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#3 「着ぐるみの中の想い」 足立梨花

「あれ?あそこで何か書いてる人さ、あの、ほら高校生で芸人してる人じゃないっけ?」

あれ、僕の事を言われている。
嬉しい、高校生芸人なんか、知っている人は珍しい。

爆笑問題さんの番組に出演させてもらったからだろうか。
この女性2人組は僕のことに気づいていた。

「あれ?でもツッコミの方だけ?」
「ボケの萌ちゃんの方がよかったよね」

と言いながら僕にその2人は近寄ってきて

「あの、ブランシュの竜秋さんですか?」
「あ、はい。」
「やっぱり!!!今日相方の萌さんは?」
「あ、今日は別なんですよね」

「なんだよ、ハズレの方だけかよ」と言って
2人は自分の席に戻っていった。

え?うそ?今、俺、完全にディスられたよね?
はぁ???!ふざけんな!!!


僕は思わずネタ帳を放り投げて、
ノートを取りだした。


このノートに妄想を書いている時だけは
嫌な事は一切考えない!
現実逃避は最高で最強だ!
逃げろ!とにかく逃げるんだ!
妄想の世界へ!そう!ぼくの世界へ!
さぁ、今回僕の脳内で
好き放題されるヒロインは!!!


足立梨花!お前だ!



「はい、初めてです。」

僕の名前は岩山竜秋。
大学二年生。今、初めてのバイトの面接に
来ている。そして、面接の真っ最中だ。

「はい、大丈夫です。」

そう、僕が初めてのバイトに選んだのは


「ジンたん!ふうせんちょうだい!」

そう、遊園地のゆるキャラの中の人。
いわゆる着ぐるみの中の人。

僕は、3歳ぐらいの男の子に
風船を差し出し、手を振った。

「ままー!ジンたんと写真撮って!」

僕は、その男の子の隣に行ってピースをして写真を撮った。

ただ、これ……

絶対にみんなが思ってる以上に暑い!
まじでサウナ。死にそう。暑すぎる。

「はーい、ジンたん来てください!」

どこかから、休憩を意味する女神の声がする。

彼女は、僕が脱水症状などにならないように
時折休憩室に連れていってくれる係の女性だ。

僕は、着ぐるみを脱ぐことなく彼女と会話をしていた。

「暑いですねー!」

彼女の元気で明るい声に僕は、首をこくんと
下げる。

「大変でしょ!私には出来ないな!」

僕は首を斜めに曲げる。

「私でも出来ますかね!」

僕は腕を組み首を斜めに曲げる。

「子ども好きなんですか?」

僕は首を縦に振った。

「そっか!いいなー!じゃここで休憩してください!」

そう言うと、彼女は直ぐに自分の持ち場へと帰って行った。

彼女は、僕の顔を知らない。
僕は、彼女の顔が見える。

こんなにお互いのことまだ全然知らないのに
彼女に惹かれつつあった。

10分の小休憩が終わり、僕はまた着ぐるみをかぶり、外へ出た。

「あ!一緒に行きましょう!」

僕は、首を縦に振り、彼女に手を握られた。

ふと、僕は、彼女の名前すら知らなかったことに気づき、彼女の名札を見つめた。

「あ!そっか!」

僕が、名札を眺めていたことに気づいたようで彼女は僕に

「足立です!足立梨花って言います!よろしくお願いします!」

明るい笑顔で僕に彼女はそう言ってくれた。

僕は、彼女に紙とペンを要求した。

《岩山竜秋って言います。よろしくお願いします。》

「はい!よろしくお願いします!」

《毎回連れてってくれる方ですよね?》

「はい!ごめんなさい!迷惑でしたか!」

《いえ!いつもありがとうございます!》

僕は思い切り首を横に振った。

「あはは!よかった!なんか面白いですね!初めて竜秋さんと話せました!」

《そうですね(笑)》

「竜秋さんは必ず私が案内します!約束します!だからもっと喋りましょう!では!」

彼女は笑顔でそう言い残し、自分の持ち場へと帰っていった。

そんな彼女に僕は本当に惹かれ始めていった。

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