#53 下手こいた/泖
【往復書簡 #53 のやりとり】
月曜日:及川恵子〈さようなら、愛しの「さふらん」〉
水曜日:泖〈ポンコツが通ります〉
金曜日:くろさわかな
ポンコツが通ります
下手こいたエピソード、たくさんあるのでまとめられなくて困っています。でも書きます。ただし困ったまま書くので、それはあらかじめお含みおきください。
とりあえず、思い出しては赤面して「あ〜〜〜」「う〜〜〜」と奇声を発しながらうずくまりたくなるエピソードを3つほど告白します。
まずひとつめ。
よくやるのが、知り合いだと思って、全く面識のない人に「わたしたち知り合いですよねオーラ」を出しちゃうことです。
「あれ、〇〇さんかな〜?」と思って熱い視線を向けるけれども、その相手はかなり高い確率で自分と全く面識のない人です。
だけど、これだけの視線を浴びせられると、全く知らない人も「あ、わたしたちどこかで会ったことありますよね〜?」っていうオーラを出してきます。でも近づくと、お互い「やっぱり間違いですよね〜〜」みたいな、気まずい無言のやりとりがあります。あれはめちゃくちゃ恥ずかしい。だって、こちらから仕掛けてますから。
実を言うと、及川さんに似た人、くろさわさんに似た人、両方のパターンで同じようなことをしています。
気をつけよう、気をつけよう、と何度も自分に注意しているのに直りません。言い訳をしていいのなら、わたし、右目にちょっと乱視が入っているらしいです。
ふたつめ。
大学生だった頃の話です。当時、わたしはジャーナリズムとか、メディア関連を専攻しておりまして。ある授業で、戦争とメディアの関係性について意見を出し合う場面があったんです。
授業内で先生が「戦争に関連したメディア作品で思い浮かぶものはある?」と問いかけ、ランダムに当てた生徒から出た回答を黒板に書き出していました。
「メディア作品なら任せてくださいよ!」と、わたしはちょっと張り切って「もし当たったら、あの作品を言おうかな、いやいやあの作品を言おうかな」と思い巡らせていたのですが、ついに想いが届いてわたしに白羽の矢がたちました。
「はい、きました!」とばかりに意気揚々と「火垂るの墓」と答えたつもりが、周りはポカーンとしており、なんなら時間がちょっと止まっていたんです。
「え、なんで?」とわたしもポカーンとしていたら、先生が「あぁ、『火垂るの墓』ね」と一言。「わたし、そう言いましたけど!?」って思ったんですけど、よくよく自分の声の響きと記憶をたぐりよせると「ホタルの光」と答えていたんです。
わたしが言いたかったのは、綾瀬はるかのドラマでも、下校のテーマソングでもない。ジブリや。
みっつめ。
3年ほど前、わたしは転職の面接前に緊張をほぐすために落語を聴きながら面接会場に向かいました。神経をリラックスさせた完全体の自分で面接に臨むためには、落語の力が必要だったのです。
会場に着いて、ある部屋に案内されたわたしに女性の面接官は「あともう一人、担当者(後に直属の上司になる人/元上司)が来るので少しお待ちくださいね」と言い渡しました。
わたしは上品に、そして知性のある雰囲気で返事をしようと思ったら、いざ口から出たのは「へい!」。ここで出すのか、拭えぬ与太郎感。
面接官は「ふふふ」と笑っていましたが、当のわたしは平謝りするしかありませんでした。
面接は終わったものの「あ〜落ちた落ちた」と開き直っていたら、後日、採用の連絡をいただいたのです。
ある日、仕事に慣れた頃。直属の上司が、わたしが採用された裏話について話してくれました。
元上司:面接のとき、話題になりましたよ。
わたし:やっぱり……。面接前に落語を聴いた影響で「はい」って返事するところを「へい!」って言っちゃって。
元上司:先にいた〇〇さんが「絶対にいい人だよ」って太鼓判押してたんです。だから実際はどんな人なのか、かなり気になってたんですよね〜。予想を裏切らず、いや、それ以上に変な人でよかったです。
わたし:じゃあ、よかったです。
元上司:(笑)
わたしのポンコツさが、良い方向に道を作ることもあるんだな。失敗して恥をかくことがほとんどな人生だけれど、胸を張って生きていきたいです。
恥をかいて、泥臭く、もがきながら暮らしていくんだと思います。
きっとこれからも、わたしはポンコツでしょうから。
追伸。
夏が嫌いなのに、「お盆が終わると涼しくなるよね」と言われて、ちょっぴり寂しい気持ちになりました。
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