水曜日、雨と小袋成彬
フロントガラスから見える景色の8割が灰色。雨、曇った空、アスファルト。信号の黄色だけが鮮やか。
スピーカーから流れてくる音楽、小袋成彬さんのデビューアルバム。いいなぁこれ。めっちゃ良い。
こういう曲がすごく好きだ。東京の夜の街にいるみたいな気分になる曲。または東京の雨の日のカフェにいるみたいな気分になる曲。
宇多田ヒカルが「この人の声を世に送り出す手助けをしたい」とレコーディングにも立ち会ったそう。演奏やレコーディングにはいろんな人が関わっているけど作曲も歌もプロデューサーも全部自分でやってる。Tokyo Recordingsという音楽レーベルを立ち上げて社長もしている。これでまだ27歳。
自分より年上のすごい人を見たときの尊敬とか憧れという気持ちが、自分より年下の人に対しては嫉妬とか焦りになる。そういうのやめたい。
このアルバムの一曲目と六曲目に、それぞれ小袋さんの友人の語りが入っている。おもしろかったので書き残しておきたい。
1人目はパリでクラシックを対象とした音楽史を研究している人らしい。ロンドンで収録したもの。
芸術っていうのは関わらなくてもいいもの。なくてもいいもの。別になくても生きていけるもの。だからほとんどの人は生涯作品なんか残さないわけでしょ。じゃあなぜ作品を残すか。作品を残す人々、芸術家達っていうのはなぜそれを残すかというと、作品そのものが必然?すなわち小袋君もそうだろうけどそれを産みださなければ前に進めないっていう。作品っていう形に置き換えることによってひとつ蹴りをつける。
この人のちょっと自分の言葉に酔ってる感じの喋りが、酒が入ってる席での会話って感じでまた良い。
2人目は小説家を目指している友達。フランスからスペインまで800km弱を徒歩で30日かけて歩くという旅の途中の早朝に歩きながら語ったのを収録したものらしい。
小袋君に会社を辞めた時の話をしてほしいと言われて。その話はこんな話だったんだけど。会社の社員証?あれで日々会社のゲートをくぐりながら、ある時その同じカードで自動販売機の所にカードをピッとかざしてコーヒーを買った時に、あぁこれはなんか物を消費している主体であるはずの自分が、実は消費されていっているんじゃないかと。社会という構造の中で、自分がその中に取り込まれてどんどん消し尽くされしまうというかそういうような気がして。それであぁこれはまずいなと思って。今本当に何をしないといけないかって考えた時に、やはり何かものを作らなきゃいけないなと思った。
ちょっと何を言ってるかわからないようなわかるような。とりあえず友人2人とも変わった人だな。
この2人の「語り」がアルバムのアクセントになっていて、アルバムの中にストーリーが感じられる。語りの後に曲が始まる。小袋成彬は「世界は僕を待ってないと知る」と歌う。
なんだか芥川賞を受賞した作家さんの小説を読んでいる時みたいな気分。デビューアルバムってその人のこれまでの人生がぎゅっと詰まっている感じがして良い。
歌詞もアレンジも興味深くてまだまだおもしろいところがいっぱいありそう。良いアーティストを見つけてしまった。
アルバムの途中で会社に到着した。灰色、雨、曇った空、だけどすごく良い気分。帰りに続きを聞くのが楽しみだ。
通勤中にこういう音楽があると平日が楽しい。
Photo by Kaique Rocha from Pexels
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