

ある特定の民族を調べる文化人類学の研究者の話などによると、男性は狩りに出て、子どもは誰が生みの親かどうかは関係なく村全体で育てている民族もいます。

アフリカ・カメルーンの集落には、いまもホモ・サピエンス本来の原初的方法といえる共同保育が受け継がれている部族があるそうです。

ここでは、母親も生後数カ月の赤ちゃんを残して森へ採集へ出かけます。その間の赤ちゃんは、村に残る女性が預かり自分の子どもと一緒に授乳してお世話をします。「村の女性全員がお母さん」の意識なのでしょうね。

ずいぶん前に何かの人類学系の本で呼んだのですが、生みの母だけでなくて周りの複数の女性に対してお母さんと呼び生みの親だけを指す単語が存在しないという部族もいるようです。

産んだ女性が育てなくてもいいようにヒトはできている

この部族の子育てだと、気軽に部族の女性に子どもを任せられてみんなで面倒を見るから、毎年のように出産をする女性が多いのだとか。産んだからとわが子をつきっきりで面倒見る必要がないからたくさん産んでも育てられるというわけです。

日本でも歴史的には、専業主婦が家事と育児をすべて引き受け「男は外で仕事をする、女性は家を守る」という性別役割スタイルが主流になったのは戦後の経済成長期の一時的だったと見られています。専業主婦になった比率が最も高かったのは、いまの60代後半〜70代前半の女性たちだそうです。

戦後高度経済成長で核家族化進む

核家族の歴史を見ると、大正時代にはこの形態が全体の半数程度までになっていました。ただ大正〜昭和初期の核家族は、長男以外は家を継げなかった日本の家父長的家制度によるものだと思います。

核家族といえども、遠くに行くための交通手段もあまり発達していないため「住まいが別々」であるだけで、同じ集落に祖父母や親族が暮らしていることがほとんどでした。

祖父母が県をまたいで離れた場所に暮らしている現代のような、頼れる家族が遠方に住む核家族化が進んだのは、戦後です。高度経済成長によって、新幹線がつくられ、高速道路が全国各地に走り、集団就職のような形で都会に就職するタイミングによる1つの結果でした。

核家族の子育ては歴史的に見てもハードモード

歴史を見れば、核家族という家族形態はこれまであまりなかったし、人類史で見てもいまデフォルトとされている両親2人による子育て体制はホモ・サピエンスの習性からすると、両親にとってとても難易度と負担の多い子育てです。

そもそも複数人でやることを1人ないしは2人でやるわけですから、そりゃ大変ですよね。

個人的には、この核家族化も今後変遷していくであろうと思っています。どういう形に落ち着くかはわかりませんが、僕も将来親になる可能性がある人として、もう少し育児負担が分散されるような社会になってほしいなと思っています。

必ずしも親族じゃなくてもいいので、育児協力できるコミュニティの形成ができるととても良いんですけどね。



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*次週は、育児編「フカイのまとめ」です!


編集・構成協力/コルクラボギルド(平山ゆりの、イラスト・いずいず

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COTEN 深井龍之介
株式会社COTEN 代表取締役。人文学・歴史が好き。複数社のベンチャー・スタートアップの経営補佐をしながら、3,500年分の世界史情報を好きな形で取り出せるデータベースを設計中。