3分でわかる宇宙活動法〜第三者損害賠償〜

宇宙活動法3つの柱

宇宙活動法は、ロケットや人工衛星の打上げ・管理の許可制、保険の義務付け、損害賠償制度の整備によって、宇宙条約の要請に応え、宇宙ビジネスへ新規参入を促進することを意図したものでした。今回は、その3つの柱のうち、万が一事故が発生した場合の損害賠償制度について取り扱います。

第三者損害賠償制度の内容

1 無過失責任
2 責任集中
3 損害賠償担保措置(保険・供託)

無過失責任

ロケットや人工衛星の落下・衝突・爆発によって「地上で」損害を発生させた場合、打上げを行った者・人工衛星を管理する者が責任を負い、その責任は「無過失責任」とされています。
無過失責任とは、注意を尽くしていても免除されない責任をいい、非常に重い責任です。他方、注意を尽くしていれば免除される責任を「過失責任」といい、一般的に「事故」といった場合には過失責任が原則とされています。
にもかかわらず、宇宙活動法で無過失責任とされている理由は3つあります。

①被害者側でこのような事故を回避するのは困難であり、危険をコントロールできる者が責任を負うべき
②最新技術が活用される宇宙活動について、被害者側が加害者の過失を立証するのは無理
③宇宙条約や宇宙損害責任条約の責任は無過失責任となっているが、自国民と他国民の救済内容が異なるのもおかしい

他方、ロケットや人工衛星が「宇宙空間で」損害を発生させた場合の責任については、宇宙活動法に規定がありません。
この場合、原則に戻って過失責任となり、宇宙損害責任条約や関係国内法によって解決される問題とされています。
というのも、そもそも宇宙活動はリスクを伴うものであって、宇宙活動法の目的が公共の安全と被害者保護ということからすると、リスクある活動だとわかっていながらあえて実行する者を保護する必要はないことが理由です。

責任集中

ロケットの打上げには多くの関係者がいます。
仮に事故が発生した場合、被害者としては誰に責任追及したらよいかわからなくなるので、被害者の迅速な救済のため、責任は誰かに集中されていることが必要です。
そこで、打上げを行った者以外の者は、ロケットの落下・衝突・爆発による損害賠償責任を負わないとされました。これにより、ロケットの部品メーカー等は事故の被害者から責任追及されるリスクを回避でき、安心して製造できる(新規参入できる)ということになります。

なお、宇宙活動法では、損害の種類として①ロケット落下等損害と②人工衛星落下等損害があります。
条文上、ロケット落下等損害とは、

人工衛星の打上げ用ロケットが発射された後の全部若しくは一部の人工衛星が正常に分離されていない状態における人工衛星等又は全部の人工衛星が正常に分離された後の人工衛星の打上げ用ロケットの落下、衝突又は爆発により、地表若しくは水面又は飛行中の航空機その他の飛しょう体において人の生命、身体又は財産に生じた損害

とされていますが、要するにロケットが打ち上げられた後に落ちてきて地上で発生した損害のことです。
また、人工衛星落下等損害とは、

人工衛星の打上げ用ロケットから正常に分離された人工衛星の落下又は爆発により、地表若しくは水面又は飛行中の航空機その他の飛しょう体において人の生命、身体又は財産に生じた損害

とされ、要するにロケットから分離された人工衛星が落ちてきたりして地上で発生した損害のことです。
宇宙活動法では、これらの損害は別のものとして考えられており、それぞれ適用される制度が違うことがあります。

実際に、責任集中制度があるのはロケット落下等損害の場合だけで、人工衛星落下等損害の場合には適用されません。
その理由は、人工衛星落下等損害の場合、責任追及の相手として想定されるのは人工衛星管理者と製造者くらいであること、他国の制度をみても人工衛星落下等損害の場合にまで責任集中制度は採用されていないことが挙げられます。

損害賠償担保措置

ロケットや人工衛星を打ち上げるためには、将来の損害賠償に備え、これが確実に行われるよう準備しておくことが必要です。具体的には、

①ロケット落下等損害賠償責任保険契約+ロケット落下等損害賠償補償契約の締結
②供託

が必要です。
①の保険契約については過去にまとめていますので併せてご覧ください。

保険契約と併せて締結する補償契約は、政府が損害の一部を補填するというもので、その上限は3500億円とされています。
また、供託は一定の金額を供託所に預けることで、損害賠償の原資を確保させるというものです。

なお、人工衛星管理許可を申請する場合、損害賠償担保措置の必要はなく、政府補償もありません。
というのも、衛星が地上に落下して損害発生させる可能性が極めて低いからだとされています。
この点、「人工衛星の軌道上での第三者損害に対する政府補償の在り方」(宇宙製作委員会宇宙法制小委員会)では、「軌道上での人工衛星同士の衝突事故については、落下物が地表等に到達しない限り、一般公衆への直接被害は基本的には考えられないとしており、被害者救済の観点から人工衛星同士の衝突事故における加害者の責任の一部を国が肩代わりするということの論理付けを十分に示すことは難しい」とされています。

とはいえ、今後、宇宙ビジネスの進展、特にメガコンステレーションが構築された場合に同様に考えられるかは疑問です。
そのため、人工衛星管理者にも保険締結義務を課し、政府補償を考慮するこも必要ではないかという議論も高まっています。

参考:
・逐条解説宇宙二法 宇賀克也
・人工衛星等の打上げに係る許可に関するガイドライン 内閣府宇宙開発戦略推進事務局
・人工衛星の軌道上での第三者損害に対する政府補償の在り方 宇宙製作委員会宇宙法制小委員会

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