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取締役会おすすめアジェンダ2つ

スタートアップ起業家におすすめの「取締役会のアジェンダ」について書いてみる。外部資金を募集しながら、いずれ上場を経て大きく成長することを目指しているとする。

資金調達ラウンドを重ねるごとに、取締役会に出席する外部メンバーは増えていく。毎月あるいは四半期に一度開く取締役会には多様なアジェンダがあり、その資料を作るわけだが、2つに絞っておすすめする。それは、

(1)業績について(2)についてである。

(1)業績の報告は誰もがやると思うが、おすすめは、

主要な損益計算書(PL)
重要な重要評価指標(KPI)

について定量的な比較表を作ることだ。

具体的には、目標に対する達成率を見る「予算実績比(予実比)」と、
前年の同時期と比較した「昨対比」の2つを、「主要PL」と「KPI」別に
一覧表を作る。

さらに当初の予定から乖離(かいり)した数字をハイライトして、コメントを記載する。

月次で比較するか、四半期単位で比較するかは、ビジネスの内容と会社の成長ステージによって変わる。シリーズBくらいであれば、予実比よりも昨対比の方が大事だろうし、上場が近づけば、月次の予実比の重要性が増す。

この表とコメントがあるおかげで、取締役会の出席者みんなが業績進捗状況を立体的に把握できるようになる。「ええと、ちょっとお待ちください」とその数字を探し「後日、送ります」と持ち帰る経営チームも中にはあるが、「その場」で経営チームと投資家で課題認識を一致させることに意味がある。

数字データはあるはずなので、この表を作るのは作業的には大変ではない。しかしこの「予実比と昨対比」のセットはわりと出て来ない。意外なのは、そのことを聞く投資家も少ない。

数字以上に大事なのが「どうして予想と違ったのか」の検証だ。この検証があるからこそ、投資家からその場で協力を引き出せる。次の資金調達の方針も立てられる。


(2)人
について。採用、入社、退社情報などだ。スタートアップは人員計画の達成なしにはいかなる事業計画も達成しえないが、これが取締役会資料に網羅されるのは意外に少ない。

応募状況、一次/最終面接、内定、入社に至ったか否か等のステップをフロー図にした「採用ファネル」に、実際の人数を記入するのが私のおすすめだ。採用傾向が可視化され、どのステップに補強が必要か一目瞭然になる。

退社情報には会社の改善ヒントが多く含まれている。たとえば退社理由が、そのポジションの報酬水準が他社比で負けているからなのか、社員個々人に数字目標が与えられず「自身の成長が感じられない」と転職していったのか。
この「人材まわり」こそ、打ち手を間違えると致命的となる世界共通テーマである。膝詰めで対策にあたり、他社事例に精通する外部メンバーの知恵を引き出す時だ。

創業直後はこの取締役会の資料がなかなか作れなかったものの、増資ラウンドを重ねるごとにどんどん上手く作れるようになり、事前に社内で議論した対策を取締役会で展開し、参加者の応援を引き出して、成長を急加速した会社が過去何社もあった。


以上、取締役会おすすめのアジェンダ2つを紹介した。(自分自身の事業でも、予実比と昨対比で乖離した数字をにらみつつ、何をどうするべきか検証し、目標達成に向けて、日々、地道に試行錯誤を続けている。)



[日経産業新聞 Smart Times「取締役会資料の工夫」
(加筆)2021年6月23日付]

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