3分でわかるフランスの宇宙活動法アウトライン
ロケットや人工衛星を打ち上げるための根拠法は、日本やアメリカにだけ存在するものではありません。今回は、フランスの法律を紹介します。
宇宙条約で求められる監督体制と許可制
そもそも宇宙条約は、宇宙活動の基本的なルールとして、民間企業などの非政府団体の宇宙活動を監督する義務について定めています(2条)。
月その他の天体を含む宇宙空間における非政府団体の活動は、条約の関係当事国の許可及び継続的監督を必要とするものとする。
宇宙条約を批准している国は、宇宙活動法のような「許可制度」を設けた法律によって国民の宇宙活動を監督しています。フランスもその国の一つです。
フランスの宇宙活動法ー商業利用から攻めたフランス
2008年に制定されたフランスの宇宙活動法は、主に以下の項目を定めています。
・宇宙活動のためのライセンス
・事故(災害)発生時の措置
・宇宙物体の登録
・損害賠償の取扱い
・リモートセンシングデータの取扱い許可
リモセンデータの取扱いについても同法で規定されているのが特徴的です。日本では宇宙活動法とリモセン法は別の法律として作られています。
もともとフランスの宇宙活動も国家の事業がルーツでした。
しかし、フランスにはアメリカやソ連のような軍事利用のニーズはあまりなく、打上げの機会を多く持つことができませんでした。
そこで、フランスは軍事ではなく商業利用の側面から打上げ市場に参入することにしたのです。そこでできたのが、アリアン5の運用を行うアリアンスペースです。実際に、フランスの宇宙活動法は防衛目的の宇宙利用には適用されませんし、フランス、アリアンスペース、アリアン5の商業打上げへの想いは制度や契約の設計にも現れています。
許可制度ーフランス管轄でなくても関与できるようにする
フランスの宇宙活動法では、以下の人について行政による許可が必要です。
・フランス管轄下からの打上げ、帰還を実施する事業者
・外国で打上げ、帰還を実施するフランスの事業者
・打上げを行わせようとするフランスの自然人、法人
・宇宙物体を運用するフランスの事業者
具体的な手続の内容は大統領または首相が制定する命令(デクレ)に、技術的な規制の内容は各省大臣が制定するルール「アレテ」に定められています。
許可を得ないで活動した場合、200万ユーロの罰金の制裁が設けられています。
第三者損害賠償ーより多くの事業者を参入しやすくするための制度
ロケットの製造には多くの事業者(メーカー)が関与します。仮に打上げに伴い事故が発生した場合、メーカーからすると「部品を作った側にも責任がある」と言われるのは厄介です。そのリスクの高さから、ロケット製造への参入を見送ってしまうメーカーも出てきてしまうかもしれません。せっかく技術があるのに活用されないとしたら、業界にとって損失です。
そこで、フランスの宇宙活動法は、事故によって第三者に生じた損害は運用者が責任を負うようにし(責任集中)、また、保険でカバーできない損害については政府が補償する制度を設けました。
なお、政府が補償したとしても、許可条件に従って政府の利益のために活動する宇宙物体によって生じた損害については、運用者に求償することはありません。
知的財産の取扱い
フランスの宇宙活動法では、宇宙空間でなされた知的財産の取扱いについても規定しています。
フランスの知的財産法に追加する形で、宇宙条約によってフランスの管轄権が及ぶ宇宙物体上、その内部を含む宇宙空間で発明され、または利用される発明について、知的財産法が適用されるようになっています。宇宙物体の登録と管轄については以下も併せてご覧ください。
リモセンデータの取扱い
フランスの宇宙活動法では、リモセンデータの取扱いについても規定している点が特徴的です。
分解能によって規制対象となるかどうかが決められるのは日本のリモセン法と同じで、対象となるデータは以下のとおりです。
①光学センサー(白黒) 2m
②光学センサー(多長波) 8m
③光学センサー(立体視) 10m
④近赤外センサー 10m
⑤レーダーセンサー 3m
これらのデータを取扱うためには、2か月前に行政へ届け出ることが必要です。
また、政府は、届出を行った事業者に対し、運用に関する制限をすることができます(シャッター・コントロール)。これは、リモセンデータの取扱いを無制限に許すことは安全保障の観点から望ましくないためです。
参考:
・フランス 宇宙活動に関する法律
http://stage.tksc.jaxa.jp/spacelaw/country/eu/16A-3.J.pdf
・国際商事法務Vol.47. No.5(2019) 世界の宇宙ビジネス法(第10回)「フランス宇宙活動法」 木下圭晃・谷口富貴