3分でわかる打上げ契約
宇宙品質にシフトMOMO3号機打上げ成功
5月4日、インターステラテクノロジズのロケット「宇宙品質にシフトMOMO3号機」の打ち上げが成功しました。プレスリリースによれば、
飛行時間8分35秒、最大高度113.4kmに到達したとのことです。
民間企業で民生品を使ったロケットの製造・宇宙空間への到達が可能であることが実証され、今後、打上げビジネスの拡大が見込まれますが、衛星を打ち上げようとした場合、どのような契約が必要になるのでしょうか?
打上げ契約の性質
ロケット打上げ契約は、
衛星などを宇宙空間に輸送したい人
と、
打上げ事業者
の間で締結する運送契約です。
「衛星を打ち上げたい!」と考えた場合、現時点でそれを実現するには、
①自分でロケットを作って打ち上げる
②誰かが作ったロケットを買って打ち上げる
③誰かが作ったロケットで打ち上げてもらう
のどれかによることになりますが、打上げ契約はロケットの購入ではなく、「ロケットによって衛星を打ち上げる」サービスを受けるという内容の契約です(③)。
地球上で荷物を輸送しようと思えば、私たちは運送業者に依頼します。
地球上の運送業を宇宙に置き換えたものがロケット打上げ事業というイメージです。
関連する当事者
打上げ契約は、どのような人がどのように関わってくるかによって内容が違ってきます。
①衛星運用者が衛星メーカーから衛星を購入or自分で作って打ち上げる場合
委託者:衛星運用者
受託者:打上げ事業者
②衛星運用者が衛星メーカーから打上げ契約込みで衛星を購入する場合
委託者:衛星メーカー
受託者:打上げ事業者
なお、衛星だけでなくロケットについても、打上げ事業者がロケットメーカーから購入することも考えられますが、打上げ事業者はメーカーの関連企業がほとんどであるとされます(出典:これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイドp23、宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版p220)。
契約の内容
打上げ契約では、打上げスケジュール、価格、支払い条件、保険、損害賠償等に関する規定が盛り込まれます。
どこまですれば良いのか?
打上げ事業者としては、どこまで実施すれば打ち上げ事業者としての義務を尽くしたことになるのかは重要です。
この点、契約書では、「打上げ作業が不可逆になった時点」で打上げ事業者がすべきことが完了するとされるのが通常です。
「打上げ作業が不可逆になった時点」とは、一般論としてはメインエンジン・補助ロケットに点火した時点とされます。
この時点で、ロケットは物理法則に従って飛んでいくしかないので、後戻りができない状態(不可逆)になるというわけです。
つまり、(義務履行時点との関係では)実際に衛星を目的地(目的の軌道)に届けることまでは求められず、Ignitionの時点で義務は尽くされたことになるということです。
なお、液体燃料エンジンの場合にも同様に考えられるのかは検討の余地があります。
遅延や失敗した場合
打上げが延期された場合や失敗した場合、搭載している衛星やミッションの内容によっては、莫大な損害が発生してしまう可能性があります。
これに備え、契約書で遅延損害金の上限を決めておいたり、当事者がお互いに損害賠償請求権を放棄して、自損自弁にしておくのが通常です。
参考:
・これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド 第一東京弁護士会
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・HANDBOOK OF SPACE LAW Frans von der Duk with Fabio Tronchetti