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3分でわかる宇宙ビジネスの資金調達(その3)

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3分でわかる宇宙ビジネスの資金調達(その2)では、航空機ファイナンスを想定したケープタウン条約について取り上げ、宇宙に特化した「宇宙資産議定書」があることを紹介しました。

今回は、その宇宙資産議定書について取り上げてみたいと思います。ちなみに、航空機に関しては別途「航空機議定書」が存在します。

宇宙資産に特化したルール

宇宙資産議定書(宇宙資産に固有の事項に関する可動物件の国際的権益に関する条約の議定書)は、ケープタウン条約と一体となって、資産の保全に関して定められているルールです。

ケープタウン条約が航空機や鉄道車輌などの担保価値のある物(高額な物)への担保設定に関する一般的なルールであるのに対し(登録の順位による優先付け等)、宇宙資産議定書は、そのうち宇宙資産に特化したものという関係にあります。

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軌道上の「モノ」にいかに価値を見出すかー担保となるのは「モノ」だけじゃない?

人工衛星などの宇宙物体は、宇宙空間で運用されて初めて価値を持ちます。地球上の倉庫に置いているだけでは価値は生まれません。
また、人工衛星を運用するには管制や通信施設が必要ですが、仮に債権者が人工衛星を債権の担保として獲得したとしても、別途施設保有者に運用を委託せざるを得ません。債権者としては、衛星そのものというより、衛星が生み出す価値に注目するはずです。

宇宙資産議定書は、お金を借りた側が管制施設保有者や打上げ事業者と締結した契約に基づく権利を貸した側に譲渡できることを定めています。借りた側が設定した国際的権益は、登録によって明確にされることになります(9条、12条)。

つまり、衛星などの「モノ」だけではなくて、その運用のために締結した契約から受けられる利益も担保として差し出すことができるのです。
例えば、保険契約に基づく保険金、ユーザーへのサービス提供料など、人工衛星から生み出される利益から弁済に充てることができます。

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衛星は公共サービスを担っているーユーザーに不利益を及ぼすことなく担保権を実行するには?

例えば人工衛星は、GPSや衛星通信などに活用されており、使えなくなった場合の公共の不利益は計り知れません。
そこで、あらかじめ「公共サービスに利用されているという告知」が登録された衛星については、担保権の実行までに3〜6か月の猶予期間が与えられます。
これにより、突然公共サービスが使えなくなったという事態を防ぐことができます。

「宇宙資産」とは?

ところで、宇宙資産議定書が規定する「宇宙資産」とは何を指すのでしょうか?
宇宙資産議定書では、「宇宙に所在し又は宇宙に打上げられるために設計された、一意に識別することができる人工の資産」であって、以下のいずれかにあたるものとされます(1条2項(k))。

①衛星、宇宙ステーション、宇宙モジュール、宇宙カプセル、宇宙機体又は往型の打上げ機その他の宇宙機
②規則に従って独立の登録をすることができる(通信、航空管制、観測、科学調査その他の)ペイロード
③規則に従って独立の登録をすることができるトランスポンダーその他の宇宙機又はペイロードの一部

これには、付属品や部品、機器類、それらに関するすべてのデータ、マニュアル、記録が含まれます。

従前、宇宙資産の定義をめぐっては議論がありました。

宇宙資産議定書の制定過程で、アメリカは、衛星自体(衛星全体)を担保の対象とする場合もあれば、搭載されているトランスポンダ(電波中継機器)をも対象とする場合もあるので、いずれの場合も登録ができるようにしておく必要があると主張しました。
この考え方に対しては批判もあり、例えばドイツは、衛星全体が宇宙資産となるのかトランスポンダ単体も宇宙資産となるのかケースバイケースになってしまい、「物」の概念がよくわからなくなると批判しました。

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何をもって「宇宙資産」とみるか?

しかし、衛星とトランスポンダ全てについて登録を必要とするのは現実的ではありません。
結局、衛星全体もトランスポンダも、場合に応じて単一の「物」となるという取り扱いをすることになりました。

おわりに

宇宙資産議定書の当事国は今のところありませんが、今後、資金調達の可能性を広げるものとして活用されていくことに期待です。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド 第一東京弁護士会
・論説 ケープタウン条約宇宙資産議定書の意義と残された課題 小塚荘一郎

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