第61話 波乱のバイト生活
「いらっしゃいませ〜」
「あい、みっちゃんじゃないか?何してる?」
「あい、あつし、ちょっといろいろあってここでバイトしてるんだよ」
そこは地元の店だったので、知り合いの客が多かった。
「お前はいつもいろいろあるな」
「あはは、今日は家族サービスか?」
「実は俺も色々あって、今日は家族会議」
そう言いながら後ろを目配せした。
後ろにはフィリピン人の女性が立っていた。
「俺の嫁なんだけどよ、ちゃっと怒ってるから」
それを聞いて何となく察した。
夫婦ケンカで、大事な話があるからわざわざカラオケハウスに2人で来たのである。
その後、トイレに行くついでにカウンターまで来て事の詳細を教えてくれた。
「毎週、野球の延長線で朝まで帰らないから怒っているわけよ」
「あぁ、あはは、相変わらず野球の延長線で飲み歩いているのか?」
みつおも一時期入っていた草野球チームで、毎週日曜日にどこかのチームと練習試合をするのだが、試合の後は決まって居酒屋で打ち上げをするのだった。
みつおは、マイケルの店のチームに入るだいぶ前に同級生の野球チームにも入っていたのだった。その時も毎週飲みに行くのが楽しみだったが、居酒屋で終わるはずもなく、カラオケを歌うという名目で若い女性がいるスナック流れるのだった。
それを奥さんがいるあつしは、野球の延長線という言い訳で通していたのだが、流石に怒って離婚騒動になっているのだった。
「ま、がんばよ」
みつおは面白半分で声をかけた。
「あい、あんたケンジにーさんの息子さんじゃないの?」
「はい、お父さんを知ってるんですか?」
地元のおばさんも声をかけてきたが、みつおは見覚えがなかった。
「知ってるさ、あんたのお父さんはこの一帯で有名人よ、三羽烏と言われて三人の暴れんぼうの一人だったから」
「あー、何かその話は聞いたことあります」
よくみつおの家に遊びに来ていた豚を飼っているおじさんがその一人だと聞いたことがあった。そのおじさんは方腕が無かった。
ケンカをした時にガラスに腕を突っ込んで、無理やり引っ張って取ろうとしたら腕がちぎれたとのことだった。
子供ながらに恐ろしと思いながらも何度も聞いていたのである。
「あんたのお母さんもよく知ってるよ、お店に来たついでにうちに寄っておしゃべりしてたから」
「あぁ、あのお店の隣のアパートに住んでいる方ですか?」
「そうそう、実はねうちの息子がサッカーをやっているのよ」
「あぁ、あの小さかった男の子がサッカーをやってるんですか?俺も高校生の時にサッカー部でしたよ、俺が教えましょうか」
まだ子供だと思っていたのだが
「いや、あの、その必要はなさそうよ」
「あそうですか、上手いんですか?」
「えぇ、まぁ、今ねJリーグに行ってるのよ」
「えっ?…」
みつおは恥ずかしくて入る穴を探していた。
「それは…、失礼しました、あはは」
笑って誤魔化すしかなかった。
Jリーグの人に教えることはできない。
「それにしても凄いですね。Jリーグですか」
そうなのよ、沖縄からは最初の一人らしいわよ」
「あぁ、思い出した。沖縄から最初にJリーグに入ったと話題になってめしたね。あれが息子さんですか?スゲ〜、サインもらってくださいよ」
「いやサインだなんて、まだ入っただけでまだ活躍もしてないのよ」
と言いながらかなり喜んでいた。
みつおの莫大発言が打ち消されてホッとしたのだった。
そのカラオケハウスは、下の居酒屋で働いていた時よりも知り合いが来る確率が高かった。
それで、気が楽になってすぐに慣れてきたのだが、もちろん知り合いばかりではない。
その近辺の悪ガキ連中も溜まり場にしていたのである。
未成年は夜の8時以後はお断りだった。
しかし、誤魔化して入ろうとするのだが、身分証明書の提示を求めると逆ギレはするのだが、警察を呼ぶというとビックリして帰るのだった。
しかし、もっとタチが悪いのは二十才を超えたヤンキー連中である。
断るわけにもいかず入れるしかないのだが、中で酒を飲んでどんちゃん騒ぎをして、部屋中を汚して帰るのだった。
「めっちゃムカつく、あいつら出禁にしましょうよ」
「そうだね、今度何かあったら出禁にしよう」
そこの責任者はオーナーの長男であった。
カナダに留学した後帰ってきたらカラオケハウスを任されたらしい。
わざわざ留学したのに、カラオケハウスかと思ったがもちろんそんな事は言えない。
それよりも仲良く過ごす事が有意義に過ごせると思ったので、常にその長男を立てていた。
そんなある日
「なんじゃこりゃ〜」
その部屋は、今台風が過ぎ去ったかのように、グチャグチャになっていた。
ソファーもバラバラに配置され、テーブルの上は、食べ物の皿や飲み物のコップが散乱し、床にはお酒や水が溢れて水浸しになっていた。
慌てて次のお客様のために大掃除をして、部屋を整えた。
「あの部屋はどんな人が入ってたの?」
カウンターに戻ってから、長男に尋ねる。
「女の子2人だよ」
「えっ?、ウソ、あれはないだろ」
みつおはびっくりした。
どんなヤンキーが入っていたのだろうと思ったのだ。
「あんなの、出禁にしようよ」
本気でそう思っていた。
前に働いていたスナックは、紳士な客が多かった。
しかし、カラオケハウスはそうではない。
好き放題やる若者が多いのだ。
みつおは、そんなお客様に憎しみさえ感じていた。イライラしながら部屋の掃除をしていると
「店の責任だから、店が弁償しろ!」
例の2人組の女の子が、カウンターで騒いでいた。
「何があったんですか?」
カウンターにいた長男に尋ねた。
「なんか、駐車場で車をぶつけたみたい」
なんでも、酔っ払ってるのに車で帰ろうとして、駐車場で別の車にぶつけてしまったらしい。
この店の駐車場に
「当店では駐車場内の事故に関して、一切の責任を負いません」
という看板がないので、責任は店側あると主張しているらしい。
駐車場に降りていくと、ぶつけられた車の主も出てきていた。
「あー、これくらいいいよ」
と、太っ腹の社長さんだった。
居酒屋のオーナーの友達である。
しかし、その女の子は気がすまないらしく
「これは店側の責任だから、店が弁償しろ」
と言い張っているのだ。
わけがわからない女子である。
「じゃ、今 警察呼びましたから、現場検証してもらってから判断しますね」
みつおはわざとそう言った。
勿論、警察など呼んでいない。
「ふざけるなー、もう2度とこんな店に来るもんか」
と大声で怒鳴りちらす。
気がつくと、その女の子2人組はいなくなっていた。
運転代行を呼んだのかはさだかではない。
「いくらなんでも…」
そのカラオケハウスは毎日のようにいろんな事件が起こって波乱のバイト生活が続いたのだった。
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