第16話 離島勤務
「はじめまして、よろしくお願いします」
「よろしく、じゃ行こうか」
みつおは離島の空港で、迎えにきた隊員の車に乗って勤務地である基地へと向かった。
「ここがこの島の一番の繁華街だよ」
迎えに来た人が案内した通りは確かにいろんな店が揃っていた。
スーパー、理容店、雑貨屋、民芸品店、喫茶店
生活に必要なものは全て揃いそうな通りだった。
しかし…
那覇の国際通りとは比べものにならなかった。
国際通りは、奇跡の1マイルと呼ばれ、戦後の復興で急激な賑わいを見せ、今では観光客が必ず訪れると言われる場所になっていた。
しかし、この島のメインストリートは、わずか数十メートルで、人通りもほぼ無かった。
そのメインストリートを通り過ぎると、ポツンポツンと赤瓦のある住宅街を通り過ぎて左に曲がり山の上へと登りはじめた。
すぐに住宅はなくなり、森林の間の山道をひたすらと車で走ること30分
ようやく自衛隊の門が見えてきた。
「ご苦労様です」
「ご苦労様です」
運転手と門の前に立っている警備員がお互いに敬礼して、門を入っていった。
いよいよ初めての職場に向かうのだ。
みつおは緊張してきた。
今までと違い、周りはほとんど年上の先輩である。
まずは隊長室へ行って挨拶である。
練習した通りに上手くいくだろうか、不安だった。
「入ります」
隊長室へ入り、隊長の真正面に立つ
「金城2士、第◯◯警戒群の任務を命ぜられました」
何とか噛まないでいうことがかできた。
「金城2士、本日より第◯◯警戒群無線設備班の任務を命ずる」
自衛隊の型式上の報告をして、隊長は優しく話しかけてきた。
「ここはいい所だぞ、何もないけど金城は沖縄だから良さが分かるだろ、釣りとかはするのか?」
「いや、釣りはしないです」
(そんなの興味ねーよ)
と心に思いながら丁寧におしゃべりをしていた。
みつおは淋しい離島に来てテンションが下がっていた。
術科学校で会った隊員は島には飲み屋が沢山あると言っていたが、メインストリートにそのような店を見つけることは無かった。
どこかにポツンと飲み屋があるのかもしれないが、島に来た初日でガッカリしていた。
釣りなんかよりも、カラオケが好きですと言いたい気持ちを押さえて静かにその場を去ったのだった。
その後自分が所属する班へと向かった。
その建物の中にはいるとみんなが拍手をして迎え入れてくれた。
その班の班長と並んで立ちみんなに紹介してくれた。
「えー、今日から我が班に所属することが決まった金城2士です。金城2士 自己紹介をお願いします」
「はじめまして、金城と申します。皆さんのお役に立てるように精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
ありきたりな自己紹介で終わらそうと思ったのだが
「金城2士!、お酒は好きですか?」
みつおより2つくらい上の先輩が質問してきた。
「特別すきではないですが付き合い程度なら飲めます」
無難に答えたのだった。
というのも、赴任先でお酒が飲めるというと死ぬほど飲まされるという噂を聞いていたからであるが…
「嘘つけ、お前は毎日クラブに飲みに来とったやろ」
「えっ?」
その声の方を見ると、何とクラブで会った隊員だった。
同じ基地だとは聞いていたが、まさか同じ班だとは思っていなかったのである。
「あはは、頭のチュルチュル中パッパなんだろ、ウケる」
全員が爆笑していた。
みつおが来る前からみつおの噂が広がっていたのである。
「今度くる新隊員は、頭ちゅるちゅる中パッパや」
みつおは高校を卒業してからパーマをかけていたので、頭はちゅるちゅるで、酒を飲んだらパッパラパーになるという意味だったらしい。
よりによって、その隊員はみんなから愛されキャラで信頼もある人物だったのだ。
いつも酒を飲むとパッパラパーになるが、いざ仕事モードになると誰よりもエキスパートなのである。
だから、みんなから頼られ、飲みに行っても楽しい存在なのだった。
自己紹介が終わり、自分のこれからの宿舎に行って荷物を整理していると終業時間になった。
パララッタラッタッター
パララッタラッタッター
パララッタラッタラッタラッタ
ラッタラララッタッター
自衛隊は17時にラッパと共に終業し夕食の時間が始まる。
みつおは先に教えてもらった食堂へと向かった。
もちろん、誰も知り合いはいないので一人で食べていたのだが
「はい金城2士!ここいい?」
先程の事務所にいた先輩だった。
「あはい、ご苦労様です」
慌てて敬礼した。
「こんなとこで敬礼はしなくていいよ、これから慣れるまで大変だけど頑張れよ」
と優しく声をかけてくれた。
そして、食べ終わって一緒に部屋に戻ると、何とその先輩も同じ部屋だった。
そこは、6人部屋である。
「同じ部屋だね、よろしく」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「あ、それから半年は大人しくしとけよ」
「えっ?」
その先輩は今まで見てきた経験からアドバイスしてくれた。
半年間は大人しくしておかないと直ぐに目をつけられ、みんなから仲間はずれにされたりするとのことだった。
「あ、分かりました」
みつおは一応は答えたが、あまり理解していなかった。
しかし、その意味が分かる事件が起きたのだった。