生きて、生きて、奏でた#30
「もしもし、母さん?うん、想真。げんきにやってるよ。母さんはどう?」
「元気そうな声ね。活躍をメディアとかで聞いているもの、そうよね。母さんも元気よ。父さんに会ったんでしょう?色々と驚かせてごめんね。話すタイミング探してるうちに想真どんどん大きくなっていくから、隠すつもりはなかったんだけど、結果的にそうなっちゃったね。」
「そんなこといいよ。母さんはずっと僕の母さんだよ。これはなにがあっても変わらない。母さん、一言だけ言いたいことがあって電話したんだ。」
「そうね。相変わらず想真は想真ね。
どうしたの?」
「あのさ、僕のこと忘れないでね。」
「どうしたの、いきなり。忘れた日なんて一度もないわよ。あなたが生まれる前からずっーと。」
「うん、ありがとう。それだけなんだ。
また今度あの日のケーキ食べようね。みんな連れていくよ。」
「ええ、楽しみにしてる。体に気をつけて頑張りなさいね。」
「ありがとう。じゃあ、また。」
これが最後の母さんの声を聞くときになるだろう。最後に嘘ついてごめん。母さんごめん。
「いいのか?きっと最後になるぞ。俺は父親だが、医者でもある。そしてこの手術は前代未聞だ。成功の確率も失敗の確率も、すべて未知数だ。覚悟はできてるか?」
「父さん。二言はないよ。僕は一度決めたことは曲げない。達成するまで絶対に諦めない。何事にも1%以上の可能性はあるはずだ。だから絶対に成功する。」
「さすが俺の息子と言いたいところだが、父をとうの昔に超えているようだな。仲間を想う気持ちっていうのは強い。俺もバンドやっていた頃そうだった。医者になった今もそれは変わらない。ルイちゃんには話したのか?トキオくんにも。」
「話せるわけないだろ。話せるはずがない。」
「まあ想真の想いは何を言っても変わりそうにないな。」
さよなら。ルイ、シンラ、トキオ。
さよなら。ベース。
さよなら。ラブ。
さよなら。想真。
さよなら、父さん、母さん、お兄さん。
さよなら、でも。でもね。
どうか。ねぇ、どうか。
僕が生きていたこと、共に奏でた日々。
ねぇ、忘れないでよ。