3分でわかる米国商業打上げ法アウトライン

海外でロケットを打ち上げるには?

日本では、宇宙活動法でロケットを打ち上げる手続が規定されていますが、海外ではどうなっているのでしょうか?今回はアメリカのロケット打上げルールである「米国商業打上げ法」を取り上げ、その全体像についてみていきます。
なお、宇宙活動法についてはこちらもご参照ください。

アメリカの規制緩和と4つのルール

米国商業打上げ法(Commercial Space Launch Act)は、1984年に以下のようなロケットの商業利用の促進を実現するため制定されました。

①経済成長、平和目的での宇宙環境の利用により事業活動を促進
②米国の民間部門が打上げ機、再突入機、関連業務を供給するよう奨励
③運輸長官が監督、②を許可する等して安全を確保
④米国の宇宙輸送システム基盤施設の強化、拡大を容易にする

もともと、ロケット技術は軍事のために使われていましたが、レーガン政権時代に規制緩和・民営化が促進されたことによるものです。

米国商業打上げ法の大まかな項目は以下の4つです。

①規制権限の集約
②ライセンス制
③保険加入の義務付け・政府補償
④損害賠償請求権の放棄

これらのルールによって、打上げ事業者が安定的・計画的に事業を行える基盤が整うことになります。順番にみていきましょう。

①権限が集約・一元化された

米国では、ロケットの打上げに関する規制権限はそれぞれの政府機関が握っていました。
しかしそれでは複雑です。連邦航空局(Federal Aviation Authorization: FAA)に商業宇宙運送局(Office of Commercial Space Transportation: AST)が設置されたことで、商業打上げに関する権限が一元化されました。

②打上げにはライセンスが必要

ロケットの商業打上げにはFAAのライセンスが必要とされました。
アメリカ国内でロケットを打ち上げる場合、射場や再突入地点を運営する場合、再突入機を再突入させる場合はライセンスが必要となり、他方でアメリカの人がアメリカ外でこれらの行為をするにもライセンスが必要です。

③保険に加入するのは必須、政府の補償もある

ロケット打上げに伴い第三者に損害を発生させてしまうことに備え、損害賠償責任保険に加入することが義務付けられました。これにより、FAAが算定する額がカバーされます。
その後、1988年に法改正がなされ、保険を使っても賠償しきれない場合、一定の上限額までは政府が補償する制度が設けられました。

④損害賠償請求権を放棄

打上げ関係者間や政府との間では損害賠償請求権が相互に放棄されます。
これにより、打上げ事業者の責任範囲が限定され、事業者は責任追求されるリスクを恐れず事業に打ち込むことができるようになりました。

その後の法改正(宇宙旅行へ向けて)

その後、アメリカでは民間企業が再利用可能なロケットが開発されるようになり、1998年の法改正ではライセンスが必要な項目に再突入が追加されています。
さらに2004年12月には、ライセンスが必要な項目に有人宇宙飛行が加えられ、宇宙旅行者からのインフォームド・コンセント(リスクを説明し、同意を得ること)があれば連邦政府は責任を負わないという仕組みが作られました。これらの改正によって、宇宙旅行の基盤が整いつつあります。
また、ロケットの飛行試験を行いやすくするための実験的許可の仕組みが導入され、許可が得られるまでのスピードが短縮されます。

これらのルール整備によって、宇宙ベンチャー企業が事業を計画的に遂行できるよう国際優位性を確保したり、融資が受けやすくなることが期待されます。

まとめ

ところで、米国商業打上げ法の構造は、どこか日本の法律に似てる気がしませんか?
日本の宇宙活動法にも、①責任集中、②打上げの許可制、③保険加入の義務付け、④損害賠償ルールについての規定があります。
宇宙活動法が制定されたのは、アメリカでこのような制度を導入して事業リスクの低減化を実施している例があることが背景の一つとなっているのです。

宇宙活動法によって基本的なルールは整備されました。日本でも打上げビジネスの基盤は整いつつあります。
サブオービタルや有人打上げをどのように考えるかといった今後の課題はあるものの、日本の地理的優位性を活かした今後の打上げビジネスの盛り上がりに期待したいです。

参考:
・宇宙法ハンドブック 慶應義塾大学宇宙法センター
※本稿の訳は本書による。
・日本の宇宙開発 青木節子

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