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価値観3

金曜日の18時30分に私はファミレスの中にいた。
ミキと優良物件の待ち合わせ時間は19時。
ボックスが並ぶその1つに一人で座っている。
これから込み合う時間帯に一人客でボックスを占拠するのは気が引けたが仕方ない。
18時50分頃にミキが入ってきた。
私を確認すると私の前のボックスに背を向けて座る。
右手を軽く挙げて親指を立てているので「よろしく」とでも言いたいのだろう。
19時を数分過ぎた頃、駐車場に地鳴りのような音が響いた。
たぶん優良物件が自慢の車で登場したのだろう。
地鳴りが止み、来店のチャイムが鳴るとスーツを着た男性が入ってくる。
背は170より少し低い程度、体形は細いがジムで鍛えているのがスーツ越しにもわかる。
顔はイケメンとはいえないが中の中だろう。
収入や立場を考えると本当に優良物件だった。

優良物件
「遅くなってごめんね、会議が少し長引いちゃった」

ミキ
「いえ、私もさっき来たばかりなので気にしないでください」

店員を呼んでオーダーを済ませると優良物件の自慢話が火を噴く。

優良物件
「今度車を買い替えるんだよ、フェラーリだから納車は半年以上かかるけどね」
「ぜひミキさんに助手席へ座ってもらいたいな」
「今のマンションも飽きてきたから引っ越したいんだけど、ミキさんも一緒に内覧に行かない?」
「仕事大変じゃない?大変なら僕がサポートするから働かなくても大丈夫だよ」
「仕事が好きなら今度立ち上げる法人の役員でもやってみない?」
「芸能人の○○って知ってる?今度その人と飲みに行くけど一緒に行かない?」

覚えてる内容だけを列挙しているが嫌われるのも当然だと納得。
全て金の力を借りて再現している事を自慢しているだけだ。
その金を稼ぐんだから凄いと言えば凄いのだが、それも親の力があるからだろう。
一通りの自慢話を聞いた後にミキが口を開いた。

「車っていくらしたんですか?」
待ってましたとばかりに優良物件は答える。
「4600万だよ。オプションだけで400万したよ」

「マンションの家賃っていくらくらいなんですか?」
「今の所が200万弱かな。経費で落とすから内覧で気に入った物件があれば300万くらいなら問題ないよ」

「月の食費っていくらくらいですか?」
「ん~細かく計算したことないけど200万前後じゃないかな?」

聞いていると自分の生活が馬鹿らしくなってくる。
私が1年間頑張っても、彼の一月分の食費と家賃にしかならない。
しかし優良物件は私の元カノを落とすことが出来ない、不思議なものだ。
オーダーされたものが運ばれてくる。
ミキはパンケーキセット、優良物件はステーキセット。
ステーキセットの値段をメニューで確認すると3,000円超えだが優良物件にとっては端金なんだろう。

店員が戻るとミキがしゃべりだす。
「優良物件(仮名)さんがお金を持ってることはわかります。
私もそんなに自由に使えたら楽しいだろうなとは思います。
ただそのお金ってお父様が立ち上げた会社があるからですよね?
優良物件(仮名)さんが自分で成り上がったのなら、私も少しは優良物件(仮名)さんに興味を持てたかもしれません。
でも親の力を借りて得たお金で色々と自慢されても私には何がすごいのかよくわからないんです。
それってお金があれば誰でもできる事じゃないですか。
私を誘うのならお金を抜きにして誘ってほしいんですけど」

しばらく沈黙の時間が流れると優良物件が答える。
「でもお金が無いと何もできないよ?無いよりはあった方がよくない?」

話が噛み合っていない。
優良物件は生まれてこの方お金ありきの人生を歩んできたんだろう。
逆に言えばお金が無いと何もできない。
金持ちの家に生まれてきた弊害だろうか。

するとミキが唐突に少し大きめの声でしゃべる。
「う~ん、やっぱり難しいかな。正直に言いますけど私は優良物件(仮名)さんに興味が持てません。
誘っていただいて嬉しいですけど優良物件(仮名)さんとはお付き合いできません、ごめんなさい

事情を知っている私が思わず顔を上げたくらいだから周りにも聞こえているだろう。
優良物件の耳がみるみる赤くなる。
「そっか、わかったよ」
伝票を手にすると優良物件は振り返りもせずに会計に向かった。
ミキはナイフとフォークを取るとパンケーキを切り始める。
駐車場から再び地鳴りが起こると、先ほどよりもさらに大きな地鳴りを轟かせながら地鳴りは遠のいていった。

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