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#1 夏、深夜のドライブ
去年の夏、深夜のドライブをしたときのこと。
助手席に座り窓を全開に空けた友人が、夏独特のカラッとしたやわらかい風を少し汗ばむ肌に浴びながら、ギョッとするようなことを繰り返し呟いた。
「卑猥だわぁ……」
笑いながらどこが卑猥なんだろう、と疑問に思いつつ運転を続けたけれど、忘れたころに隣からアナウンスされてしまう。
「いや〜卑猥だねぇ……」
コンスタントに「卑猥」と繰り返されるので、夏の深夜にドライブで感じる風が、なんとなく卑猥に思えて仕方なくなってしまった。
もうどうしたって卑猥。夏の深夜のドライブで浴びる風、めっちゃ卑猥!
"なんとなく"の正体がわからないまま、わたしはわざわざメロウなR&BやHIP HOPを織り交ぜたプレイリストを作り、夏の深夜のドライブでそれを流しては、音楽の雰囲気で"なんとなく"を自分に納得させるところまできてしまった。
このままだと、わたしに「卑猥だわぁ…」と言う資格はない気がする。
それからあっという間に夏が過ぎて、もう一度夏が始まろうとしている。
今夏、わたしは"なんとなく"の正体をつかめるのか。というか、もう卑猥とは感じないかもしれない。そうしたら、もう"なんとなく"はわからない。それはそれでとても寂しい。
とにかく、また友人を乗せて、夏の深夜のドライブに出かけよう。たぶん「卑猥だわぁ…」と言ってくれるから。