3分でわかるASAT(その2)
前回(その1)は、ASATの類型や宇宙条約等の国際法との関係について取り上げました。宇宙条約をはじめとする国際法規には明確にASATを禁止する規定はなく、その解釈問題として、現在も議論が続いています。
今回はより具体的な問題として、ASATによって発生するスペースデブリや反撃をめぐる問題について取り上げます。
スペースデブリとの関係ーASATによる爆発的なデブリ増加
各国のASAT実験
2007年、中国はASATを行ったことで約3000個のデブリが発生したとされています。に中国で行われたASAT実験です。
出典:JAXAウェブサイト
翌2008年にはアメリカが実験を行い、174個のデブリが発生しています。
また、2019年3月にはインドがASAT実験を実施し、約400個のデブリが発生しています。
ASATはいわずもがな大量のデブリを生じさせますが、アメリカやインドは低軌道での実験だったため、発生したデブリは最終的に大気圏への再突入により消滅します。
しかし、中国の実験は高度800km以上で行われたため、中長期にわたって軌道上にデブリが残ってしまうという点が異なります。
スペースデブリに関するガイドライン
国連スペースデブリ低減ガイドラインは、宇宙物体の意図的な破壊について以下のように定めています。
ガイドライン4:意図的破壊活動とその他の危険な活動の回避
増加する衝突リスクが宇宙運用に脅威を与えるとの認識により、宇宙機やロケット軌道投入段の如何なる意図的破壊も、その他の長期に残留するデブリを発生する危険な活動も避けなければならない。
意図的破壊が必要な時、残留破片の軌道滞在期間を制限するために充分低い高度で行わなくてはならない。
しかし、「充分低い高度」であれば意図的破壊は可能であるようにも読めますし、そもそも国連スペースデブリ低減ガイドラインに法的拘束力はないので、これをもってASAT実験を規律することは困難です。
また、IADCスペースデブリ低減ガイドラインにも、意図的な破壊行為につき以下のように定められています。
5.2 軌道上破砕の可能性の最小化
以下の要因で引き起こされる軌道上破砕は、5.2.1 ~5.2.3 項に記される手段
を用いて防止すること。
(1) ミッション運用中の破砕の可能性を最小にすること。
(2) 全ての宇宙システムを、ミッション終了後の偶発的爆発や破裂を起こさないよう設計し、運用すること。
(3) 意図的破壊行為は、長期的に軌道に滞在するデブリを発生するものについては、計画や実行をしないこと。
IADCスペースデブリ低減ガイドラインには、国連スペースデブリ低減ガイドラインのように高度の言及はないものの、法的拘束力がないことに変わりはなく、これをもってASAT実験を規律することは困難です。
結局、現状はASAT実験から発生するスペースデブリへの実効的な対策はないということになり、実施する場合の他国への報告、短期間で大気圏へ突入する高度での実施等によってカバーしていくほかないように思われます。
反撃が可能か?
攻撃の類型
自国の衛星が破壊された、あるいは破壊されそうな場合、反撃は可能なのでしょうか?
まず、衛星がどのような形で攻撃されるかについて、以下のように分類できます。
①武力攻撃
②武力の行使
③国際違法行為である干渉
④非友好的行為
また、破壊の態様についても、a.物理的に破壊されてしまうのか、ジャミングなどで一時的に機能しなくなるなどのb.機能的な破壊なのかによって分けられます。
反撃の根拠
次に、反撃の根拠は何に求めれば良いのでしょうか?
まず、「武力攻撃」に対しては国連憲章51条に基づき、自衛権の行使として反撃が可能です。
(参考)国連憲章51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。
しかし、そもそも何が「武力攻撃」に該当するのかは不明確です。物理的破壊に対しては均衡性をもった対抗措置が可能といわれていますが、その内容は曖昧であり批判もあるところです。
機能的破壊に対しては、そもそも国際法上違法なのか、違法だとしてどのような行為が何に違反するのか不明確なところがあり、議論が継続しています。
いずれにしても、どのような行為に対して反撃が可能なのか、可能だとしてどの程度の反撃が可能か、その根拠を何に見出すかはなおも議論が継続しています。
参考:
・スペースデブリ 加藤明
・Orbital Debris Quarterly News NASA
・JAXAウェブサイト「デブリと宇宙機の衝突を防ぐ JAXA追跡ネットワーク技術センター SSA(宇宙状況把握)システムプロジェクトマネージャ 松浦真弓」