3分でわかるロシアの宇宙活動法アウトライン
ロケットや人工衛星を打ち上げるための根拠法は、日本やアメリカにだけ存在するものではありません。今回は、ロシアの法律を紹介します。
宇宙条約で求められる監督体制と許可制
そもそも宇宙条約は、宇宙活動の基本的なルールとして、民間企業などの非政府団体の宇宙活動を監督する義務について定めています(2条)。
月その他の天体を含む宇宙空間における非政府団体の活動は、条約の関係当事国の許可及び継続的監督を必要とするものとする。
宇宙条約を批准している国は、宇宙活動法のような「許可制度」を設けた法律によって国民の宇宙活動を監督しています。ロシアもその国の一つです。
資本主義への移行期ー幅を持たせた規定
ロシアの宇宙活動法上、宇宙活動とは、「月その他の天体を含む宇宙空間の調査及び利用をめぐる直接の作業に関するあらゆる活動」と定義されます(2条1項)。
宇宙研究調査や有人宇宙飛行をはじめ、通信、テレビ・ラジオ放送のための宇宙技術の利用、国防、宇宙材料及び宇宙開発技術の利用、リモートセンシング等、幅広い活動が宇宙活動に含まれ、これらの活動を行うためにはライセンスが必要です(9条)。
ロシアの宇宙活動法が制定されたのは1993年で、当時、ロシアは資本主義に移行している時期でした。
このように宇宙活動の定義が包括的に定められているのは、技術に対し法整備が遅れていたためといわれています。
宇宙条約の規定を活用
宇宙活動は以下の原則に従って行われます(4条)。
・ 宇宙科学及び宇宙技術の成果の利用により平和と国際安全保障の維持に寄与すること。
・ 宇宙活動への予算外資金の誘致を奨励すること。ただし、それらの使用に対する国家管理が維持され、ロシア連邦の国益の遵守の保証が確保されること。
・ 宇宙活動の安全と周囲の自然環境の保護を保証すること。
・ 宇宙分野でのロシア連邦の平等で相互に利益のある国際協力。
・ 実施される宇宙活動に対するロシア連邦の国際的責任。
・ 科学及び社会経済目的、ロシア連邦の国防及び安全保障のために使用される宇宙技術及び宇宙開発技術の合理的組み合わせ及びバランスの取れた発展。
・ ロシア連邦の国際条約で禁じられる宇宙活動は認められない。
※訳 https://space-law.keio.ac.jp/pdf/datebase/each_countries/russia/19930820.pdf
これらの原則は、宇宙関係条約の基本的なルールを踏襲するもので、宇宙条約の履行を確保するという趣旨がみて取れます。
国防機関の宇宙活動分野における権限ー軍事的側面が色濃く反映
国防を担当する機関は、ロシアの国防・安全保障のために宇宙活動分野の国家政策や軍事目的の宇宙技術の開発をめぐる活動等を行うことについて規定されています(7条)。
具体的には、兵器・軍事技術の開発、製造、生産についての連邦プログラムのうち宇宙関連部分の案を作成したり、宇宙兵器、軍事技術の開発、製造、供給に関する国家防衛発注といった例が詳細に規定されています。
宇宙技術はもともとは軍事技術ですが、ここまで詳細な規定があるのはロシアの宇宙活動法の特徴です。
知的財産
宇宙技術及び宇宙テクノロジーの開発の際に得られた知的財産権の保護や権利行使はロシアの法律によってなされます(16条)。
このように知的財産権の取扱いについても規定されている点も特徴的です。
宇宙物体の登録
ロシアの宇宙物体は、登録してロシアの管理であることを示すことが必要です(17条1項)。宇宙物体登録条約の内容を踏襲する規定です。
なお、登録している宇宙物体によって天体の特定部分を占有しているからといって、その部分についてまで管轄権が及ぶわけではありません(同5項)。この規定は、宇宙基地と天体の領有禁止原則との関係を整理するヒントになるかもしれません。
宇宙飛行士に関する規定ー有人飛行が可能な唯一の国であること
ロシアは、現時点で唯一有人飛行に対応できるソユーズロケットを擁する国です。また、ミールやISSへの宇宙旅行を受け入れてきました。そのような国の体制を反映し、ロシアの宇宙活動法では宇宙飛行士の選抜や資格、権限等の規定があります(20条)。なお、ソユーズロケットについてはこちらも併せてご覧ください。
保険
宇宙技術が使用、開発される場合、宇宙飛行士や宇宙インフラ施設の職員の生命・健康に強制保険がかけられます(25条1項)。
また、宇宙活動を行う機関や市民については、宇宙技術の損失リスクに対する任意保険をかけることができます(同2項)。
損害賠償責任
ロシア国内・宇宙を除くロシア国外で宇宙活動を実施する際、ロシアの宇宙物体により損害が発生した場合は無過失責任が発生します(30条1項)。
また、地表以外で、ロシアの宇宙物体が他のロシアの宇宙物体から損害を被った場合、加害者は損害賠償責任を負います(同2項)。
参考:
・宇宙活動に関する連邦法(ロシア)
https://space-law.keio.ac.jp/pdf/datebase/each_countries/russia/19930820.pdf
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