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コンソメのやつ没収事件

2021年12月11日静岡県某所。

それはちょうどディナーの時だった。私は友人5人とコース料理を楽しむべく踊る心を落ち着かせながら席についた。

周りにはすでに食事を始めている他の客がいたが、どのテーブルにも見ているだけで涎が溢れそうになる美味しそうな皿が並んでいた。

ラウンジに充満する匂いに腹をすかせながらまだかまだかと料理がでるのを待っていた。それはまるで告白の返事を待ち焦がれるようなそんなワクワクとドキドキが入り混じった感情だっただろうか。

走行しているうちに先に頼んでいたドリンクが到着した。私は自家製レモネードのソーダ割を頼んでいたのだが私の手元に届いたそれは見るからに大当たりだ。一口口に含むとそれは私が飲んできたどんなレモネードも粗悪品に思えるほどにはおいしかった。

ドリンクからいい意味で期待を裏切られたのだから当然の如く料理への期待は膨らんでいた。そしてついにお待ちかねのご対面だ。

木の板に並べられた前菜達はどれも抜群に美味しかった。しかしその中で一際私を震わせた一品があった。それこそがコンソメのやつだった。
厳かな雰囲気の中スタッフさんが説明をしてくれたがアプリで耳年齢70代と診断されたわたしには聞こえなかった。

そして次にメインが運ばれてきたがスタッフさん曰く前菜はメインの箸休めのような感じで食べるといいらしい
そこで私はお気に入りのコンソメのやつを最後に食べようと楽しみに取っておいた。

一品目の魚のメインディッシュも信じられないほどの美味しさで気分は上々だった。そして次の肉のメインディッシュが運ばれてこようしていた。その時だった。事件は勃発した。

前菜の皿は向かい合う2人で1つという盛り方だったのだが私の前に座るちさはすでに前菜を食べ終えていた。そして私は蓋が付いた容器に入ったパスタとコンソメのやつを残していた。

次のメインが置かれるであろう場所を開けるために一品目のメインの皿を片付けてもらおうとおいておいた。これで布陣は完璧。そう思っていた私が馬鹿だった。

あろうことかスタッフさんは私のお気に入りのコンソメのやつが残されている前菜の皿を下げていったのだ。私は状況が理解できずまるで釣り針を引っ掛けられた魚のようにアホみたく口を開けているのみだった。

テーブルの反対側では別のスタッフさんが料理の説明をしているが当然内容など入ってくるはずもなく連れていかれるコンソメのやつを眺めることしかできなかった。

すると何故か笑い声が聞こえて来るではないか。何がおかしい。こちらは真剣なのだ。そう思い笑い声の方に目をやるとなんと笑っていたのはスタッフさんではないか。彼女は笑いを堪えきれずまともに説明ができていなかった。

さらばコンソメのやつ。全てを食べてもらえずかわいそうなコンソメのやつ。悔やんでも悔やみきれない。どうしてあの時もう少し早くあいつを食べてあげなかったのか。そんな怒りとも悲しともとれる感情がふつふつと湧き上がってきた。

来世では必ず食べ切るとコンソメのやつに誓いその日の食事を終えたのだった。

あとがき
静岡のグランピングで全員が1番笑ったであろうエピソードを書きました。コンソメのやつはこの後笑っていたスタッフさんの手によって自分の元に帰ってきました。本当に信じられないほどおいしかったのでショックが大きく印象に残ることとなりました。
みんなも好きなものは寝かせすぎるとダメということを肝に銘じておいてください。

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