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留年短編vol.5 季節珈琲

(春)

君はずっと伸ばしていた髪を切って
ベリーショートにした。

理由を聞くと、
「夏が来るから。」と言った。


最近の君は大好きなホットアメリカーノよりも
コールドブリューをよく頼むようになった。


理由を聞くと、
「夏が来るから。」と笑った。

(夏)

君は腰まで伸びた髪を触りながら「暑い暑い」と言って

ホットアメリカーノを飲みながら「熱い熱い」と言っている。

「あつくないの?」と聞くと

「あついけどコーヒーはホットでしょ。」
と言った。

「コールドブリューもいいよ。」と言うと、

「なにそれ。」
と笑った。


(秋)

君はいつもホットカフェラテを頼むのに


珍しくホットアメリカーノを頼んで

「苦い。」と言った。

「無理にブラック飲まなくてもラテでいいんじゃない?」
と言うと、

「考えておく。」
と君は言った。

そのあと

「付き合ってよ。」と言うと、




「考えておく。」 


と君は笑った。



(冬)

「おはようございます。」
「おはようございます。」

毎朝決まってオレンジジュースを頼む君と

なにか話をしてみたかった。 

「コーヒーは飲まないんですか?」と聞くと、

「ブラック飲めないんです。ここコーヒーショップなのに。ダメですよね。」
と言った。

もう会えなくなるかもしれない。
そう思って、

「カフェラテから始めてみるのはどうですか?」
と言ったら、

「じゃあ、明日。」
と君は笑った。




(夏)


今君はどんなコーヒーがお気に入りなんだろう。

オレンジジュースしか頼まなかった冬もあったし、

いつもホットカフェラテを頼む秋もあった。

ホットアメリカーノ三昧の夏もあったっけ。

去年の春はコールドブリューを気に入ってよく頼んでたね。


二人に夏が来ることはなかったけれど、


どうせ君は、

また新しいコーヒーにハマったんだろう。

どうせ君は、

そのコーヒーを飲んで笑ったんだろう。


そんなことを想像して

笑った。

季節珈琲

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