Covid-19の起源に関連して、よく繰り返される基本的な誤りについて-3 E7~E9
以下は、2021年8月に発表された、Some basic errors commonly repeated in relation to Covid-19 origins の日本語訳です。この記事では、E1からE30まである誤りのうち、E7~E9を掲載します。最初から読む場合はこちらをご覧ください。
筆者: ジル・ドゥマヌフ
E7「人獣共通感染症の波及仮説は、最も思考節約的な仮説である」
事実誤認:
フィールドサンプリングでの事故は、より思考節約的な仮説であり、人獣共通感染症の波及仮説が説明できない以下の重要な特徴をすべて説明できる。
a. 感染した中間宿主の動物 (中間宿主がいたとする場合)、またコウモリの集団に近い発生源での人間への感染 (中間宿主がいなかったとする場合) が現在まで欠如していること。なぜなら、これらはフィールドサンプラーが野外でコウモリから直接感染してから武漢にもどったとすることで回避されるからである。
b. 特に武漢でアウトブレイクが始まったという事実。なぜなら、忙しいフィールドサンプリングチーム (武漢ウイルス研究所、CDC、武漢大学) が拠点を置いている場所だからである。
フィールドサンプリングでの事故もありえないことではない。コウモリから人間への感染の可能性が認識された後も、フィールドサンプリングは最低限の保護具 (石正麗の言葉では「普通の保護具」) で定期的に行われていた。[注9] (E22を参照)
[注9] 例えば、簡単な手術用マスクを身に着け、帽子にコウモリをぶら下げた石正麗のこの写真や、彼女が「普通の」保護具を通常着用していると説明しているビデオのこの文字起こしを参照。
E8「最も可能性の高い原因は、標準的な人獣共通感染症の波及である。歴史的に見ても、人間の新規または新興感染症の4つに3つは動物からもたらされると推定されている」
論理的な誤り:
新規または新興感染症のほとんどが動物からもたらされるというのは正しいが [注10]、それだけでは自然の人獣共通感染症というイベントが最も可能性の高い仮説であると結論づけることは全くできない。むしろ、それぞれの仮説の可能性を比較する(つまり「オッズ」を計算する)ために、2019年に武漢で発生したアウトブレイクの文脈で、自然な人獣共通感染症のリスク要因と研究関連のリスク要因を適切に比較する必要がある。
このような慎重な評価がなされていない場合、人獣共通感染症の波及によるアウトブレイクについての一見魅力的な記述は、2つの点で全く誤解を招く可能性がある。
1. 不正確な時間的一般化:中国、特に雲南省でSARSコロナウイルスが頻繁に採取されるようになったのは、ここ10年ほどのことであり、また、中国でのコロナウイルス研究が、特に人間への病原性を持つ新種ウイルスの候補に焦点を当てているのも、ここ数年のことである。したがって、自然の人獣共通感染症と危険なコロナウイルス研究との相対的なリスク要因を比較できるのは、ここ数年の間だけであり、それ以上の期間ではない。
2. 不正確な地理的一般化:2つの「競合する」リスク要因の強さを比較する必要があるのは、アウトブレイクが発生した場所であり、中国全体の平均値ではない。武漢 (コウモリの天然病原巣がなく、野生動物市場や交通結節点がある中国の多くの都市の1つに過ぎない) における自然の人獣共通感染症のリスク要因は、せいぜい中国の他の地域と同程度である可能性が高いが、武漢が中国におけるコロナウイルス研究の中心地であることを考えると、武漢の研究関連のリスク要因は、残念ながら中国の平均値をはるかに超えている。フィールドサンプラーは中国にある潜在的に危険な動物の病原巣への訪問から定期的に武漢に戻り、得られたサンプルは武漢で研究されているのだ。
[注10] 例えば、https://www.cdc.gov/onehealth/basics/zoonotic-diseases.html を参照。
E9「研究関連の事故という仮説はありそうにない。なぜなら、野生動物からのサンプルを用いて野外や実験室で作業を行う科学者が高リスクの暴露を受ける件数は、グアノ採集や食用コウモリの捕獲など、世界中で人間が野生動物と遭遇する数百万件の事例に比べてごくわずかだからである」[注11]
事実誤認:
この論議が正しいのであれば、2002年から2003年にかけてのSARS人獣共通感染症のアウトブレイクに続いて、1年も経たないうちに6件 (地域的アウトブレイクが1件) ものSARS研究室獲得感染の第1次症例が発生することはなかったはずである。この6件の第1次症例は、実験室関連の事故の危険因子が自然の人獣共通感染症のものに比べて全く極小ではない - それどころではない - ことを示している。
そのため、2004年4月にNew England Journal of Medicine (NEJM) に掲載された、これらのSARS研究室獲得感染のうち最初のものについてのレビューでは、著者たちは賢明にも次のように述べている。
「今回の研究室獲得SARSの症例は、研究室人員への潜在的なリスクに関する懸念が正当化されることを示しており、世界保健機関 (WHO) とCDCの現行の症例定義における疫学的基準は、研究室でのSARS-CoVへの曝露を感染のリスク要因として含めるように修正する必要があるかもしれない」。
それから間もない2004年10月、「WHO SARSのリスク評価と準備のフレームワーク」は次のように述べている。
「現時点では、SARS-CoVの最も可能性の高い感染源は、診断・研究目的でウイルスが使用・保管されている研究所での曝露、またはSARS-CoV類似ウイルスの病原巣の動物からの感染である」。
したがって、大衆的知識とあまり変わらない表面的な一般論ではなく、研究対象となる病原体に関連する正確なリスク要因や、これらの研究の状況や目的を慎重に理解することが必要である。
確率論的な誤り:
E8 (「不正確な地理的一般化」) にあるように、仮にこの表面的な論議が真実であったとしても、COVID-19のアウトブレイクへの適用は、そのアウトブレイクの場所が武漢であるという重要な情報の一片 (基本的に自然の人畜共通感染症対研究関連の事故のオッズを逆転させる情報の一片) を完全に無視しているため、やはり間違っているであろう。
[注11] 例えば以下を参照。
https://virological.org/t/early-appearance-of-two-distinct-genomic-lineages-of-sars-cov-2-in-different-wuhan-wildlife-markets-suggests-sars-cov-2-has-a-natural-origin/691 および
https://science.sciencemag.org/content/sci/early/2021/08/16/science.abh0117.full-text.pdf