3分でわかるファルコン9
ファルコン9は、アメリカの宇宙企業スペースXが開発したロケットです。2010年6月の初飛行以来、改良が繰り返され、数多くのミッションに活用されてきました。
「ファルコン」という名前は、スターウォーズに出てくるミレニアム・ファルコン号に、「9」はエンジンが9基搭載されていることに由来しています。
最初にデビューしたファルコン9 ver.1.0
出典: SpaceX Falcon 9 Data Sheet
後継機ファルコン9 ver1.1
出典:SpaceX Falcon 9 v1.1 Data Sheet
ファルコン9 ver.1.2(Full Thrust)
出典:SpaceX Falcon 9 v1.2 Data Sheet
ファルコン9 Block5(運用中)
出典:SpaceX Falcon 9 v1.2 Data Sheet
ファルコン9が活用されるミッションは多岐にわたりますが、人工衛星の打上げのほか、国際宇宙ステーション (ISS)への補給、12000基による人工衛星を軌道上に展開するStarkinkミッション、そして有人宇宙船ドラゴン宇宙船の打上げが挙げられます。
ファルコン9が打ち上げられるケネディ宇宙センター第39A発射場(LC39A)は、アポロ計画やスペースシャトルの打上げにも利用されていた伝統ある射場で、現在はスペースXがNASAから借りて使用しています。
出典:SPACENEWS「SpaceX may shift Falcon 9 launches to KSC’s Pad 39A」
打上げ実績としては、2017に18回、2018年には20回、2019年は11回でした。
特徴①ー束ねられた9基のエンジン
ファルコン9は全長70m、直径3.7m、約550tの大型ロケットです。
スペースXが自社開発したマーリンエンジンは液体酸素とケロシンを燃料とする液体燃料エンジンで、推力は845kN(真空中で914kN)です。これが9基搭載され(クラスター化)、打上げ時には7686kNを叩き出します。
また、複数のエンジンが搭載されていることで、仮に1基不具合が出ても他のエンジンによってカバーすることができます(アポロ時代にサターンⅤで活用されていた技術の応用)。
(参考)
H-ⅡBに2基使用されているLE-7Aエンジンの推力は1098kN(真空中)
出典:SPACE NEWS「SES Rethinking Being First To Fly a Full-throttle Falcon 9」
このようなパワーを持つファルコン9は、低軌道には22800 kg、静止軌道には8300kg、火星へは4020kgを輸送することができます(参照:スペースXウェブサイト)。
なお、機体については溶接に摩擦攪拌接合法という方式が採用されています。摩擦熱で板金を軟化させて一体化させる技術ですが、宇宙業界では避けられていた方式でした。
しかし、スペースXは試行錯誤を重ねてロケットの機体にもこの方式を採用し、機体の軽量化、溶接の自動化に成功しています。
特徴②ー再利用が可能なブースター
ファルコン9の大きな特徴は、ブースターが地上に戻ってきて再利用が可能なことです。
海上のドローン船にメインエンジンが再着陸する(21分20秒付近)
出典:YouTube SpaceX「JCSAT-18/Kacific1 Mission」
着陸のため、機体には姿勢制御用のフィンや着陸脚がついています。
着陸時に姿勢を制御するためのグリッドフィン
出典:SpaceX Website
着陸時に展開される着陸脚
出典:SpaceX Website
地上に戻ってくるブースターの回収は海上で行われます。
ブースターがグリッドフィンを展開、自ら姿勢を制御しながら、無人ドローン船「Of Course I Still Love You」に着陸します。
なお、2019年11月のスターリンクミッションで使用されたブースターは4回目の利用です。
また、フェアリング(衛星などを格納する先端部分のカバー)も再利用されており、落下してくるフェアリングを海上ドローン船がキャッチし、再利用されます。
スペースXによれば、フェアリングの回収ができれば600万ドルの節約になるようです。
特徴③ー低コスト
ファルコン9の特徴3つ目は、低コストであることです。
スペースXのウェブサイトによれば標準価格は6200万ドルとされ、例えばフランスのロケット「アリアン5」の打上げ価格1億5000万ユーロと比べると非常に安価といえます。
特徴②のとおり、ファルコン9のブースターやフェアリングは再利用が可能で、低コスト化を目指してそのような技術が開発されたといわれていますが、実際には再使用が可能であることは必ずしも低コストの理由とはいえないようです。
4度目の挑戦
今でこそ輝かしい活躍を見せるファルコン9ですが、ファルコンロケットの開発は苦難の連続でした。
宇宙開発事業に乗り出したイーロン・マスクは、ICBMを購入しようとロシアに赴くも相手にされず、自社でロケットを開発することにし、2002年6月にスペースXが設立されました。
2006年3月24日のファルコン1の打上げは25秒後に制御不能となり落下、2007年3月15日に2回目のファルコン1が打ち上げられましたが、第2段が軌道に乗った後に空中分解して爆発してしまいます。
2008年8月2日、3回目のファルコン1の打上げでは、第2段分離後に爆発、後がない状況に追い詰められました。
そして翌月の9月28日、4度目の打上げでついにペイロードの軌道投入に成功したのです。
また、並行して開発されていたファルコン9が、2010年6月、初打上げに成功し、2012年5月22日にはドラゴン宇宙船を搭載したファルコン9が、ISSへドラゴン宇宙船を送り出します。そして、民間企業史上初の宇宙船のISSドッキングに成功したのです。
様々なミッションで活躍
現在、ファルコン9は、人工衛星の輸送はもちろん、多数の画期的なミッションに活用されています。
スターリンクミッション
スターリンクミッションは、12000基の人工衛星を打ち上げ、地球規模のインターネット網を構築しようというものです。これが実現すれば、途上国の通信問題が解消できると期待されています。
スターリンクのイメージ
Credit : Mark Handley/University College London
以下のように、これまで、スターリンク衛星は合計で422基打ち上げられており、2020年末から2021年前半に衛星通信サービスを開始することを発表しています。
スターリンク打上げの履歴
①2018年2月 2基
②2019年5月 60基
③2019年11月 60基
④2020年1月 60基×2回
⑤2020年2月 60基
⑥2020年3月 60基
⑦2020年4月 60基
合計 422基(2020年5月24日時点)
折り畳まれて放出を待つスターリンク衛星
出典:SPACE NEWS「Air Force enthusiastic about commercial LEO broadband after successful tests」
出典:YouTube SpaceX 「Starlink Mission」
他方で、懸念もあります。
宇宙空間の「モノ」が爆発的に増加することに加え、太陽光を反射するスターリンクが天体観測を妨害する「光害」となってしまうのではないかという問題が指摘されています。
これに対しては、スターリンクに「サンバイザー」をつけ、反射を低減させる対策が検討されています。
スターリンクによる利便性とそれに伴う弊害をいかに調整するかが課題となってきそうです。
ドラゴン宇宙船
ファルコン9が搭載するのはスターリンクをはじめとした人工衛星だけではありません。
スペースXは、物資の輸送や人が乗るためのドラゴン宇宙船を開発し、ボーイングの「スターライナー」と並び、NASAの受注を獲得しています。
2010年の初打上げ以来、ISSへの物資補給に活用されてきたドラゴン宇宙船は、地上に帰還した後は再利用することが可能です。
ドラゴン宇宙船は、用途に合わせてカーゴ・ドラゴンとクルー・ドラゴンに分けられ、カーゴ・ドラゴンはISSへの物資輸送、クルー・ドラゴンは有人打上げに利用されます。
カーゴ・ドラゴンは、2008年に受注されたNASAの輸送ミッションで活用され、2020年3月6日の打上げが最後のミッションとなりました。
次回以降の輸送ミッションでは、新型のカーゴ・ドラゴンが活用されていく予定とされています。
開発が進められてきたクルー・ドラゴンも、2019年3月にはISSとのドッキングに成功し、2020年5月27日、いよいよ有人打上げが行われます。ファルコン9による民間初の有人打上げミッションとして、非常に注目が集まっています。
出典:YouTube SpaceX「Crew Demo-1 Mission | Rendezvous, Docking, and Hatch Opening」
マンガ「4度目の栄光」
冒頭のマンガを作成いただいたのは、昭和が生んだ天才美少女漫画家あんじゅ先生が運営するオンラインサロン「あんマンサロン」に所属するぽっくすさんです。
いつもありがとうございます!
宇宙法、ロケット美少女化という無茶振りミッションにも対応できてしまう「あんマンサロン」はこちら↓
ファルコンロケットの開発は苦難の連続でした。
上述したように、次に失敗すればスペースXは破産という状況で挑んだ4度目の打上げでようやく成功したのです。
今の輝かしい活躍は、過去の積み重ねの結果です。
現在、スペースXは、NASAからISSへの有人飛行を実現するための宇宙船開発と打上げを受注しています(同ミッションはボーイングも受注)。この有人飛行については、スペースXとボーイングがNASAから受注しています。
ファルコンヘビーの姉ファルコン9は、ISS補給、Starlink、そして有人ミッションまで手掛けるエリート...のように見えますが、過去の挫折を味わっているからこそできるミッションです。
打上げ前に機体を纏う、ドレスのように気化した液体酸素、着陸時に展開されるグリッドフィンをイメージした黒レース、美しい着陸脚も見事に再現していただきました。
スターリンクによって人類皆が繋がれる世界を祈り、クルー・ドラゴンで人類の次のステージへと導きます。
参考:
・SpaceXウェブサイト
・Falcon9 User's Guide
・イーロン・マスク 未来を創る男 アシュリー・バンス(斎藤栄一郎:訳)
・ELON MUSK HOW THE BILLIONAIRE CEO OF SPACEX AND TESLA IS SHAPING OUR FUTURE ASHLEE VANCE
・ SpaceX Falcon 9 Data Sheet
https://sma.nasa.gov/LaunchVehicle/assets/spacex-falcon-9-data-sheet.pdf
・SpaceX Falcon 9 v1.1 Data Sheet
https://www.spacelaunchreport.com/falcon9v1-1.html
・SpaceX Falcon 9 v1.2 Data Sheet
https://www.spacelaunchreport.com/falcon9ft.html
・Falcon User's Guide(APRIL 2020)
https://www.spacex.com/media/falcon_users_guide_042020.pdf
2020.3.8 一部加筆
2020.5.24 一部加筆修正