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21.なんでこんなに会議が多いの?(専任大学教員の仕事その5)

1. 会議が仕事?


実務家の人が専任大学教員になって一番驚くのは会議の多さだろう。非常勤講師から専任講師になった人も、想像もしていなかったので戸惑う。私のような民間企業の社員にとって会議は必要悪だった。会議はできるだけ少なく、やらなければならないならできるだけ短く、会議時間の厳守などを叩き込まれていた。部下には会議の時間は仕事をしているとはいえない、と言っていた。ところが大学の専任教員になってみたらやたらと会議が多い。
これはある年の7月一か月間に私が実際に出席した」会議である。
入試ワーキンググループ(全学)
カリキュラムワーキンググループ(学部)
FDSD委員会(全学)
進路支援委員会(学部)
奨学金委員会(全学)
教学運営協議会(執行部)
教授会(学部)
新学科ワーキンググループ(全学)
国際交流委員会(全学)
教育施設ワーキンググループ
地域連携委員会(全学)
私は副学長と学部長を兼ねていたので普通の教員よりは多いが、それでも(執行部)と書いてある会議以外は教員が割り振られて出席している。教員は複数の委員会やワーキンググループに名を連ね、いくつもの会議に出なければならない(教務委員会や学生委員会のように全学と学部の両方に委員会がある場合もある)。
ワーキンググループとは何らかの委員会の下部組織で委員会に上げるプランを作るところ、委員会はそれを審議して決定するところ、教授会や教学運営協議会は委員会から報告を受け決定をオーソライズしたり差し戻したりするところ、と言うのが概ね役割であり、ご覧のように屋上屋を重ねているのである。
それぞれの会議には必ず事務局として事務職員がついている(議事次第や資料、議事録を用意するのは事務職員の役割である。ただし事前に教員が資料を作成したりデータを集めたりしなければならないこともある)。
ある大学であまりにも委員会が多いので委員会を減らす委員会を立ち上げたが、結局うまくいかず解散したという冗談のような本当の話もある。

2. なぜこんなに会議が多いのか、それはガバナンスの問題。


最近、霞が関の高級官僚から某国駐在大使を経て4月から某私立大学の教授になった知人(このクラスになると「公募」ではなく「招聘」)と話をした。本人曰く一番あきれたのは学長が決めたことを学部教授会でひっくり返そうとしていること。「教授会の自治が侵害される」とか言っているが「教授会の自治」って何だそれは?長年組織で働いてきた元官僚には理解不能の世界だ。私は「それは一流大学の証ですよ。中小の大学ではそんなことをやっていたらつぶれてしまうので、執行部によるガバナンスは効いています」と話した。
とはいえ、ここに会議が多い理由がある。職員には一般の企業や役所のように指揮命令のピラミッドがあるが、教員にはない。学長や学部長も教授の一人であって教授はみなフラットであり一国一城の主然としている(本当は学校法人に雇われた、就業規則もある被雇用者に過ぎないのだが)。そのために、本来なら学長なり学部長が指示命令すればいいようなことも、「皆で決めたので守りましょう」という体にするためにやたらと会議が多くなるのである。文部科学省としてはそんな悠長なことでは時代の変化に対応できないので、迅速な意思決定のために学長学部長(経営チーム)の権限を強くするために躍起になっているのだが、一流大学ほど動きは鈍い。教授が変なプライドを持っているためだ。
会議ではプライドがあるので何かにつけて「それはいつだれがどこで決めたのか」とまぜっかえす輩がいる。私は議事を取り仕切る役が多かったのでそのような質問が出ると「それはあなたの権限の及ばないところで決定されたものです。もしご意見があるのならこの場で賛否を明らかにしたうえで理由を説明してください。そうしていただければしかるべきところに伝えます」と返事をしていた。振り上げた拳のおろしどころをそっと差し出しているのである。

とにかく専任教員になったら会議の多さは覚悟する必要がある。そして最初のうちは「民間企業と比べておかしい」などと騒がずに、じっと観察してほしい。そのうち改善策が見えてくるものである。

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