Covid-19の起源に関連して、よく繰り返される基本的な誤りについて-2 E4~E6
以下は、2021年8月に発表された、Some basic errors commonly repeated in relation to Covid-19 origins の日本語訳です。この記事では、E1からE30まである誤りのうち、E4~E6を掲載します。最初から読む場合はこちらをご覧ください。
筆者: ジル・ドゥマヌフ
E4「研究関連の事故シナリオは、初期の症例の大半が武漢の異なる野生動物市場と結びついていたことを説明しなければならない」
事実誤認:
初期の症例がすべて野生動物市場と関連していたわけではない。実際、一番最初の公的な症例 (12月8日に発症した会計士の陳氏) は、生鮮市場とは全くつながりがなく、江夏区にあるRTマートというウォルマートやテスコに似た外資系の現代的なスーパーマーケットで買い物をしていた。
彼の住まいは、川の東側の江夏区紙坊にあり、彼が行かなかった華南海鮮市場 (川の反対側) からは30km離れている。彼が行くRTマートの支店は、武漢ウイルス研究所の鄭店サイトへ行くバス路線 (909号線) の終点に位置しているが、鄭店サイトはP2、P3、P4の研究室から5.5kmしか離れていない。
紙坊は偶然にも鄭店にある武漢ウイルス研究所に最も近い大規模な住宅地である。それ以外にも、武漢ウイルス研究所は畑や丘、準工業地帯に囲まれている。興味深いことに、ピーター・エンバレクが行ったインタビューによると、公的には彼が最初の既知の症例とされているにもかかわらず、彼の行動や親族は中国当局によって適切に追跡されていないようだ。[注6]
図1:紙坊の住宅地と武漢ウイルス研究所鄭店サイト、バス路線909号線
図2:武漢ウイルス研究所の周辺約5km以内の全体像
[注6] TV2のレポート (https://bit.ly/3yaQ9LR) 参照:「12月8日以前の数週間の彼の行動を明らかにしようとする点で、彼らは詳細に立ち入っていない、とピーター・エンバレクは言っている。この男性の親しい人たちの連絡先も、詳細には把握されていなかった」。
E5「WHO のミッションレポートによると、ウイルスは冷凍食品を介して海外から入ってきた可能性がある」
事実誤認:
冷凍食品説(国産か外国産か)はいまだに議論されており、中国側の強い要望でWHOに盛り込まれた。ファビアン・リーンダーツ (ドイツの人獣共通感染症の専門家で、中国-WHOチームのメンバー) の説明によると、チームは中国の科学者の知見を少しでも「尊重するため」に [注7]、それが意味するところにかかわらず、仮説の中に含めることに同意したという。
論理的な誤り:
華南海鮮市場の冷凍食品サンプルで陽性反応が出たことはなく、一部の冷凍食品屋台の環境サンプル (表面など) で出ただけだった。また、これらの屋台の業者の中には、Covid-19に接触した者がいることが判明した。
中国-WHO報告書の附属書E4の表6 (下記) によると、Covid-19に接触した24社の冷凍食品業者のうち、輸入冷凍食品を販売していたのは1社だけだった。他の23社は国産の冷凍食品を販売していた。屋台22軒のうち21軒も同様である。つまり、冷凍食品の道を進むことを望んでも、存在するわずかな証拠からは、輸入品ではなく国産の冷凍食品であることが圧倒的に示されている。この結論は、中国-WHOチームの一部のメンバーがインタビューの中で事実上認めている。[注7]
中国-WHO報告書の附属書E4
このすべてを考慮すると、華南市場の環境サンプルにウイルスの痕跡が存在したことについてのもっともらしく単純な説明は、中国-WHOの報告書で言及されているように、それらは感染した業者や消費者からもたらされたのであって、その逆ではない、となる。
中国-WHO報告書の附属書D7
[注7]「W.H.Oの訪問で中国は重要データを引き渡すことを拒絶」、ニューヨークタイムズ、2021年2月12日。https://www.nytimes.com/2021/02/12/world/asia/china-world-health-organization-coronavirus.html
E6「人獣共通感染症の波及仮説は単純で、すべてを説明できる」
事実誤認:
人獣共通感染症の波及仮説はすべてを説明するものではなく、特に以下のことを説明していない。
a. かなり驚くべきことに、感染した中間宿主の動物 (そのような宿主動物が関与している場合)、また雲南などのコウモリの病原巣に近い発生源での人間への感染 (そのような動物が関与していない場合) が現在まで欠如している。
それらが検出されていないことは、大幅に改良され安価になった検出・配列決定ツールに裏打ちされた、野生動物や飼育動物の国家的な検出システムが大幅に改善されたことや、人間の呼吸器感染症に対する疫病預防控制中心の早期検出ネットワークが大幅に強化されてたことを考えると、なおさら驚くべきである。[注8]
b. 武漢は中国における人口100万人以上かつ日常的な野生動物市場や交通結節点がある110以上の都市の1つに過ぎないのに、中国の中でも特に武漢でアウトブレイクが始まったという事実。
論理的な誤り:
上記の矛盾(a)に直面した一部の科学者は、中国がサンプルを破壊して、武漢にいる飼育動物や野生動物およびその販売での感染の可能性を隠していたのではないかと提案し始めた。この仮説はありえることで、中間宿主動物や感染源からの人間への感染が検出されないことを説明できるとはいえ、残念ながら、中国における野生動物市場や交通結節点のあるあらゆる場所や都市の中で、なぜ武漢でアウトブレイクが始まったのかを全く説明できていない。
[注8] このことから、中国疫病預防控制中心 (CDC) 主任の高福は、2019年3月に記者団に対し、ウイルスはいつでも出現する可能性があるが、将来的には2002~03年のSARSのような規模のエピデミックを引き起こすことはないだろうと述べた。https://bit.ly/38noblP を参照。