絶対音感のあれこれ②事象関連電位

1,飽きた

「たんぶんさんって絶対音感なんですか?」
「左手もわかりますか?コードは勉強しましたか?」
「なんでブルーバード弾けるが?楽譜ちょうだい!」
「クラシック弾いて!(弾けないし音感判別できない)」

 確か年中さんから小6まで、近所のピアノ教室に週1回通っていた。コンクールとかを目指す本格的なところではなく、レッスンブックや歌謡曲を使って初歩的な楽典や弾き方をゆるく(?)楽しく教わっていた。

 中学入学前の春休み、父のパソコンに入っていた採譜ソフト「finale」の無料版でいきものがかりのSAKURAを作ったこと、卒業式の茶話会でやりかったよさこいソーランのバンド譜(頓挫)が親に見つかった。「それってすごいんじゃないの!?」と言われたのが、当時「鼻歌耳コピ」と呼んでいた特技の自覚だった。

 体力テストのハンドボール投げでマイナス1mを記録したこともある私は、音感について「みんなは相手が投げたボールに合わせてミットを動かして、タイミングよくつかめる。自分はキャッチボールができない(ガチ)代わりに、聞こえた音に合わせて音の名前が浮かんでくる。それだけ。」と周りに伝えているのだが、やはり理解されない。

 この説明に飽きた。だから色々書いておく。

2,定義

 さて、絶対音感(英:absolute pitch)とは、「外的な基準音なしに音楽的音高を答える能力」である。よくわからないし漢字が多い。ポイントは2点ある。

 1点目。音高とは周波数1:2の2つの音を西洋音楽的に12分割したピッチ、つまり1オクターブ内の12個の音のこと。したがって、物理的な振動数(周波数)そのものを捉える能力ではないことがわかる。音を聞いたときにどう感じるかという「ピッチの知覚」、つまり人間の心理的なはたらきと密接に関わる点が特徴的である。

 2点目は、他の音と比べるのではなく、あくまで「記憶に基づき音高名を答える」ことができるという点である。なお、他の音と比較したときに音高名を答えることができる能力は「相対音感」、記憶された特定の音を基準に音高名を答える能力は「仮性絶対音感」と呼ばれている。(妹は「君が代」をキーに「レだけ音感」を持っていたが、今は消失したらしい。)

 なお、12の音がどのように定義づけられており、1音ごとの周波数がどのような規則性を持っているかについての説明は省略したい。半音(12個の音の1個ずつ)の周波数差がおよそ6%なこと、周波数が2倍になれば1オクターブとされているが、厳密には異なること、周波数は等比数列で増えていることなどについては、こちらを参考にしてほしい。(センター入試のためだけに数Ⅱを学んだ人間にはきつかった。よく読んでかみ砕けるようになったら書くかも。)

小方厚(2018)「音律と音階の科学 新装版 ドレミ…はどのように生まれたか」 

3,判断方法のあれこれ ~事象関連電位~

 さて、絶対音感であるかどうかを判定する方法については、これまで様々な方法が議論されてきた。

 もっとも簡単な方法が、ピアノのドを鳴らして「これ何の音かわかる?」と聞くこと。私も死ぬほどやられてきた。つまり、聞いた音に対してどのように回答したかという評価しかできない。これを「操作的定義」と呼ぶ。

 他の方法として「絶対音感が発動されるときに、共通してみられる脳の反応はどんなものか?」という研究も行われている。

 絶対音感研究でよく見かけるものが「事象関連電位」に注目した研究。

事象関連電位(Event-Related Potential; ERP)
外的/内的な事象に時間的に関連して生じる脳の電位変化を,頭皮上に貼りつけた電極から記録したもの。
【引用】心理学用語集
外的刺激により引き起こされる大脳誘発電位(evoked potential)とはことなり、刺激(事象)に対する被験者の認知的態度を反映する内因性の電位
【引用】菅井康祐,「ERP (事象関連電位)データを読み解くための基礎知識」,外国語教育メディア学会 (LET) 関西支部メソドロジー研究部会2012年度報告論集,pp. 75–82

 事象関連電位とは、いくつかの成分があって、色々工夫することで「この事象に特有の反応」を見ることができる。なお「○○な反応があったから、~である!」と言い切るためには相当前提条件を工夫しないといけない。
 現状では「ドとレを鳴らしたら、事象関連電位の○○な成分に反応がありました」などという結果を使って、仮説を考察する手法がとられているようだ。

 例えば、2つの音を聴き比べた時に、普通の人なら見られるP300という事象関連電位の成分が、絶対音感の人にはあまり見られないらしい。 

 p300とは刺激に対する比較、評価、判断などに関わる成分とされている。音感なしの場合、通常ワーキングメモリ(脳の一時的な操作場所)に聞こえた音を保管して、「これは何ですかね?」と直前に聞こえた音と比較して差を評価して判断すべきプロセスをとっている。p300ガンガン反応するよね。

 絶対音感なら「この音はドと同じですね」と、長期記憶から無意識に評価できてしまう。そもそも直前の音を一時的に保管して比べる必要もなくて、入った音を潜在記憶と照合させるだけでいい(絶対違う)んだから反応弱いよね。

 ようするに、単に耳や目から入ってきた刺激に対する脳の反応ではなく、認知の様子に対応した波形が見られる。


 ・・・よくわからない!!!!!!!!!!!!!!!!

 なんか調べたらめっちゃ種類あるし!!!

・感覚受容器を通って脳で分析される段階で、言葉としての情報と音の高さとしての情報を分けて作業されている
宮澤史穂「ワーキングメモリモデルに基づく絶対音感保持者におけるピッチ情報処理の研究」

(てかなんで仕事でいつもよく聞く実行機能とかワーキングメモリとか選択的注意とか音韻ループとか出てくるの!!!!!ADHDの不注意って事象関連電位を使って研究もされてるんだへ~~~~!!!!って思ってたら、サジェストで「事象関連電位 自閉症」って出てきたし。なんか読んじゃったら統語論とか出てきて言語障害~~~~!!!!!ってなった深夜。)

 でも実際「事象関連電位 絶対音感」で調べると面白そうなのがいっぱいでてくる。(なお読めない素人。もったいない)
 当分は、「成分名+絶対音感」で調べてサマリーだけ読むのが効率よさそう。論文の読み方としては不正確だし不敬だけれども、十分楽しそう。

4,絶対音感の言語と聴覚事象関連電位

脳は“ドレミ”を言語処理!?-脳波により絶対音感の仕組み解明へ- | 研究成果 | ニュース - 新潟大学 https://www.niigata-u.ac.jp/news/2019/59035/

  N1cという聴覚電位の反応を調べることで、絶対音感では「音を言語のように処理している」ことを明らかにした研究。さすが絶対音感の新潟大学。N1cとは左右の聴覚野から同じように発生されるものだけど、絶対音感の人は音を聞いた際、”なぜか”右聴覚野の働きを弱めることで、左聴覚野から発生されるN1cが優位に観測された。しかも左聴覚野とは、言語処理にかかわる部位。

 ドレミのうたの歌詞は「ドーはドーナツのド」から始まる。ハ長調だとして音階は「ドーレミードミードーミ」となる。

 この曲を歌う時に、「ドーは”ミ”ーナツの”ミ”」と歌う人はいない。もしそうだとすると絶対音感か、または音韻意識をはじめとするきこえとことばの認識に困難を抱えている人かもしれない。絶対音感ではそもそも音が言語として聞こえているのだから、「ミなのにド!!!!!」と訴える人も少なくない。生きづらい人ってどこにでもいるよね。

 絶対音感保有者にとって、音感はより高次に発動されることが多い。日向のドレミソラシドも、歌詞より音階を覚える方がスムーズだった。

【参考】日向坂46の「ドレミソラシド」を歌詞通りの音程で弾いたらヤバくなったwww https://youtu.be/n1r17PsGMV4 @YouTubeより

5,MMNって?

ここからはメモ。書きながら全く意味が分からない。

 聴覚性事象関連電位では「N1成分」だけでなく、たとえ無意識であっても音が変わった時に勝手に現れる「ミスマッチ陰性電位(MMN)」もあるらしい。

(余談:ADHDの不注意特性のひとつに、聴覚的注意の選択が難しいことがあげられる。名前を呼ばれても気付かないとか。これは「様々な音から、特定の音が聞こえたときに、その音だけを取り出して注意を向ける」という選択的注意に課題があることが明らかになっている。その際の事象関連電位を調べたら、やっぱり「MMNがより微弱だった」という研究を見つけた。ちゃんと調べてレビューしたい。)

J-STAGE Articles - MMNを用いた絶対音感保持者の聴覚情報処理に関する研究 https://doi.org/10.11422/jscn.40.527

【要約】
①標準刺激をラ・逸脱刺激をシ
②標準刺激をラとシ の間・逸脱刺激をシとドの間

【結果】
・絶対音感の人は②より、①の方が、MMNが小さかった
・普通の人は、どちらも同じくらいのMMNだった

【意味】
・人間だれしも「2つの音が同じ高さか、違うか」は分かる
・絶対音感の人は、めちゃくちゃな音と、音楽で使う12種類の音を切り分けて捉えることができる
・12種類の音の場合、思い出さなくてもわかる「潜在記憶」で自動照合されるから、音が変わった時のリソースが小さくて済む

6,おしまい

 よくわからなくなってきました。ただ、ここまで自分が把握した情報を羅列したのは初めてだったのでだいぶ整理ができた。とりあえず事象関連電位という検索キーワードを得たこと、どうやら共感覚でも似たようなメカニズムが行われているらしいことは大きな収穫。これ以上足を踏み入れるとついてけなさそうなので、とりあえず宮崎謙一先生が特別講義なさってたから見て寝ます。

大学講義 「音と音楽をめぐる科学と教養2021」 第12回 宮崎謙一先生 特別講義 「絶対音感」 https://youtu.be/Oui3Plw3L7k @YouTubeより 

情報提供・修正お待ちしております。中の人はド素人の一般人です。

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