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ビートルズ『アビーロード』に見るアルバム制作秘話とジョージ・ハリスンの躍進-後編「Here Comes the Sun」
ジョージ・ハリスンが生んだ春の名曲──「Here Comes the Sun」の誕生秘話と魅力
ビートルズの名曲の中でも特にポジティブなエネルギーに満ちた「Here Comes the Sun」。この曲は1969年にジョージ・ハリスンが作曲し、アルバム『アビーロード』に収録されました。
長い冬の終わりとともに訪れる春の喜びを、シンプルで美しいメロディとギターの響きで表現したこの楽曲は、今なお世界中で愛され続けています。本記事では、「Here Comes the Sun」の創作背景やレコーディング、演奏の特徴に加え、ジョージ・ハリスンの音楽的躍進にも注目していきます。
1. 創作背景──ロンドンの喧騒を離れて生まれた名曲
1969年初頭、ビートルズは音楽活動だけでなく、ビジネス面でも大きな問題を抱えていました。アップル・コアの経営をめぐる混乱、マネージャーのアラン・クレインの登場、そしてメンバー間の対立が深まり、バンドの雰囲気は険悪なものになっていました。
特にジョージ・ハリスンはこうした状況にフラストレーションを感じていました。スタジオに行くたびにビジネスミーティングが行われ、音楽を作るどころではなかったのです。そんな息苦しさから逃れるように、ジョージは親友であるエリック・クラプトンの自宅(イギリス・サリー州ヒートローズ)を訪れます。そして、クラプトンの庭でギターを手に取り、春の日差しを浴びながら「Here Comes the Sun」を書き上げました。
後にジョージは、「長い冬の終わりを感じ、春が来る喜びをそのまま曲にした」と語っています。この曲には、単なる季節の移り変わりだけでなく、ビートルズの混乱から解放された瞬間の幸福感も込められているのです。
2. レコーディングの特徴──ジョージの音楽的こだわり
「Here Comes the Sun」は、ジョージ・ハリスンのソロ作品に近い形で完成しました。ジョン・レノンは当時交通事故で負傷しており、レコーディングには一切参加していません。ポール・マッカートニーはベースとコーラスで加わっていますが、楽曲の中心はジョージが担っています。
ジョージは愛用のマーティンD-28アコースティックギターを使用し、カポを7フレットに装着して演奏しました。これによりギターがまるでマンドリンのようなキラキラとした音を響かせ明るく軽やかな雰囲気を生み出し、春の訪れを感じさせる爽やかな楽曲に仕上がりました。
モーグ・シンセサイザーの使用
この曲では、当時まだ珍しかったモーグ・シンセサイザーが使用されています。これはジョージ自身が演奏したもので、曲の後半でふわっと広がる幻想的なサウンドを生み出しています。
リンゴ・スターのドラムプレイ
忘れていけないのはリンゴ・スターのドラムです。
途中で変則的なリズムを取り入れながらも、曲全体をスムーズにまとめ、特にブリッジ部分の拍子の変化(4/4 → 3/8 → 5/8)は独特かつ自然で曲にダイナミズムを加えています。
3. 「Here Comes the Sun」に見るジョージの躍進
ビートルズ初期、ジョージ・ハリスンはリードギタリストとしての役割にとどまり、作曲面ではジョンとポールの陰に隠れていました。しかし、アルバムが進むにつれ、彼のソングライティングの才能が開花し、『アビーロード』では「Something」と「Here Comes the Sun」という2曲の傑作を生み出しました。
4. 時代を超える名曲へ
「Here Comes the Sun」は、リリースから50年以上が経った現在も、世界中のリスナーに愛され続けています。
・Spotifyでの再生回数がビートルズの楽曲の中でトップクラス
• ビートルズ解散後も、ジョージ・ハリスンのライブで頻繁に演奏
• 様々なアーティストによるカバー(ニーナ・シモン、シェリル・クロウ、ジェイク・バグなど)
この曲が特に評価されるのは、その普遍的なメッセージとシンプルな美しさです。「長い冬が終わり、春が訪れる」というテーマは、時代や文化を超えて共感を呼びます。
5. 「Here Comes the Sun」が伝える希望のメッセージ
ジョージ・ハリスンがビートルズの混乱の中で見つけた一瞬の安らぎが、「Here Comes the Sun」という楽曲に昇華されました。その明るいメロディと温かい歌詞は、聴く人に希望と癒しを与えてくれます。
ビートルズの音楽の中でも、この曲が特に愛される理由は、単なるポップソングを超えた「普遍的な幸せの瞬間」が込められているからではないでしょうか。春の訪れとともに、改めて「Here Comes the Sun」を聴いてみてはいかがでしょうか?朝の目覚めのアラームとしてもおすすめですよ。