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Congratulations! Sakamoto

坂本龍一は本当に酷い人間で、運転手を理由もなく殴ったり蹴ったりして何人も辞めさせていて、今だと大問題になっていたはずだという話は、本人がしている。人は結局変わらないという人もいるが、私は変わると思うし、坂本龍一も大きく変化し続けてきた。ここで書くとめちゃくちゃ皮肉っぽくなるが、晩年の彼は木を切ることにさえ反対した。

ジャージ姿で出歩く奴らは許せない。プライベートを晒すなと怒っていた坂本龍一も、坂本龍一展の展示の一つは、彼のプライベートなスタジオを映像として切り取ったものだ。ジャージ姿ではないが、彼が忌み嫌ったプライベートそのものだ。「自然には勝てないな」と言ったという。勝てなかった人物を舞台に召喚した世阿弥のように響く。能にイノベーションを得た作品『TIME』の能楽性は、個人的な探究テーマのひとつだ。

坂本のインスタレーションには必ずと言っていいほど、水が出てくる。高谷とのコラボレーションではあるが、坂本の意向だろう。坂本にとって、自然とは水であった。ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。坂本はそうした自然に負け、水に身を委ねた。

「本質は変わらなかった」という人もいるかもしれないが、変わり続けて、結局変わらなかった部分を「本質」と呼んでいるだけかもしれない。「これがあなたの本質ですね」などと言われると、それを裏切りたくなる天邪鬼も多い。坂本龍一展は、彼の一貫性とともに、天邪鬼な側面が見えてくる。ゲストキュレーターである難波の話によれば、坂本は今回の展示において、アーカイブ、特に1980-90年代のアーカイブ展示にこだわったという。見せたかったのは、変わらない自分と変わった自分、両方だろう。水のように。

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