留年短編vol.4 未来珈琲
タイムトラベルなんてあるわけない。
信じてなんていなかった。
けれど、目の前にいるのは
明らかに違う時代を生きている君だ。
時を超えて出会った老いた君は
知らないことをたくさん教えてくれた。
2025年 酷く暑かったこと。
2030年 SDGsがあやふやで終わったこと。
2035年 地球温暖化は止まらず、
また平均気温を更新したこと。
そして、
2040年 我が子が死んだこと。
ー2021年ー
生きるのが苦しくて
今この瞬間から逃げたくて、
もう死のうと思っていた。
唯一、心残りがあった。
まだ一才にも満たない我が子の成長を見届けられないこと。
信じてなんていなかったが、
2021年 生存確率1%のタイムマシンに乗り込んだ。
死ねるなら本望。
でも、もし生きられたら。
成人した我が子を一目見られたら……
ー2041年ー
どうやら死ねなかったらしい。
1%の奇跡。
20年の時を超えて未来に来た。
2041年の街並を眺めながら
成人した我が子を探していた時。
まさかの再会だった。
ずいぶんと老けた君。
新しいパートナーを連れた君。
「生きてたの......」と酷く驚いた君は、
時を超えて出会った老いた君は
コーヒーを片手にこの20年間のことをたくさん教えてくれた。
そのコーヒーはずいぶんと高かった。
理由は既に聞いた気がする。
そして最後に教えてくれた。
タイムマシンには "20歳から" という
年齢制限があったことを。
成人した我が子は、すぐに乗り込んだらしい。
消えた親を探して。
確実に生きていた20年前に戻って会う為に。
ずいぶんと精度の上がった
生存確率"99%"のタイムマシンに。
未来珈琲
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