バンコク 1997 Part 8
ラッチャダーピセーク通りに入ると、
すぐ先の交差点の角に日系スーパーが
見えて来る。
そちらを通り過ぎると、すぐ右側に
レストランのゲートが見えて来た。
「あちらに見えるゲートから入って下さい」
確認の意味も込めてタクシーの運転手に
告げた。
ゲートをくぐると、広い駐車場に
ピンク色のベストを羽織った
駐車場係の姿が数人見えた。
その奥にレストランの建物が見える。
広大な敷地だった。
「この辺で降ります」運転手に停車するよう
伝えて降りると、建物へ向かって
歩いた。
「サワッディーカー」女性のスタッフが
建物を背に、こちらへ向かって
歩み寄って来る。
「私の友人が予約しました。間もなく来ると
思います。」と英語で伝えた。
手持ち無沙汰に入り口辺りでゲートの方を
しきりに見ていると、
程なくブラウンメタリックカラーの
ボルボが入って来た。
夕食の約束をした友人の車だ。
運転席には見慣れた運転手の顔があった。
ボルボは建物の入口に横付けすると、
運転手が後部座席に周り込み
ドアを開けた。
Tシャツにジーンズ姿で私と同年代の
女性が降りて来る。
タイでは自分の名前が長いせいか
短いニックネームを持つ人が珍しくない。
彼女のニックネームはキャサリン。
私はキャシーと呼んでいた。
「お待たせミスターH」キャシーは私に
微笑みかけながら、言葉を発した。
「こんばんは、キャシー相変わらず
忙しそうだね。自分だけ儲けてないで、
私にもビジネス下さい。」
冗談混じりに私はそう言った。
キャシーは海辺のリゾート、
パタヤの近くに飲食店を数店舗経営する他、
インドラホテル近くのプラトゥナム市場
で衣料品を扱い、東京の問屋街、馬喰町の
大手卸屋さんにタイシルクを輸出している
と言っていた。
若くして、成功した彼女を妬み、
マフィアの情婦ではないかと陰口を叩く人も
いるけれど、
市場で汗だくになって働く彼女の姿を
何度も見かけている私は、
そんな噂話には、相手にもしなかった。