雪の降る街#1 「大人になったらさ」
「今日から、先生が宏紀くんのお母さんだから!」という優しい麻依先生。
「宏紀だから、「ひろ」だね!」という温かい友達。
俺は、小さい頃から施設で育てられた。というか、物心着いた頃には、もうここにいた。
1回も嫌だ。とは思ったことなくてむしろずっと友達と一緒にいれる。そんな気持ちで毎日暮らしてる。
ここの児童養護施設は、俺を含めて4人と先生しかいないここはお世辞にも大きいとは言えない、でも、どこの施設よりも温かくて自慢の施設だ。
メンバーは、みんな同い年。里香、洸、春奈に俺を含めた4人。
里香は「りー」洸はそのままだけど「こう」春奈は「はる」俺は「ひろ」
なんとなくだけどみんなあだ名でしか呼ばない。そっちの方が仲良くなれる気がするから。
時は流れ、みんな6年生になった。
「今年は、大雪の可能性も考えられます。十分に注意して生活してください。」
ある日、ニュースキャスターのそんな声が聞こえてきた。
「来週がいちばん酷いみたいだね」と先生が言うと
「やった!雪だるま作れるじゃん!」と洸が言った。
俺らは来週の雪が積もることを期待して、学校へと出かけた。
4人で、いつも学校へ行き、4人でいつもここへと帰ってくる。
俺らはいつも一緒だった。いつもどんな時でも。
「先生!ただいま!」と里香と春奈が言っては「なぁ!先生!今日のご飯は!?」と洸が言う。いつも通りの毎日。
「今日はね、麻婆豆腐だよ!」
「また中華かよー」
「じゃ食べなくていい!」
笑顔で洸と先生が言い合う、これもいつも通りの毎日。
確かに先生は中華料理が多い。特に多いのがこの麻婆豆腐。
先生は元々、自分の中華料理のお店を持っていたけど、経営不振で店を閉めることになった。
でも、どうしてそんなことになるんだろう。と言うぐらい本当に美味しい。
「ねぇ、先生!今度さ!俺に中華料理の作り方教えてよ!」
「え?いいけど、どうしたの?ひろ」
「前から思ってたんだ!」
確かに前から思ってた。先生の料理を俺も覚えたい、俺が継ぐんだってぐらいの気持ちがあった。
「さらに中華が増えるだけじゃんか!」と洸が文句を言うと
「わかった!今度の休み一緒に作ろう!」と先生は言ってくれた。
俺はそれが嬉しかったのを今でも覚えてる。ただ、料理を教えてもらうだけ。ただそれだけの事なのに、嬉しかった。
本当にその日、先生は朝から自分の麻婆豆腐のレシピが書かれた「アオゾラ」と表紙に書いてあるノートを手にして、俺に1から教えてくれた。
俺は、それがすごい楽しくて、先生と料理するのがなのか、先生しか作れない麻婆豆腐を教えて貰ってるのが嬉しいのかなんなのかは分からない。でもとにかく嬉しかった。
手こずりながら、3時間ほどかけ初めての麻婆豆腐が完成した。
「ただいまー!」
洸が帰ってきた。洸は帰ってくるやいなや机に置かれた麻婆豆腐を見て
「また中華かよ」と言った。
「嫌なら食うなよ!」と俺が思わず言ってしまった。
「そうだよ?こう、今日はね、ひろが作ったんだよ。いつもの倍美味しいかもね」と先生は俺と洸に微笑んだ。
「いただきまーす!」
みんなで手を合わせた。なんだかみんないつもより大きな声で言った気がする。
「ひろ!これおいしいよ!」
「うん、先生の時と変わらないぐらい美味しい!」と里香と春奈が言ってくれた。
「ひろ、よかったね!りー、はる、こう、これでひろも先生のご飯作れるから楽しみだね!」と先生が言うと
「うん!」と3人は口を揃えて言った。
その日は、ずっと部屋の中にいて料理してたからわかんなかったけど、ニュース通り大雪が降った。
雪がほとんど降らないこの街で珍しく雪が積もった。
洸は、カーテンを開け、それに気づき
「みんな!雪遊びしにいこうぜ!」と言った。
先生と俺らはテンションが上がり、5人で外に出た。
俺らは、それからずっと夜遅くまで雪合戦をしたり、雪だるまを作ったりした。
「ねぇ、みんなそろそろ帰ろ?先生お腹すいちゃったー」
「えー、まだ遊んでたいなー、雪だるま完成してないし」
「わかった、じゃあ先生!ごはんできたら呼びに来るからそれまでならいいよ!」
「うん!」
里香がそうやって先生に言ってくれて、俺らは夜なのに珍しくもう少しだけ俺ら4人だけで遊ぶことを許された。
それから1時間ぐらいが経った。
「先生、遅いよな」と洸が言うと「やっぱそうだよね?」と春奈も共感するようにそう言った。
確かに遅い、いつも先生は宇宙人なんじゃないかというスピードで何品もの料理を作る。
1時間なんか、かかったことない。
「ねぇ、そろそろ帰ろっか」と言うと
「そうだね」とみんなも言ってくれた。
4人で、大雪の降る中、寒がりながら部屋へと戻った。
ドアを開け「ただいまー!」と叫んでも返事がなかった。
洸のいつもの「お腹すいたー!」にも返事がなかった。
「先生寝てるのかな?」と里香が言った。
俺は、リビングのドアを開けた。
「来るな!」
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