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コタロウ 8
≪キサマにとって怒りとは何だ?≫
扉を開けるといきなり大男に問いかけられた。荒れ狂って暴れまわるのかと思いきや、静かに座して訊いてきた。少し出ばなをくじかれた感はあったが、相手が静かに礼を尽くして話をしているのだから、こちらも対峙すべきだろう。僕も剣を置いて静かに座し、姿勢を正して口を開いた。
「大切なものに向けられた敵対心に向けられる、抑えの利かないものだ」
≪わっはっは! 素直な奴だ! 抑えの利かないものと認めおった!≫
「僕は修行しても怒りという感情は消す事は出来ないと考えている、ただその感情を憎しみとして使うのか、力の源として使うのかはその人間次第だと思う。できれば僕は慈悲の心を持って、力の源となりたいと考えている」
≪ほう、これは面白いヤツが来たものだ。自分自身が怒りに任せて我を忘れる、即ちワシに呑まれた経験がありそれを素直に悔いているのだな?≫
「そうだ、先に戦ってきた『高慢・物欲・嫉妬』と『怒り』とはその本質からして全く違うものだと僕は考えている」
怒りがニヤリと笑って一歩近づき、再び座して興味深そうに僕の眼を見ている。
≪どう違うと思う?キサマの考え、拳を交える前に訊いてみたい≫
「僕の中で『高慢・物欲・嫉妬』は自分勝手な欲望であり誰の為にもならない。でも『怒り』という感情は誰かの為に発動する様に僕の思考回路は出来ているようだ。だから自分が何をされようが何を言われようが、怒りに我を忘れる様なことは無い。しかし自分の大切な人に刃が向いた時、自分の中で怒りを慈悲を持って力の源にする自信がまだない。だからお前が『怒りそのもの』というのならば、素直に教えを乞いたいと考えている」
≪なんと!聞いたか、闘神よ!≫
驚いた、闘うものだとばかり思っていたのだが、『怒り』は闘神に話しかけたのだ。
【聞きました、とても素直な気持ちから出た言葉だと思います。コジロウ、聞きなさい。『怒り』とは貴方が言うように悪しき者として使われることもあれば、正義の源として使われる場合もあります。いま目の前に座している『怒り』は、やりとりの中で悪しき感覚を一切持たない純粋なものとなっています。もし話す相手が不純だった場合、かれもまた不純な怒りとなっていたことでしょう。貴方は教えを乞いたいと言いましたね、それではここで『怒り』の存在を認めた上で、正義の源として使う事を紋章に懸けて彼に約束できますか?】
「はい、もちろんです。彼が道具を持たないから僕も剣を置きました、話をしてみて(自分自身の怒りという感情が間違っていない)という確信も持つことが出来ました。紋章に懸けて、怒りは正義の為と誓います」
【それでは彼を頼みましたよ】
≪ああ、わかったぜ。兄ちゃん、体力に自信はあるか?≫
「大丈夫だ」
≪この『怒り』を属性として使いこなすようになる為には、ワシを納得させる事・闘神が認める事・お互い一発ずつ殴り合う事っていう三つの掟があるんだ。キサマは二つクリアしておる、どうだ?最後の殴り合いやってみるか?≫
「理解してくれてありがとう。やるからには一発だけ、思い切りこい!」
≪言われんでも!≫
男同士の殴り合いは顔面を殴り合う様なイメージがあるが、本当に心を許した者同士の殴り合いは互いの腹を一発だけ殴る。表面的に分かりにくく、一番ダメージを負うからだ。先ずは僕が『怒りの一撃』を受けた。内臓が口から飛び出すのではないかというくらいの凄まじい威力だ、その威力に暫く息をするのも苦しかったほどだ。
「す、すごいな・・・今度はこちらの番だ」
≪おう、遠慮したら意味がねえ。思いっきりこい!≫
身体をねじり息を吐き切り、渾身の力を溜めてこちらも『怒りの一撃』をお見舞いした。
≪お、お・・・。すごく清々しく豪快な拳だ!気に入った、我が属性使うがよい。わっはっはっは!≫
そう笑い飛ばすと光の粒と化して手の紋章に吸い込まれた。ものすごい力が溢れてくるのを感じる、お互い認め合ってこその属性であり、力だ。
(そうか、どこかで感じた事のある豪快且つ力強い感覚、でかい身体に素手での殴り合い、土の属性か)
剣を拾い上げて一礼し、僕は次の扉を開けた。
なんだここは・・・。僕に最もふさわしくないかもしれない部屋「色欲」だ。ソファーに肌の露出が多い女性が座っている。
≪あら、お兄さんいい男ね~。こっちにいらっしゃいな≫
「すまないが、今しがた『怒りと拳の契約』を結んできたところでな、それに僕はそういうハシタナイ女性は好まない」
そう言って地面に座った。
≪へえ、言うじゃないか。こんな硬派な男も今どき居たんだねえ、色欲の本当の恐ろしさ、味わってみるかい?≫
彼女の姿は布切れ一枚のトーエに変わった。
『コジロウ・・・来て・・・恥ずかしいから早く・・・』
わかっている、僕は不器用なくらい漢気なのだ。こんな安い仕掛けには騙されない。
「やめてくれないか、全く興味がない。むしろ貴様がトーエをこれ以上侮辱するのなら、僕は一瞬で灰にする!」
≪おーのーれー!!≫
色欲が本性を現した。その長い髪は数百本の針となり、自由自在に動くようだ。
「言ったはずだ、色欲の煩悩がある相手ならその手に落ちたであろうが、僕には通用しない。悪あがきはやめておけ、低級悪魔が」
僕は憤怒の気迫を身に纏った、土属性である。彼女の逆立った髪が気迫に押され、勢いを無くしてだらしなく垂れ下がった。
【色欲よ、残念ながらあなたの太刀打ちできる相手ではありません】
と闘神の声。
≪そうだろうねえ、こりゃあ出る幕なしだわ≫
ヤレヤレといった表情で、光の粒となり手に吸い込まれた。これといって何の変化もない。何だったんだ、ここは。腑に落ちない気持ちを抑えながらも次の扉を開ける。「貧食(暴食)の間」だ、これまた闘神から
【あなたでは無理です!】
ときっぱり言われ、「貧食」も大人しく僕の手に吸い込まれた。ここで闘神から僕に直接声が掛かった。
【コジロウ、貴方は今、心惹かれている異性はいますか?素直に答えなさい】
「・・・はい、会って時間も短いのですが、アナという女性の事が好きです」
【そういう気持ちはあるのですね、ホッとしました。余りに「欲達」が太刀打ちできないものですからひょっとして男性好きなのかと思いました】
「そ、そんなことはありません!無事に勇者として帰った暁には、彼女に一緒に来てくれるようにお願いしようと考えています。勿論彼女の意志は尊重するつもりです」
【よくわかりました。それでは最後の間へ進みなさい】
今迄とは少し違う大きさの扉が現れた。色も形も違う、何だか不思議な感じだ。開けて入ってみるとそこはフルールで、みんな揃っていた。
『遅かったじゃねーか、兄貴!』
〔おかえりなさい、コジロウさん!〕
『コジロウ、おかえりー!』
みんなが待っていてくれた、ミライ・ミレイ・トーエ・コタロウ・ガイアさんやレイワさんも。そうか、形が違ったのは出口だったからなのか。
「みんな、ただいま!待たせちゃったね」
『いやいや、いいんだよ。それより腹減ってねえか?今からステーキなんだ』
みんなで火を囲んで食べ、飲み、話している内に疲れからか僕は寝てしまった。目が覚めると毛皮の毛布が掛けられていて、まだみんな眠っている。
(いかん、身体が鈍る)
そう思い剣を振っていた。
『なんだよ、ゆっくり寝かせろよー』
そう言ってコタロウが起きてきた。
「ああ、すまない。身体が鈍る事が許せなくてな」
『いいじゃねーか、俺達みんなもうあきらめたんだぜ?』
(えっ?どいうことだ?)
『ああそっか、兄貴は知らなかったんだな。オメガってやつの事調べれば調べるほど、とんでもねえヤツでさ。俺達が束になったところで敵わねえ相手だってことがわかっちまったんだよ。だから、修行はもうやめた!』
「待て、お前本気で言っているのか?」
『冗談でこんな事言えるかよ。強くなったとはいえ、たかだか四属性や五属性ではお話にならないレベルなんだって。だって特獣を束ねてるんだぜ?』
「それはそうかもしれないが、闘ってみないとわからないだろう?」
『そんな事言ってるの、兄貴だけなんだって。トーエのお腹にはオレの赤ん坊がいるし、ミレイさんも赤ちゃんいるし。兄貴も嫁さん探しの方に必死になった方がいいんじゃねーの?』
(トーエがアースの様な末路にならずにコタロウを選んだのならそれはそれでいい、もしコタロウがトーエにプロポーズをするというのなら、僕は兄としてサンが自ら奇跡の石になったのと同じように祝福を送っただろう。しかしこの全員のだらけた感じは何だ!それなら僕一人でも戦いに行かねば、街の呪いは解けずに誰も救えないじゃないか!)
「わかったコタロウ、決別だ」
『なんだよ、トーエ取られて拗ねてるのか?』
「そうじゃない、僕にはここの空気が我慢ならない。一人でも戦いに行く」
『あーそうかよ、せいぜい犬死して来いよ。俺より弱いくせによ!』
酷く寂しい気持ちになりながら、僕はフルールを後にした。
(オメガを倒せば呪いは解けみんな幸せになれる、僕がやらなくて誰がやる!)
山一つ越えたところでとてつもなく大きな爆発音がした。
(あれはフルールじゃないのか?コタロウやみんなは大丈夫なのか?)
僕は放ってはおけず、急ぎ跳んで帰った。すると街は焼け野原と化し、あの時の緑色のマントのヤツがニヤニヤと立っていた。
『おや、あの時のリス君じゃないか。惨めに生きていたのかい?』
「トーエは・・・コタロウや皆はどうした・・・?」
『さあね、爆発させちゃったから蒸発しちゃったんじゃないかな?オレはこのペンダントが手に入ればそれでいいのでね。永遠の命に万歳!!』
「キサマ、ふざけるな!」
僕の怒りが沸点を超えた。
『確かあの時もそんな感じでオレに突っかかってきたけれど、簡単にやられたの、忘れたの?』
嫌らしい顔でニヤニヤしていやがる。
「寝言は寝てから言え、ベゴマクト!」
僕は金紫の閃光と化して、男を睨みつけた。
『おお、怖い怖い聖騎士様って言うわけないじゃん、馬鹿なの?オマエ』
深く息を吐いて身体を捻じり、一気に間合いを詰めて男を斬った。
「妬快の走(改)・・・炎雷毒癒の最上級剣技」
マントの男は剣を抜き、受けた。
『おっと、四属性か。これは素手では受けられないねえ。でも、こんなもの?』
一足離れて男との間合いを取った瞬間、ヤツは血にまみれた奇跡の石を自分の首に掛けた。
『ふーん、これが奇跡の石なの?何にも起こらないじゃない、全く実感わかないけど。あの女が持っていないと効果が無いのなら、とんだ無駄足だったわね』
そう言うとブチッと石を外して地面に落とし、それを踏みつけた。
『奇跡?笑わせるんじゃないよ!闇の錬金術こそ最高の人智だよ。どうだい、君もこちら側に来ないか?僕の右腕にしてあげるよ』
この言葉に僕は完全にキレた、怒りに呑まれたのだ。
「キサマ、コロス・・・」
そう言って一歩踏み出した時、腹部の強烈な痛みが僕を襲った。
『なになに、勢いだけ?笑わせる天才だね、オマエ』
(『怒り』が呑まれるなと僕に教えてくれているんだ、冷静になれ。怒りの感情を慈悲の力として相手にぶつける・・・)
僕は痛みのおかげで冷静さを取り戻し、再び金紫の閃光と化した。
「ベゴマクト」
『まだやるの?無駄だっていってるじゃない』
空中高く飛び、身体を回転させながら渾身の一撃を見舞った。
「怒耕の走(改)・・・炎雷毒土癒の最上級剣技」
男の身体は縦に筋が一本入り、
『な、五属性だと・・・』
そう言い残して真っ二つに裂けた。後に残ったのはどうしていいかわからない虚無感・・・肩を落としこれからどうしたらいいのかを考える余裕もないそんな時、ポンと後ろから肩を叩かれた。振り向くと鎧を着た美しい女性が立っていた。髪は腰まであり、とても美しい。
【土属性、我が物にしたようですね】
「えっ?あれ?ここはいったい・・・」
真っ白な宮殿の前に立っている自分がいた。
【貴方が見ていたのは「怠惰」が作り出した幻術です。それに見事打ち勝ち、私の目の前まで辿り着いたのです】
「それでは貴女が闘神様なのですか?」
【人は私をそう呼びますね。名はアテナと申します。貴方に闘神の力、授けましょう。戻ったら氷神シヴァに装備を溶かしてもらい、サンの黄金の剣と聖剣エクスカリバーと使って二刀流を極めなさい。そのエクスカリバーは私自身。それを使いこなす事により、貴方は刃属性を手に入れます。そして皆を慈愛の光で包むのです、それと人間には必要悪という概念が必要です。高慢・物欲・嫉妬・怒り・色欲・貧食・怠惰と七つ大罪がありますが、貴方は清らかすぎて時にそれが障害となり得るでしょう。わかりやすく言えば、自己犠牲が誰かの為にならずに単なる犠牲になってしまう可能性があるという事です。アナを大切なパートナーとして迎えなさい、そうすればミライ・ミレイの様に貴方は更なる愛の力に目覚めるでしょう。サンとアースの加護があらんことを】
そう言うと彼女は大きな光の玉になって僕の腕に吸収された。最期の扉、祭壇の裏に通じる扉を開け、僕はアナの元へ帰ったのだ。
《おかえりなさい、コジロウ様!》
アナが飛び込んできた。僕は素直に愛おしさを感じ、優しく彼女を抱きしめた。そして
「アナ、僕と一緒に来てくれませんか?闘神の試練は終了しましたが、僕には貴女という心の支えが必要なのです」
と彼女に伝えた。
《あの・・・私でよろしいのでしょうか》
「貴女でなければ駄目なのです、私の心の支え・癒しが貴女なのです」
そう伝えると彼女はその場に蹲り泣き出してしまった。強引に自分の気持ちを押し付けてしまい、傷つけてしまっただろうか?ご母堂様の方に視線をやると
≪嬉し泣きですよ、どうぞお連れになってください。先ず以て今日はもう時間が遅いですし、お疲れの事でしょう。女二人位ゆえ大したもてなしも出来ませんが、宜しければ明朝出発されてはいかがですか?≫
「それはありがとうございます、もうお腹もペコペコで。それではご厄介になります!」
≪そう仰っていただけてこの子も喜んでいるでしょう。さあアナ、コジロウ様をお泊めする用意を≫
《はい、お母様!》
温かい家庭料理、戦いの疲れを吹っ飛ばしてくれるような温かい空間、(ひょっとしてこれも怠惰の試練ではないだろうか)と感じられるほどの安らぎがここにはあった。食事を戴きながらご母堂様に訊かれた。
≪いままで一人として試練に向かう事すら許されなかったものを、コジロウ様は見事に成し遂げられました。どのような苦難であったのか、私達には想像もつきません。もしよろしければ差し支えない程度で教えて戴けないでしょうか?≫
「もちろんです、闘神の試練で僕が学んだことはもちろん剣技という技術的な事は大収穫としてありましたが、それ以上に『慈愛を持って愛する事』を学びました。人間とは致し方なく自分勝手が先行してしまうものですが、如何に人の為に偽りのなく曇りのない心で見極めることが重要かを知る事が出来ました、素晴らしい試練でした。闘神も『アナをパートナーとして迎えなさい』と言ってくれました、彼女は僕にとって掛け替えのない存在なのです。」
嬉しそうに頬を染め、涙をためている娘の肩を抱き
≪男勝りの無骨な娘ですが、今この時よりよろしくお願い致します。アナ、準備をしなさい≫
《はい、お母様》
何の準備なのか僕にはわからなかったが、彼女が別室で準備をしている間に僕は呑気に食事を戴いていた。食事が終わり寝室に案内されると、そこにアナが白装束で待っていた。
《私も及ばずながらコジロウ様をお守りいたします。どうぞよろしくお願い致します》
そういってベッドに入ると、より頬を染めて
《ど、どうぞ・・・お入りください・・・》
と僕に横で眠るよう言ってくれた。
「ありがとう、ちゃんとお風呂には入ったからね」
そう言ってベッドに入り、彼女の手を握った。心の準備は出来ていたのだろうが、彼女の身体が強張るのを感じた。
「大丈夫、怖くないよ」
《は・・・はい・・・》
そこから記憶がない、僕はトーエ・コタロウと寝る時みたいに彼女の手を握って深い眠りについた。途中一回も目が覚める事なく、爽快な朝を迎えた。
「おはようございます!」
元気に丁寧に、朝食の準備をしてくれているアナとご母堂に挨拶をした。何だか様子がおかしい・・・。
「あの、僕の身体大きいから狭くて眠れませんでしたか?」
《い、いえ、そんなことはございません!》
おかしい、明らかに寝不足な顔をしている・・・
「イビキがうるさくて眠れなかったとか・・・」
《いえ、静かにグッスリと眠っていらっしゃいました・・・》
「あ! 申し訳ありません、勝手に手を繋いだりしたから怒っていらっしゃるのですか?」
《それは嬉しゅうございました・・・》
ここでご母堂様から意味深な発言、
≪あの、コジロウ様。娘になにか至らない点がございましたでしょうか?≫
「いいえ、全く。隣に居てくれたおかげで久し振りに安心してグッスリ眠る事が出来ました。ありがとうございました!」
この言葉を聞いて二人は噴き出した。何か失礼な事を言っただろうか?
≪それはようございました、これからもお側においてやってくださいますか?≫
「こちらこそ、宜しくお願い致します!」
アナの表情が急に明るくなった、まるで何か心配事が払拭されたかのように元気になった。よかった、その表情を見て僕も安心した。女性二人で生活してきたと聞いていたので、男性の僕が居る事でお父様を思い出して悲しくて眠れなかったのではないかと心配だったのだ。朝食を戴き、出発の準備が整えられているアナを連れて
「それでは、行ってきます!」
と僕は彼女を抱きかかえて跳んだ。フルールに着くと皆が迎えてくれて、コタロウも帰ってきていた。
『おう、オレの方が一歩早かったな!おかえり!』
〔おかえりなさい!〕
『おかえりー!ん?その女の子は?』
トーエがきょとんとした顔で見ている。
「ああ、修行の途中で僕を助けてくれたアナさんだ。これから僕は彼女と眠るから、トーエとコタロウでベッド広くつかえるな!」
〔な!!〕
[ええ?!]
『な、なに?』
ミライ・ミレイ・コタロウが驚愕の顔をしている。何をそんなに驚いているのだろう、事実を話しただけなのに・・・
『そうだねー、コタロウちゃんだけになると何だか寂しい気もするけど、同じ屋根の下に居るんだから安心よね。また女の子のお友達ができるのね!』
(トーエと兄貴は全く分かってねえ、というより二人以外は事の重大さに気づいているのに、何でこの二人はわからねえんだ?)
《はじめまして、アナと申します!不束者ですが宜しお願いいたします!》
『アナちゃん、うちは宿屋でね。お風呂おっきいんだよ!ミレイさんも女同士一緒に入っているの。アナちゃんも一緒に女子トークしよう、よろしくね!』
(まったく、こんな「ど天然」でいいのか?この二人は・・・)
普段冷静なミライもさすがに驚きは隠せないらしい。
『よっしゃ、では兄貴の修行内容発表会・・・の前に、オレの修行の成果兄貴に見てもらわなきゃな』
「そうそう、気になっていたんだよ。是非見せてくれ!」
これを聞いてミライは氷シヴァを呼び出した。
【小僧、コントロールするのじゃぞ】
静かに腰を落とし、真紅の閃光を放ったコタロウが地面に向けて放った。
「炎神の斬・・・炎の神技」
今度はコントロールされていた。安心したのか氷神シヴァが戻ろうとした時、ミライが止めた。
[氷神よ、すまないがコジロウの属性がわからないので今しばらくいてくれないか?]
【奴なら問題ない、ワシにはわかっておる】
そう言って氷神シヴァは「サンの鎧と剣」を溶かし、戻ってしまった。
「凄いな、炎の神技じゃないか!」
『驚くのはまだ早いぜ、その雄姿を見せてやってくれ炎神イフリート』
真っ赤な炎に包まれた炎神が姿を現した。
【本来はこんなに軽々しく出てこねえが、「雄姿」と言われたら出ざるを得ねえな! おいコタロウよ、属性攻撃も披露せぬか!】
再び深く腰を落としたコタロウは斬撃を振り出した。
「閻龍の斬(改)・・・炎雷水刃癒の最上級剣技」
(す、すごい。五属性を使いこなしている。しかも炎神イフリートまで)
『さあ、今度は兄貴の番だぜ!』
「わかった、まだコントロールできるかわからないから、危ないと思ったら納めてくれ」
僕は天高く跳びあがり、回転落下しながら技を繰り出した。
「怒耕の斬(改)・・・炎雷毒土癒の最上級剣技」
[おお、コジロウさんも五属性を納めましたか]
それを見ていた炎神イフリートが、
【おいキサマ、とんでもないもの連れてきたがったな。クックック、これは面白くなりそうだ!】
そう言ってコタロウの腕に帰っていった。
『とんでもないものって何だよ!もったいぶらずに見せてくれよ!』
コタロウは強くなるという事には本当に貪欲で、ウズウズしている。わかりやすい弟だ。
「わかった、出て来てくれますか。闘神アテナよ」
美しい鎧をまとった女性が目の前に現れた。
『闘神だと!そりゃとんでもねえ!!』
【みなさん初めまして、アテナと申します。シヴァとイフリートには別次元で挨拶をしておきます。それよりコジロウよ、エクスカリバーを使ってもう一つの技を披露したまえよ】
僕はサンの剣と聖剣エクスカリバーを両手で持ち、一気に閃光を解放した。
ミライ・ミレイは白銀、コタロウは真紅、そして僕は・・・黄金だ。息を吐き、力と気を溜めて一気に薙ぎ払う。
「闘神の斬・・・炎雷土刃癒毒の神技(闘神アテナ)」
[六属性!!]
『なんだと!!』
ミライとコタロウが驚いている中、ちゃっかりと出てきた氷神と炎神は口をそろえて言った。
【当たり前じゃ】
【そりゃそうだろう、闘神だぞ?】
【久しぶりですね、二人とも。みんな主人が見つかり良かったですね】
【はい、アテナ様】
【おう、こいつらもスゲーけどコジロウも凄いな】
すごい、神三人が話し合っているなんて。我々人間のなんと小さい事だろうか。
【言ったであろうコジロウよ、必要悪な罪もあると。アナよ、女に恥をかかせてしまってすまない、純粋が故なのです。どうかコジロウを許してやってほしい・・・そこまではコジロウに教えていないのです】
《はじめましてアテナ様、心得ております!アナは元気でございます》
(神が謝った!!、なんなんだ、このアナという女性は??)
【よかった、安心した。もう一つ気になる事が、トーエよ。同じ女として主の心が気になる、今から一緒に風呂に入りませんか?】
(神が風呂に誘った!!トーエも何者なんだ??)
『神様とお風呂入れるなんて夢みたい!ぜひぜひお願いします!』
【女の衆みんなで入ろうぞ、ミレイもじゃ。残念じゃが男子禁制じゃ。シヴァも来なさい】
【闘神のお言葉とあれば・・・】
氷神のシヴァは氷の鎧を解き、その長く美しい髪を風に遊ばせながら何の違和感もなく風呂へと消えていった、残された男連中は呆然である。
【ワシが一緒に入ってやろうか?】
『オメエが入ったら熱湯になっちまうじゃねーか!それより炎神よ、あんた達が一目置いている闘神アテナがなぜオメガに封印されちまってたんだ?』
(それはミライも僕も気になっていたところだ)
【聖獣達を人質に取りやがったんだよ、あのクソ野郎は!】
(なるほど、だから「闘神の試練」として戦う事の出来る人間を待っていたという事か)
【来てはなりませぬぞ、炎神よ】
頭の中に闘神アテナの声が聞こえた。
【ちっ、なんでもわかっちまうんだよ彼女には。つまらねえから帰る!】
そう言ってコタロウの中に戻ってしまった。そこから先は男三人で、どういう修行を行ったのか、誰と出逢ったのかを互いに話し合った。
女性陣が入浴を済ませ出てくると、シヴァは再び氷の鎧をまとってミライの腕に戻り、闘神アテナも安心した様子で僕の腕に戻った。
『さあ、飯喰ってオメガ退治に備えようぜ。そういえば、アナさんだっけ?彼女はどこにあてはまるんだ?』
(コタロウの疑問も不思議ではない。勇者二人と魔法騎士二人、白魔法召喚士は決まっている)
ここでミレイが口を開いた。
〔闘神アテナ様より伝言です、アナさんは大三角の一つベガ。聖剣エクスカリバーより力を受け継ぐ「黒魔法召喚士」だそうです。なので、トーエさんが呼び寄せられる召喚獣が聖なるもの六体、アナさんが呼び寄せられる召喚獣が邪悪なるもの六体となります、との事です〕
[ふむ、なるほど。これで欠けていたパーツが全て揃ったという事ですね、明日からはトーエさんとアナさんの召喚魔法特訓開始です。勇者二人に魔法騎士二人、それに神が三名いらっしゃる。コジロウさんもコタロウさんも手伝ってください]
『おう、わかった。まかせとけ!』
「ああ、もちろんだ。待たせたね」
僕等は男同士互いに認め合い、友情という絆が生まれていた。一方女子会トークでは、
『ねね、コジロウってなんだか可愛いでしょ?』
《は、はい。可愛いです、大好きになりました》
〔私にはミライ様がいてくれるもん、ところでトーエさんはコタロウさんでいいの?〕
『私はコジロウ、コタロウちゃんって呼ぶでしょ。コタロウちゃんって放っておけないのよねー』
[あー、わかりますうー]
《ご兄弟なのに、そうなんですねー》
何だか楽しそうだ、まあトーエにも仲間が出来て良かった。いよいよ召喚という難関な修行が始まる。
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