スキーバスツアー事故で憤ること
※2年以上前の2016年1月15日に発生した、軽井沢スキーツアーバス事故のあとに書いた記事をリライトしました。
書かれている内容を鑑み、私にしては珍しく【である調】です。
軽井沢で起きたスキーツアーバスの事故から、はや2週間が過ぎた。
事故の原因がなかなか明らかにならない中、連日この事故について報道されていることが、この事故に対する国民の関心の高さを示している。
乗務員以外の犠牲者は、全員が将来のあった大学生であることに憤りを感じないわけにはいかない。
その理由は少子化うんぬんの話ではなく、小学生の子を持つ親として遺された家族の気持ちを考えると心臓をえぐられるような気持になるからだ。
それに、自分自身も社会人数年目にスキーバスで信州方面へスノーボードをしに行ったことがあること。
また、時代が今であればクルマを所有せずにスキーバスを多用していたに違いないと思うからだ。
お金はないが、体力と時間があるという若者の特権が、今回の事故ではアダとなってしまった。
事故を起こしたバス会社やツアー会社が社会的制裁を受けるのは当然である。
しかし、スキー業界に関連する全てのものが、直接的間接的に打撃を受けてしまうことも残念だ。
一説によると、スノーボードが爆発的に流行した1990年代のピークの時期に比べ、昨今はスキー場に向かう人数が4割も減少しているという。
この冬は暖冬といわれるくらい降雪が少ないため、スキー場のオープンが危ぶまれたほどだ。
1月の大寒波によって、スキー場にも待ちわびた雪が積もったようだが、例年に比べて積雪量はどこも少なめである。
となると、短い営業期間の中でスキー客を呼び込みたいところに今回の事故が起こってしまった。
『今年はもうスキー場に行くのをやめておこう』と思う人が多くなるのも想像に難くない。
ツアー(長距離)バス業界にもさらなるメスが入るだろう。
スキーツアーのプランで多いのは、夜に出発して朝に到着する、いわゆる車中泊と言われるパターン。
高速道路の混雑が少ないことや通行料金が低く抑えられるため、その時間帯が費用を安く上げるためにやむを得ないかもしれない。
だが、運転するのは生身の人間であることからすると、深夜の時間帯は活動する時間帯ではないのである。
通常、仕事は日中に主に行われるわけで、深夜や早朝であれば【割り増し料金】が働く側にもサービスを受ける側にも掛かってきて当然である。
しかし、ツアーバスは、深夜の移動であっても割安である。
深夜の過酷な時間帯にも関わらず、安く働かせる矛盾。
今回の事故を受けて、国土交通省がツアーバスに対して抜き打ち監査を行なった結果、約半数が何かしらの法令違反があったと報道されている。
このような現状から、規制が一段と強くなっていくことは避けられないだろう。
一連の報道の中で感じる違和感のうち、クルマの運転に関する誤解について記していきたい。
1) 燃費向上(利益確保)のために、下り坂はギアをニュートラルにして惰力走行
何十年前の常識をまだ信じてるの??と言いたいところだ。
バスやトラックなどのプロのドライバーや教習所指導員まで、このことを知らない人が多いのだが、下り坂でギアを入れてエンジンブレーキを効かせて走行したほうが、燃費は向上する。
その理由は、ニュートラルでアイドリング回転(最低限のエンジン回転)でもわずかながら燃料は消費されて続けているのに対し、エンジンブレーキを効かせて車輪がエンジンを回している状態である一定以上の回転数であれば、ヒューエルカット(燃料が供給されない)機能が働くため、燃料消費はゼロであるからである。
これは机上の空論ではない。
JAF(日本自動車連盟)のユーザーテストでも立証されていることだ。
燃費だけではない。
エンジンブレーキを使用したほうが速度キープの安定度が増すのである。
これは、クルマを運転する人なら誰でも体感していること。
エンジンブレーキを活用することでフットブレーキの使用頻度が減り、過熱によるブレーキ能力の急激な低下が起こる可能性が少なくなる。
それに、ブレーキパッドの減りが遅くなることも副次的な利点だ。
ただ、AT車全盛の今の時代、下り坂でAT車特有の空走感に慣れてしまってフットブレーキのみの制動が当たり前となっているドライバーが増えていることが怖いところ。
ATのシフトレバーを積極的に動かしてエンジンブレーキを効かせることは、教習所で誰でもやってきたことである。
その時は、指導員に注意されたり試験で減点されたりするのでエンジンブレーキを使う(具体的にはシフトレバーをDから2へ移動させる)が、免許取得後は『そんな面倒くさいことを・・』となって、走行中シフトレバーに触ることなく運転をするというドライバーも多いのではないだろうか。
『AT車なんだし、何もいちいちシフトチェンジをしなくてもいいんじゃない?』という声が聞こえてくると、我々教習指導員の無力さを感じてしまう。
それでも、声を大にして言わなければならない。
下り坂では燃費と安全のために積極的にシフトレバーを動かして、エンジンブレーキを活用しよう!と。
2) 利益のためには建前(安全性)は犠牲になってもしかたがない
今回の事故であぶり出された最大の誤解は、安全よりも利益・儲けが最優先という考え。
私も民間企業に勤めている人間なので、会社は利益を上げることなしに存続できないし、その利益があって社会が発展していくことも十分承知しているつもりだ。
法で定められた規定の数々は、最低限のことであるからそれを守ってさえすればいいということではないが、その最低限度のこと(賃金や労務管理等)すら守る気がない会社、それすら守れないのが通例の業界は、早かれ遅かれ淘汰されてしまうだろう。
何かが起こってから対応する会社と、起こる前に対策を立てている会社。
この違いが外から見えにくいのも問題だ。
ある会社は、【利益】を追い求めるために【安全】をうたう。
また、ある会社は、【安全】を第一に考えた結果【利益】がついてくる。
どちらが本物の【安全】か。
どちらが本物の経営者の考え方か。
言うまでもないだろう。
今回の事故で散っていった若い命を無駄にしないためにも、これからハンドルを握り続ける我々が、【安心・安全】を第一に運転していく必要がある。
そして、彼らの分までいろんなことを学び、彼らの分まで人生を楽しんでいこう。
【終】
佐々木隆児インターネットラジオ番組
【クルマの運転はこの一言で上手くなる】
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