第59話 業務拡大


「車買えなかったのか?」

「だっからよ、マジでムカつくってば、現金持っていったのに値引きしてくれなかったよ」

「あはは、ま、人気車だからしかたないよ、値引きしなくても売れるからね」

「まったく!変なプライド持ちやがって」

「そんな事より現実の話がしたいんだけどさ」

「えっ?現実の話って何?」

「あのさ、一応去年の売り上げで共同経営者になっているわけさ、その自覚がないだろ?」

「えっ?まぁ、正直なところ共同経営者って言われてもピンとこないね」

「だろ、だから話がしたいんだけどさ、まず経営者の利益って何ね?」

「えっ?会社の売り上げで決まるのかな?」

「単純に言うとそうなんだけどさ、お前は去年の5,000万円の売り上げを上げたから、実質いくら貰ったの?」

「単純に500万円かな」

みつおは、半年で500万円も稼いだのである。
一年だったら1,000万円稼げるかもと思っていた。

「それはお前のマージンだろ?俺はちなみに去年は自分で取った営業は2,000万円だわけさ、マージンは200万円だよな」

「あ、そうなんだ」

他人に興味のないみつおは社長である友達の売り上げを気にしたことはなかった。
しかし、社長なので営業だけをやるわけにはいかないので、そんなもんだと思った。

「これは少ないと思うか?」

「まぁ、俺と比べると少ないけど…」

社長なんだからもっともらっているだろうと思った。

「俺のマージンは200万円だけど、会社の利益はいくらあるか分かるか?」

「えっ?それは分からないな」

「まず、営業マンに10%だよね、そして下請け会社に50%〜60%で請けてもらってるわけさ、すると残りは30〜40%だよね」

「はぁ」

みつおはまだピンときていなかった。

「下請け価格とかこの前みたいな大きな値引きがあるから一概にいえないけど、例えば30%だったら年間の利益はいくらになる?」

「1億円の30%は…3,000万円?」

みつおは額を計算してびっくりした。

「だんだん分かってきた?その他の事務所代とかの諸経費があるから実際には純利益は1,500万円くらいかな?」

「おぉ、なるほど」

「で問題はここから、この利益を会社と経営者で折半するわけ」

「うん、うん」

「会社の去年の純利益は750万円、そして役員報酬が750万円、つまり俺は自分のマージンプラス放出で950万円の報酬をもらったわけさ」

「おぉ、すげぇ、そうか経営者ってそういうものなのか?」

「ま、社会的にはそんなには貰えないよ、でもこの会社は俺の会社だから決めるのも俺が決めていいでしょ」

「そりゃそうだ」

みつおは何だかワクワクしてきた。

「と言うことは、自分で頑張った営業は今まで通りのマージンが貰えて、全員の営業で稼いだお金から皿に報酬がもらえるようになるのが共同経営者ってこと?」

「そうそう、だから仮に去年が共同経営者だったら、750万円をさらに折半して自分のマージンの他に375万円の報酬が貰えていたってことだわけよ」

「マジか?すげぇ、全然やる気が違うな、てことは今年からはその報酬も貰えるってこと?」

「そういうこと」

みつおは、勝手に会社の売上のシミレーションをしてニヤニヤしていた。
目標通りの売り上げなら、自分のマージンが1,000万円で、会社の売り上げからさらに役員報酬が貰えるのである。

「すげぇ〜」

みつおが興奮していると

「そこで、本題はこれかなんだけどさ」

「えっ?今のが本題じゃないの?」

「いやいや、今日呼び出したのは他にも理由があるんだよ」

「なに?なに?」

みつおは、更にいい話があると思いワクワクしていた。

「実はさ、去年の売り上げがお前のおかげで予想以上に良かったから、業務拡大でそば屋を出そうと思うんだよ」

「そば屋?」

いきなりそば屋と言われて耳を疑ってしまった。業務拡大というならリフォームの他に建設業にも手を出すというのなら分かるのだが、全くの畑違いなそば屋である。

「うん、だから相談なんだよ、実は前々から俺はリフォーム業です稼いだらそば屋を出すのが夢だったんだよ、しかし、お前が共同経営者になったから勝手なことはできないだろ?だからお前の賛成がないと話を進められないんだよ」

「そうか、お前の夢ならいいんじゃないか?そのそば屋の利益も会社の利益になるんだろ?」

「そうそう、そう言うこと、場所もいい所をおさえたから、あとは自分たちで改装してオープンするだけだよ」

「えっ?もうそこまで話は進んでるの?」

「うん、去年はお前は共同経営者じゃなかったから話さなかったけど、今年からは共同経営者だから、勝手に俺だけで話を進めるわけにはいかないんだよ」

「オッケー、やろう!そば屋も繁盛させて利益を上げよう!」

みつおは何か知らないが興奮していた。
凄い成功ストーリーに乗っかっている気がしたのである。
すると…

「そこで相談なんだけどさ」

「えっ?今ので終わりじゃないの?」

「それは今までの流れを話しただけだろ、今日お前を呼んだのは、大事な相談があるからだよ」

「なに?」

「実はさそのそば屋をやるために会社の利益を全部使うわけにはいかないから、俺も自分の報酬から投資しているんだよ、同じ共同経営者としてお前にも投資をお願いしたいんだけど」

「えっ?投資?いくら?」

みつおは投資と言われて急に不安になった。

「100万円!」

「えっ?100万円?」

みつおはびっくりしてしまった。
みつおがオドオドしているのを見て友達は言った。

「あのさ、一流の人間は消費ではなく投資に金をだすんだよ」

「えっ?」

「お前が車を買おうとしていたのは消費だろ?ま、お前が望んでいた事だから俺は何も言わなかったけど、結局買えなかったんだろ?」

「うん」

「よかったね、車を買って消費したら気持ちはいいかもしれないけど、それで終わりだろ?でも投資をしておけば後々それ以上の報酬がまわってくるんだよ、それからでも車を買うのは遅くないんじゃないか?」

「あぁ、確かにそうだな」

その後いろんな話をして、みつおは投資をすることにしたのだった。
リフォーム会社の利益もそば屋の利益も何%かの報酬がまわってくるのである。

次の日にそば屋の予定地を二人で訪ねた。

「ここはさ、これから人が集まってくる場所なんだよ、5年後、10年後を見据えると最高の場所だよ」

「そうなんだ、ここを改装してそば屋にするわけね」

実はその店舗はもう契約を済ましていて、後は自分たちで改装する段階だった。
投資をしたみつおにとって自分の店と同じ事なので積極的にそば屋の改装に力を入れることにしたのだった。

「カウンターにはこだわっているわけさ、だから一枚ものの木材をそのままカウンターの天板にするんだよ、後は大工に任せて作ってもらう」

友達はかなりこだわりがあるようだった。
みつおは営業の途中でちょくちょくとその店舗に顔を出していた。
自分の物件ではないが、自分の店である。
出来上がるをワクワクして待っていたのだった。

そして、ついに店舗が完成した。
厨房の道具も揃え、後は営業に向けての営業許可書や保健所の検査をするのみだった。

そして、今度はメニューを考え、そこで働く従業員や調理人を探さなければならなかった。

「調理人は、友達に頼んでいるよ、従業員はとりあえず俺の彼女を店長として働かせる。後はバイト生だね」

何からなにまで段取りよく手配していたのだった。
みつおは、ただお金を出しただけでそば屋の事は全て友達に任せていた。

そして、そばができたというので一緒に試食に行った時のことだった。

「あい、みっちゃんじゃない?」

「えっ?」

そこにいた調理人とは…

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