贈ることのできないプレゼント#15
気がつけば
秋休みも終わり、冬休みに入っていた。
僕らはどちらからともなく
よく会っていた。
電車に乗って集まる先は大学から
最寄りの珈琲屋がある駅が専らだった。
寒さか、低気圧か、二人ともよく
頭痛にも悩まされた。
何かプレゼントを渡すそんな風習が
なぜか根付いたこの国では
その季節がたしかに近づいていた。
僕は誰かが決めたその日に見知らぬ誰かの
誕生日に会うかどうかなんて話はしていなかったが、自分の家からほど遠くない楽器屋に
立ち寄り、プレゼントは購入してあった。
ふと、ひとりでに夜空に目をやって閉じる。
誰かの言葉なのか、なにか本から仕入れたのか、わからないが、
確かにいつかどこかで聞いたような言葉が反芻していた。
誰も傷つけないようになんて無理がある。
誰も傷つけないようにすることで誰かはきっと傷ついてたりするかもしれない。
僕が考えていることなのか
どこかの知らないだれかの言葉なのか
はっきりしないけどよく夜空に目をやると
踵を返すようにその言葉が反芻する。
星や月が浮かんでいる。
雲に少し隠れる。
この時、星や月を観測していた誰かは
雲が邪魔で仕方ない、と思うかもしれない。
だが雲がなければ雨は降らない。
僕たちの飲み水は枯渇して生命は絶え絶えに草木は枯れて大地は荒れ果てる。
雲を邪魔者扱いする時もある。
雨が鬱陶しく感じる時もある。
でもそれが永遠に続いてはならない。
そんな願いが通じたのか今僕らが住むこの星では砂しかない熱帯の地域も存在する。
夜が永遠に続けばいいと願う誰か。
夜が近づくと憂鬱になってしまう誰か。
ずっと明るい方がいいなと願う誰か。
晴れた空の下を歩けない誰か。
特定の誰かに向けたわけじゃない言葉に
心を痛める人。
特定の誰かに向けて傷がつくことだけを
目的に言葉を吐き捨てる人。
確かな好意を寄せていても、思い馳せるあまりに、傷つけあう二人もいるのだろう。
きっとこんな風にして
どこかで誰かは傷を負っている。
ひかると出会ってから
なかなか想いが告げられない僕は
想いを告げることが全てではないのではないのかもな、などとひとりの夜に考えたりしていた。
その時間差はあれどいつか必ず人はやがて
いなくなる。自分でその日を選ぶのか、自然にそうなるのを待つのか。
僕が消えた後に彼女が消えるとするなら
想いを告げるということは
確かな傷跡を彼女の心に遺すことに
なるのではないか。
想いを告げて受け入れてくれたら
その時の二人は世界で一番嬉しくても
いつか泣いても泣いてもどんなに目を腫らしても返ってくることのない問いかけに一生
泣き続ける人生を選ばせるのではないか。
それとも案外突然何も言わずに消えた人間のことなんて忘れてしまうものなのだろうか。
彼女の心が僕に向くようにとそれだけが
あの時の願いだった。
だけどそれは命を縮めることでしか達成できなかったのだろうか。
僕は僕自身のパッションに火をつけて
懸命にアピールして振り向かせることはできなかったのだろうか。
そんなことを考えてもそれはもう今となっては果てのない数式を計算し続けることに等しかった。
でもそんなことを
ふと考え出したら
止まらない夜がよくあった。
もちろんそんな心の内を
彼女に話すことはないのだけれど。