収益逓増型ビジネス
寄稿させて頂きました。
ビジネスには収益逓増型とそうでないものがある。
収益逓増型は投下する資本やリソース以上に収益が加速度的に増加する、レバレッジ効果の高いビジネスのことだ。ひとたび損益分岐点を超えてしまえば、その先は追加コストの数倍の売り上げとなり利益率が毎年上昇することもある。
投資家が投資したいと思うビジネスモデルがこのタイプである。将来、利益が乗数的に成長する可能性、つまり投下する人や経費を2倍にすると、利益が4倍や10倍になる可能性を持つからだ。
収益逓増型になるか否かを考えるにあたり、世の中のビジネスを大ざっぱにカテゴリー分けすると5つの軸で考えることができる。
①ビジネスの種類(製造、サービス業、ソフトウエア、ウエブ全般、金融など)②対象(BtoBかBtoCかCtoCか)③バリューチェーンのどこか(完成品製造、完成品小売り、部品提供、卸し、市場、仲介、業務代行など)④課金モデル(ワンタイム、サブスク、トランザクション・フィー、スプレッドなど)⑤売り上げや仕入れ代金の「出入り」タイミング(前払い、後払い、分割など)
たとえばトヨタグループなら「製造業、BtoC、完成品製造、ワンタイム課金、部品納品会社に後払い」という組み合わせだ。またローンの導入により金利収入という金融業の要素も組み込まれている。
急成長しているSaaS事業はクラウド技術の浸透により、かつては購入時の一括払いだったソフトウエアを月額利用料だけで使えるようにしたことで今日の興隆をみている。
アップルも創業後しばらくは「製造業、BtoC、完成品小売り、ワンタイム払い」だったが、のちにアプリ利用の月額フィーや音楽のサブスク、ApplePayなど金融業も絶好調となり、収益逓増型ビジネスモデルを確立した。
これらの一つを変えるだけでビジネスモデルが大きく変化し、収益逓増型になることがある。ベンチャーキャピタル(VC)が投資を検討できるのは、期限のあるファンド運営というなりわいの性質上、ファンド期間中に新規株式公開(IPO)できるくらいに急成長する会社が多くなってしまう。だから成長が加速度的な収益逓増型ビジネスは、投資検討の最有力候補の一つとなる。
一方で、収益逓増型ではないが、世の中になくてはならない事業やサービスは無数にある。残念ながらVCの投資対象とはなりにくいそれらだが、先述の組み合わせの一つを変えることで、それまで一定だった収益が突如、逓増型に変化することもままある。
世の中に本当に必要な事業やサービスに投資家の資金が届くよう、起業家と一緒にビジネスモデルを考えることもまた、自分たちの大事な仕事の一つであると考えている。
[日経産業新聞2023年8月30日付]
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