第47話 劇的な出逢いと別れ
「はーい、みっちゃんいらっしゃい」
相変わらずマイケルの店は繁盛していた。
「みっちゃんさん、かんぱーい」
「あいり、元気?」
隣には美容師の卵で可愛い女の子がいた。
マイケルの店の常連である。
美容師の見習いなので給料はめっちゃ安いがやりがいがあると言っていた。
会うたびに髪型も色も変わっていた。
美容師は自分が広告塔なので常にオシャレを心がけないといけないので、安い給料で何とかやりくりをしながら、唯一マイケルのお店でストレスを発散しているのである。
とても気さくでいい子だが、マイケルに夢中でみつおに目をくれることはなかった。
しかし、スナックに行くのとは違い、安くで女の子と話せるのはラッキーだと思っていた。
「みっちゃん、実は今月でこの店も終わりだからさ、次の店が決まったら連絡するよ」
「えっ?辞めるの?」
「違うよ、オーナーが店を閉めるみたい」
「えっ?こんなに儲かってるのに?」
実はそこはミュージックバーが入るようなテナントビルではなく、通常の事務所とかがあるビルだったので、苦情が相次いだらしく、追い出されるような形で閉店するとのことだった。
そのビルの4Fには、有名なオカルト宗教の事務所もあって、場違いなのは間違いなかった。
「えっ?じゃどうするの?」
「みっちゃん、大丈夫、今度は他のオーナーが俺のために店をオープンしてくれることになったよ」
マイケルのファンは年齢層が幅広く、女性経営者からも人気だったので、マイケルの話を聞いて、自分の店を作ってマイケルにDJをしてもらう事で自分が楽しむのが目的だった。
だから、マイケルが全てを任されて、月々売り上げの何%かだけを払えばいいとの事だった。
「いつオープンするの?」
「二ヶ月後かな、一ヶ月は遊ぶことになるけど、その間に自分のレコードの整理とか、新しいレコード探しとかやっとくよ」
そうなのである。
マイケルは自前のレコードでDJをしていたのである。
昔からレコードを買うのが好きだったので、今では三千枚のレコードを店に持ち込んでいるとのことだった。
「FM沖縄の仕事もあるし、金にはならないけど勉強になるから面白いよ」
お昼の時間帯にわずか15分ではあるが、洋楽を紹介する番組を持っていたのである。
それから二ヶ月後、オープンパーティーに呼ばれて行ってみると、そこは繁華街の奥の方にある店だが、前の店と違ってかなり大きな店だった。
元々ニューハーフのショータイムがある店だったので、ちょっと内装を変えただけで、ミラーボールとか音響、DJで使う機械を揃えてミュージックバーの完成だった。
「凄いね、大きな店だね」
「思ったよりもいいスピーカー使っているから音もいいよ」
マイケルは喜んでいた。
みつおは店が終わってから行ったのだが、夜中にもかかわらず多くのお客様で賑わっていた。
その日からみつおはまたその店に入り浸るようになっていた。
そんなある日…
ポケベルが鳴って電話してみると、一緒にゴルフキャディをしていた友達だった。
それは、飲み会の誘いだった。
「何の飲み会?」
みつおは仕事がら通常の時間帯の飲み会には参加できなかったのだが
「送別会」
「えっ?誰の?」
「俺の、あはは」
自分の送別会をすると言うのである。
「何で?どこ行くの?」
「アメリカ」
「はっ?いきなりアメリカ?何しに行くの?」
「プロゴルファーになるための修行」
プロゴルファーになるためにアメリカに行くと言うのである。
キャディをするうちにゴルフにハマったらしく本気のようだった。
「それだったら店休んででも行くよ、いつやるの?」
「明日」
「はっ?また急だな分かった、場所は?」
プロゴルファーになるためにアメリカに行くという友達の送別会に出ないわけにはいかないと思って、急遽ママさんに相談すると、
「それは大事だね、行ってらっしゃい」
快く受け入れてくれたのだった。
指定された居酒屋に行くと、その友達ともう1人の友達がいた。
そして、そこに見覚えのある顔が
「あれ?工業じゃない?」
同じ高校の野球部だった同級生だった。
「俺サッカー部だったよ」
というと
「知ってる、足が早かったから有名だったよ」
「それにしても凄い変わりようだね、何でそんなにカッコよくなってるの?」
思わず直球で質問してしまうくらいみちがえていた。
確か、高校生の頃はみつおよりも背が低かったはずである。
入学式で前に出されたあの小さい方である。
それが、身長は170cmを超えみつおよりもかなり大きくなっていた。
そして、当時は野球部だったので丸坊主だったのだが、髪型もタレントのように決まっていた。
「今何してるの?」
かなり衝撃だったので質問攻めしてしまったのだった。
そいつは美容師の免許をとって、働いているとのことだった。
「そうなの?今度行くよ?あとで店教えてね」
この衝撃的な出逢が後にみつおの人生を大きく変えることになるとは、その時には知る由もなかった。
そして、プロゴルファーになるという友達は本気だということも分かった。
あまりにも突飛すぎて、本当は冗談で飲み会をしたいだけじゃないかなと思っていたのだが、本気でアメリカに行くという。
その友達と、みつおの高校時代の同級生は鹿児島の工業大学で一緒だったらしく、東京から帰る前に居候させてもらった友達も繋がっていたのだった。
久しぶりに通常の時間帯の飲み会で、みつおのテンションは一気に上がっていて、その飲み会が終わったあとも一人で飲み歩いて、最後にマイケルの店にきた時にはベロンベロンに酔っ払っていたのだった。
その日以来、みつおは自分を見つめ返す日々が続いた。
すっかり夜の世界に根付いていたのだが、ふと我に返ったのである。
「俺、何してるんだろう?」
元々は母親を喜ばせたくて東京のビジネスに参加したのだが、それが上手くいかなくて挫折しそうな時に母親が倒れ、それを機に沖縄に戻ってきたのだが…
母親が亡くなり、今度は一人残された父が心配でせめて父親には親孝行しようと思いつつも、夜の世界にハマってしまい、ほとんど顔を合わせることなく日々を過ごしていたのだが、美容師になって自分で店を出すために頑張っている同級生や、アメリカに行ってプロゴルファーになるという夢のために動いている友達をみて、自分が虚しく思えてきたのだった。
夜の世界でも、伝説のボーイの話などを聞いた事はあった。
ボーイからマネージャーにのし上がり、その後自分の店を出してオーナーになっている人もいた。
どんな流れで縁が繋がるか分からないのが夜の世界である。
ボーイをしていてもどこかの社長に気に入られて、その社長の投資で店を構えている人もいた。
いろんな伝説を聞くと、自分もいつかはと野望を持ったりしていたのだが、この前の送別会でハッとしたのである。
「俺は接待する側ではなく、される側になりたい」
夜の商売は、世の中の社長とか成功者などを接待する仕事である。
しかし、夜の帝王ではなく昼の帝王になりたいと思ったのだった。
夜の世界はあまりにも楽しすぎて、このままハマったら一生抜け出せなくなるのではないかと思うようになっていた。
そんなある日、チャンスはやってきた。
那覇の繁華街で働いていると、そこに飲みに来ている友達とよく会うのだが、その友達もたまたま飲みに来ていて、みつおがお通しの材料を買いにスーパーに来た時にばったり会ったのだった。
「あい、何でか?この辺で働いているのか?」
黒ズボンに白いシャツ、蝶ネクタイのままだったみつおをみて、すぐにどこかのボーイをしているんだと気がついたのである。
「あい、わくがわ、元気か?飲みに来たのか?」
「ちょっと仕事関係で接待している」
横には年配の男性がいたので、連絡先だけ教えてその場をさったのだが、次の日店のオープンの準備をしている時に電話が来たのだった。
「ありがとうございます、五番街です」
こんな早い時間に予約の電話かなと思ったのだが、昨日同級生だった。
「みっちゃんか?実は面白い話があるんだけどよ」
出た、とみつおは思った。
「何か、ネズミこうか?」
みつおは単刀直入に聞いた。
その頃、ネットワークビジネスが流行っていて、久しぶりの友達から面白いとか儲かるというキーワードが出ると大体はネットワークビジネスの誘いだった。
みつおは懲りていたので、二度と変なビジネスには手を出さないと決めていた。
「あはは、もしかしてみっちゃんも何かに騙されたんか?違うよ、そんな変なビジネスじゃなくて、住宅のリフォームの仕事だよ」
「リフォーム?」
それは全く想定外だった。
それで、次の日の夕方に店の前のA&Wで会うことにしたのだった。
次の日…
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