第11話 進路
「ピーッ、ピーッ、ピーーーーーッ」
「ウォーーーーーーー」
試合終了のホイッスルと共に、歓声が響いた。
「やったーーーーー」
チームも喜びと共にセンターラインに集まる。
優勝!
一、二年生編成の新チームでの初の大会で優勝である。
(すげー)
みつおは感動していた。
中学までは、3年間試合に出ることすら叶わなかったみつおが、高校では一年からスタメン入りをし、しかも初の大会で優勝したのである。
涙こそは出なかったが、その呆然とした顔には、他の人が喜んでいる以上に感きわまる心の鼓動を感じていたのだった。
ハーフラインで待機していたみつおは、味方がボールを奪うと同時にスタートしていた。
左のバックは、みつおシフトに備えて、キック力のある一年生が入っていた。
彼もみつおと同様、サッカーは高校に入ってから始めたばかりの素人だったのだが、キック力だけはあったので、監督が後半からメンバーチェンジしていたのだ。
彼とはクラスも同じで信頼関係があった。
相手からボールを奪うと迷わずに、相手ゴールの右コーナーに思いっきり蹴飛ばしたのである。
相手チームのバックはみつおを警戒していたが、それでもみつおには追いつかなかった。
ここは仲間を信頼するしかない。
みつおは、そこに味方が来れば絶好のチャンスという所にパスを出した。
そして見事に味方がキープし、一人を抜いてキーパーと一対一になり、出てきたキーパーの頭上にふわっとしたボールを蹴り上げ、ゴールの中に吸い込まれていったのだった。
「大野さん、ナイス ふわっとシュート」
大野さんは二年生で体力は無いが、ちょこまかした小技が得意で、練習のミニゲームではいつも色んな技を使って遊んでいた。
ふわっとシュートもその一つで、思いっきり蹴ると見せかけて、ふわっとボールを浮かし相手の頭上から軽くシュートするので、キーパーとしては屈辱だったらしい
監督に見つかるといつも怒られていたが、まさか決勝戦でそれを出すと誰も思っていなかった。
優勝したため、監督も文句は言わなかった。
「おーい、この後気を引き締めろよ」
監督の大きな声がかかり、残り十分を守り抜いて、優勝が決まったのだった。
その日以来、みつおは那覇南部の高校サッカーチームからは目をつけられるくらい有名になって行くのであった。
「あい、工業の右ウイングだよね
俺は、N高校のハーフだよ」
街を歩いていると、たまに声をかけられるのだが、物覚えの悪いみつおが覚えているわけもなく、
「あー、元気?」
と返事をするのだが、全く誰だか分かっていないのが通常だった。
高校はサッカー部に入ったおかげで、黄金期を充実して楽しんだのだった。
その時期も終わりが近づいていた。
三年生になり、サッカーも大事だが、もっと大事な事があった。
そう、進路の事である。
三年の最後の大会も終わり、最後の高校生活を楽しんでいたのだが、就職活動もしなければならなかった。
「どうせなら、一番大きな会社を受けてみよう」
そう思ったみつおは、競争率五〇倍の一番人気の航空会社の就職試験を受けたのだが…
もちろん、予想通り受かるはずはなかった。
それは想定内だったのだが、大きな会社を全て受けようと思っていたのに、なんと大きな会社は一律で同じ日程の試験日だったのである。
「しまった〜」
みつおの本命は、電力会社であった。
そのために、電気工事士の資格も取り、勉強してその会社の試験に受かりさえすれば、採用は約束されていたのである。
その会社の重役が、親せきにいたため、約束してくれたのであった。
その親せきも、みつおが自分の会社に来るのを楽しみにしていたのだが…
遊びで受けた航空会社の試験日と同じ日に採用試験があったため、試験を受けることすらできなかったのであった。
そして、他の会社の案内を見ながら友達の情報を聞いたりしていた。
すると、みつおと仲が良かった友達がほとんど同じ大学に行くことが分かった。
それを聞いたみつおは大学に行きたいという思いが芽生えたのだった。
それは、単に友達が行くから楽しそうというノリだった。
しかし、大学には行きたくないから工業高校に行くと宣言して入った工業高校である。
親が許すはずはないと思いつつ、
「工業大学に行きたい」
と打診したのだが…
「は?バカじゃないの?大学行きたくないから工業高校に入ったんでしょ」
案の定断られた。
ま、想定内と思っていたのだが…
「そんなお金があるわけないでしょ、大学なんか行かないで、自衛隊に入りなさい」
「は?意味分からん」
それは寝耳に水だった。
大学を断られるのは承知の上である。
一応は言ってみて、別の会社に就職するつもりだった。
それが…
自衛隊?
なんで?
どこから自衛隊の話が出てきたのかさっぱり意味が分からなかった。
「あのね、自衛隊は給料も安定していて、その上いろんな資格を取らせてくれるのよ、大学はお金がかかるだけどけど、自衛隊は給料を貰いながらいろんな資格が取れるのよ」
全く無知な母親から、そんな話が出てくるのは信じられなかったが、自衛隊の勧誘の人が家を訪ねてきて、
「おたくの息子さんは学校でとても優秀な成績なので、どんな職種にでもつけますよ。
自衛隊は国家公務員ですし…」
母親を説得して、しかも試験日まで決まっていたのである。
かなり抵抗したが、母親が泣いて頼むのでしかたなく、試験だけは受けることにしたのだった。
白紙で出せばいいや
と思っていたのだが、甘かった。
試験といっても、そのスカウトの人とマンツーマンで、答えまで全部教えてくれたのだった。
そのおかげで、文句なしのトップの成績で就職試験に受かったのである。
それでも、別の就職先を探して断るつもりだったのだが、就職先が見つからないまま、諦めて自衛隊に入隊したのである。
そこから、みつおの新しい旅が始まった。
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