【2019】 第7節 サガン鳥栖戦 レビュー
『勝ってよかった。』と大島が言うように1点を守り抜いたこの勝利には大きな意味がある。
ミッドウィークに行われたアウェイ蔚山現代戦。川崎守備陣の絶対的存在である谷口が負傷。それに加え車屋も同試合で負傷。他にも複数の主力選手が怪我という状況で総力戦を余儀なくされた。
しかし、一方でチームにとって朗報もあった。戦列離れていた大島や馬渡が戻ってきた。特にこの試合の大島はいるだけで違いを作り、そのボール捌きは復帰戦とは思えないほどのものだった
ここから巻き返さなければならないフロンターレ。大島が必ずチームを光り輝く場所へと導いてくれるはずだ。
さて、今回のラインナップはこちら。
①『あとは2トップとの絡み。そこは課題だが悪くはなかったと思う。』(阿部浩之)
流動的に変えたシステム。そこに勝負あり。
②『追加点を取りたかったが、無理に自分たちから穴を開ける必要もないので、自分たちのボールの時間を長くしようと思っていた。』(大島僚太)
絶対勝利が求められた1戦。そこで魅せた試合巧者ぶり。
以上の2つです。では。
①『あとは2トップとの絡み。そこは課題だが悪くはなかったと思う。』(阿部浩之)
流動的に変えたシステム。そこに勝負あり。
中村憲剛が怪我のため欠場。試合前のフォーメーションとしてはいつも通り4ー2ー3ー1で、阿部が左、小林が右、家長がトップ下、最後に知念が1トップに入ることが予想された。
だが、試合が経過していくにつれて小林は右サイドから中央へとポジションを変えていく。ここで知念との2トップが生まれた。
以前までは相性が良いとは言えないコンビだったが、この試合ではうまくお互いを使って自分達が楽にサッカーをできるようにプレーしていた。
おそらくそれには知念の自信が関係しているように思える。得点場面に関しては『一瞬パスを出すか迷ったが、すぐに頭を切り替えてシュートを思い切って打ったのが良かった。』とストライカーとしての本能が働いていた。
以前であればゴールを奪う人=小林というような雰囲気が少なからずあった中で、知念がこうしてゴールに対し貪欲にプレーすることができれば小林にかかる負担も軽減される。
2トップ両方共が相手ゴールを脅かす選手であれば相手にとってそんなに嫌なことはないだろう。
得点場面を振り返れば大島がロングパスを出す寸前。小林が相手の間からパスを受けようと動き出している。そうすれば相手ディフェンダーがマークに付くのは必然なわけであって知念に対してのプレスがおのずと弱くなる。
これは逆のことも言える。例えば知念が間にパスを受けに行けば小林に対するプレスやマークがどこかで緩和される。
2トップを形成する中では非常に当たり前なことかもしれないが、チームが目指すサッカーを完璧に理解している選手とそうではない選手では相手に与える怖さが全くもって異なってくる。
そういう意味でいえば知念がスターティングメンバーで試合に出ていることや流動的にフォーメーションやシステムを変更しても成立していることが納得できる。
ただ、当の本人は全くこの内容に満足していない。
『今日は、攻撃の部分で連動性があまりなかった。前半からミスも多かったし、満足していないところはある。』とまだ改善しなければいけないことがあるという。それには阿部も『2トップとの絡み。』を課題に挙げていたが、『悪くはなかったと思う。』と今後に期待していた。
基本的なフォーメーションが異なることから中々2トップでのサッカーをしていくのは難しいというところがあるはずだが、それでもこうして結果を出せたというのはチームにとって1つの成功体験となっていく。
そして、小林悠、レアンドロ・ダミアンという圧倒的なストライカーからポジションを奪い得点をも奪う知念慶。
ここに彼の才能が開花したことを宣言したいと思う。
②『追加点を取りたかったが、無理に自分たちから穴を開ける必要もないので、自分たちのボールの時間を長くしようと思っていた。』(大島僚太)
絶対勝利が求められた1戦。そこで魅せた試合巧者ぶり。
『勝点を取ることが大事な試合だった。』(チョン・ソンリョン)
試合後、チョン・ソンリョンが述べたこの言葉から全て読み取れることができる。この試合でいかにフロンターレが勝利を欲していたかを。
リーグ戦に関しては2試合負けなしという状況ではあったが、ACLでは敗戦。決して流れが良いというわけではないが、チームが崩れているような気配は全くなく、感じることもなかった。
ただ、外野の声は相当厳しく、中には「見捨てる」ような発言をする心無しなサポーターの方を何名も見かけた。
その中で迎えた鳥栖戦。
どう戦い、どうやって90分間を彩っていくのか。
阿部は鳥栖のことを『頑張ってくるチーム』と表現していて、『前半はああいうものだと思っていた。』と前半に中々攻撃も守備も巧く機能しなかったことに対して焦りは感じていなかったようだ。
そして、『前半を耐えたことがすべて。』と阿部が続けたように前半に軽い失点をしないで耐えきったことがこの試合を決めた。
相手には何度かゴールに攻め込まれたシーンがあったが、舞行龍始め、普段とメンバー・フォーメンションが異なろうと、全員が集中してゴールを守り抜いた。
大島は『点を取られていると、自分たちの空気も含めて、うまくいっていないと思ってしまうことになる。』と振り返っており、この完封勝利が持つ意味は相当大きなものだということがわかる。
相手が前線からハードなプレスをかけてくるというのは選手たちの中に共通認識があり、そこの部分に対してどうアプローチしていくのか。その答えは大島が次のように明かしてくれている。
『相手は力を出して守備をしてくる感じがあった。あまり無理に行き過ぎないように、どうやったら空いてくる場所があるかと考えながらやっていた。サイドに出した時に、はまらないようにしつつ、サイドに出した時にスライドのずれはあったので、そこさえ逃さなければというのはあった。』(大島僚太)
細かく小さなズレを瞬時に見極めてその都度どのようなパスを味方に出すのか。その部分の能力に圧倒的に長けているのは大島であり、先制点を生み出したパスもそのような能力があるからこそ、あの場面であのようなパスを出すことができた。
先制点を奪ってからは攻撃に出ていくのかというところだが、そこのリスク管理に関しても大島が巧く舵を執っていた。それはサブタイトルの大島のインタビューから読み取れる。
『追加点を取りたかったが、無理に自分たちから穴を開ける必要もないので、自分たちのボールの時間を長くしようと思っていた。』(大島僚太)
複数得点があまりないフロンターレは追加点を奪って引き離した上で試合を優位に進めたいところではあるがそれが中々出来ていないのがチームとして一番の課題でもある。そして、複数得点が奪えなければ直近の試合で多発している”ロスタイム弾”で簡単に勝ちを逃してしまう。
なので、大島の言うとおり無理をしないで自分達が一番得意な形に試合を持ち込む。そうすれば怖いものはない。
『自分たちのボールをの時間を長く』すれば、相手がプレスをかけてきたタイミングで攻撃を開始すれば良く、相手がプレスに来ないのであればビルドアップなど後方から試合を組み立てれば良い。大島が戻ってきたことでチームがこの部分で巧くオーガナイズされていた。
そして、終盤に山村を投入した意図に関して鬼木監督は『追加点というのを最後まで狙っていましたけど』と前置きしつつ、『最後の最後はボールをしっかり治められる選手をということ、あとは相手も1枚あげてきていましたので、高さの部分などでも含めてどういう形でも対応できるようにという意味で』山村を投入した。
確かに相手はフェルナンド・トーレスを投入し、前線に高さと起点を作ってきていた。そういう相手がパワープレーを仕掛けてくる前に高身長の山村を投入したのは納得だ。
決して簡単な道のりではないがいる選手をどう起用していくのか。全ては鬼木達。彼の手腕にかかっている。
(RYUJI.I)
参照:
・DAZN