第25話 出張で豪遊


「金城士長は、自衛官として永遠に勤務する事を誓い、大型自動車運転士免許の取得のための合宿に参加します」

ある時、上司から話があった。

それは、自衛隊に永続勤務することを条件に大型化自動車の運転免許を無料で取らせてくれる制度があるとのことだった。

みつおは、一生自衛隊にいようと決めた後だったので、喜んでる応募した。

その年はたまたま希望者がなく、みつおがすんなりと決まったのだった。

隊長に誓いの宣言をして、出張に向かった。

民間の教習所ではなく、埼玉の大きな基地で1ヶ月の合宿で取得してくるのである。

大型自動車の免許なら、その小さな島で取れば安く取れたのだが、みつおは大型自動車運転免許が欲しかったというよりも、東京に遊びに行きたかったのである。

基地は埼玉だが、電車1本で東京まで30分で行ける距離だった。

学生隊の時と違って、もっと自由に外出もできるので、遊びたかったのである。

小さな島に何年もいると、かなりマンネリした生活になっていた。

毎週休みの前の日には、決まった居酒屋に飲みに行き、決まったメンバーと決まったスナックに飲みに行き、ハシゴする店も順番が決まっていて、最後に一人で自分のお目当てのホステスに会いに秘密の店に行く

毎週同じルーティンで、これが毎月、そして毎年、正月休みは那覇の実家に帰り、冬場は静かに過ごして、春先になると飲み屋も賑やかになり始める。

スキューバーダイビングの免許を取るために夏場に向けて若いギャルが集まってくるのだが、中には夏の間だけ飲み屋でホステスをする女子もいたのである。

夏になるとそれが楽しみであった。

そしてまた冬が来る。

沖縄は、夏と冬だけしかないような季節である。

秋と春は1ヶ月だけ過ごしやすい気温になるが、あとは暑いか寒いかである。

その島で暇つぶしにウィンドサーフィンもやっていたのだが、それはウィンドサーフィンがしたかったのではなく、気軽に暇つぶしできるのが良かったのである。

当時、島のビーチの横で、細々とウィンドサーフィンを教えている島のおじさんと仲良くなり、

「こんな小さな島だから誰も盗まねーよ、すぐにバレるし」

と言われ、安く購入したウィンドサーフィンのセットをそのまま、そのおじさんの縄張りの砂浜に放置して、車にはつねに海パンとタオルを用意していたので、楽だったのである。

何気なくビーチに寄り、風があるなと思ったら海パンに着替えてウィンドサーフィンを楽しむのである。

しかし、それもマンネリしてくると、何か刺激が欲しいと思うようになっていた。

そんな矢先に、大型免許の話がきたのである。

「おい、金城、あまり飲み歩くなよ東京は島と違って高いからな、いくらお金があっても足りねーぞ」

先輩たちは、同じような警告をしてくるのだった。

みつおが遊びに行くのは、みんな察しがついていたのである。

毎月何かの理由をつけて那覇に遊びに行っていたみつおが、今度は東京に行くというのである。

中には、何しに埼玉の基地に行くのかさえ知らない後輩もいた。

「金城さんいいっすね、1ヶ月も休暇で東京に行くんすか」

「バーカ、遊びじゃねーよ、大声免許取りに行くんだよ」

「だから、遊びに行くんすよね」

「違うっちゅうに、大型免許を取りに合宿で埼玉の基地に行くんだよ、そのついでに東京に遊びには行くけどな」

「なーに言ってんすか、金城さんの場合は、東京に遊びに行くついでに、埼玉で大型免許取ってくるんでしょ」

後輩にもからかわれるみつおだったが、それはまさに「言い得て妙」であった。

「金城士長の任地ほ沖縄なんすよね、いいですねぇ」

「いやぁ、どうだか、ハッキリいって島流しですよ、映画館もボーリング場もないし、スナックだけはあるけど」

「やっぱり海は綺麗でしょう」

「俺は綺麗な海よりも綺麗な女の子が好きですよ」

全国から集まってきていたのだが、なぜかここでも酒飲みの隊長みたいになっていた。

一度懇親会で自己紹介しながらおしゃべりをしていたら、雰囲気で分かるのか、同じ酒好きな仲間がすぐにできたのである。

日中は、自動車の学科の勉強や、4トン車で運転の練習をするのだが、夜は自由なので、基地内にあるクラブ(飲み屋)に毎日集まるようになっていた。

そして、土日は休みなので泊まり掛けで東京へと遊びに行くのだった。

毎週土曜日に外出して遊び回り、東京の夜を楽しみ、一泊して日曜日の朝からパチンコ屋に行き、夕方から居酒屋で酒を飲んで、9時頃に基地へと帰って、月曜日から大型自動車の教習である。

その間も給料は発生するので、お金を貰いながら大型免許を取得できるのである。

しかし…

そこは東京、いくらお金があっても足りないのである。

みつおは、給料とは別に貯金もおろして豪遊した1ヶ月だった。

結局、1ヶ月で50万円使うハメになってしまったのであった。

島で大型免許取れば5万円で取れたのにその10倍を使ったのである。

みつおはふと、学生隊の時の友達を思い出して連絡をしてみた。

出身は東京だったので、もしかしたら会えるかなと思ったのである。

「奥田さん元気、よかった実家に帰ってたんだね」

「おぉ金ちゃん、久しぶり、まだ自衛隊なの?」

「うん、今大型免許の合宿で埼玉に来てるよ」

「マジで?近いじゃん、家は東京でも埼玉に近い東京だよ」

「今はどこに勤務してるの?」

「自衛隊は去年辞めたよ、今は自分で商売してるんだよ、金ちゃん元気そうだね」

「えっ?商売してるの?」

みつおは意外な情報でびっくりしてしまった。

「今度会おうよ」

「会いたい会いたい、商売の話も聞きたいし、今度の日曜日はどう?」

みつおは、久しぶりの同期に会えるのと、商売の話に興味を持って即効でアポを取ったのだった。

そして次の日曜日…

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