3分でわかるリモートセンシング原則

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地形、気温の変化、氷河や石油タンクまで、広く地表の情報を取得することが可能な衛星リモートセンシングが注目されています。
日本では2017年11月に衛星リモセン法が施行され、リモセンデータの取扱いについてのルールが整備されました。
しかし、それよりもずっと前に、リモートセンシングの基本的な在り方について世界で議論され、ルールが作られています。

1986年に採択された「リモートセンシング原則」は、法的な拘束力のないいわゆる「ソフトロー」です。
その制定経緯をみると、リモートセンシングに対する考え方によって意見が分かれました。

リモートセンシングの特殊性

そもそもこの話は、リモートセンシングの特殊性に遡ります。
地表の情報を取得するには大きく分けて3つの方法があり、①飛行機からさの撮影、②ドローンでの撮影、そして③衛星から電波を飛ばす方法です。
飛行機から撮影する方法では、各国の主権が領空に及んでいるため他国の情報を取得することが難しいという難点があり、ドローンは機動性は優れる一方、広範な範囲の情報を一挙に取得することができません。

宇宙条約2条は、

月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。

と規定し、宇宙空間についての主権を認めていません。つまり、飛行機では不可能だった上空からの情報収集が人工衛星によれば可能となります。

しかし、そのような技術を持たない国はどう思うでしょうか?

宇宙条約には、リモートセンシング活動に関するルールまでは明記されていません。
いわば覗かれることが想定されていない場所も覗けてしまえる技術なので、取得された情報が何らかの形で活用されるのであれば、覗かれる側としては、事前に承諾を取ってほしいと思うのは自然なことでしょう(まして、リモートセンシング黎明期であればなおさら)。
そのため、「リモセンデータを自由に取得・流通させたい派」と、「事前に同意を取ってほしい派」に分かれ議論になりました。
結局、事前同意という形ではなく、協議を行うことを規定することでバランスが取られました。以下、リモートセンシング原則の内容をみていきます。

全ての国の利益のために実施、同意は不要

リモートセンシング活動は、特に開発途上国の必要を考慮して、すべての国の利益のために行われるとしつつ(第2原則)、宇宙条約1条で規定する宇宙活動自由の原則に従って行われると規定されています(第4原則)。
これにより、探査される側の国の同意がなくても活動を行えることを明確にしました。

協力関係の構築

リモートセンシング活動を行う国は国際協力を促進するとされ(第5原則)、リモートセンシング活動に参加する国は、他の関係国に技術援助を与えると規定されています(第7原則)。
また、国連をはじめとする関連機関は、技術援助や調整などの国際協力を促進すると規定されています(第8原則)。

国連・他国への通知義務

リモートセンシング計画を実施する国は、宇宙物体登録条約4条、宇宙条約11条に従って国際連合事務総長に通知し、また、他国(特に影響を受ける開発途上国)に対しても通知することが求められます(第9原則)。
宇宙物体登録条約についてはこちらもご覧ください。

環境保護、災害防止

リモートセンシングは、地球の自然環境保護を促進しなければならないとし(第10原則)、リモートセンシング活動に参加する国は、そのデータから自然災害による影響を確認した場合には関係国に通知することが求められています(第11原則)。

探査される側の権利

探査される側の国は、自国の管轄領域に関するデータを無差別かつ合理的な条件で探査国から取得できるとされており(第12原則)、探査される側の国が管轄するデータについてその国が優先するわけではありません。

探査する側の義務ー協議

リモートセンシングを行う国は、探査される国との協議が求められます(第13原則)。
リモートセンシング原則の作成過程では、探査される側の国は事前の同意を求めていたのでした。
しかし、実際に完成したルールにはそのような規定はありません。
その代わり、探査する国と探査される国との協議についての規定を設けることで、両国の利害調整が図られることになりました。

ただし、こうしたルールが民間衛星事業者についてまで適用されるか、適用されるとしてもどこまで適用されるかは不明確なままとなっています。

おわりにー宇宙開発は国際協調というものの...?

以上のように、リモートセンシング原則は宇宙開発先進国と途上国の利害が対立する一場面でした。同じ問題はリモセン分野以外でも発生しており、例えば宇宙資源をめぐっては、宇宙資源による利益を再分配すべきなのではないかといった議論がなされています。現に、月協定では資源の独占ができない仕組みとなっています。

「宇宙開発は国際協調」と言われますが、真の意味での「協調」とはどうあるべきかを考えるきっかけになりますね。

参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・リモートセンシング法原則の採択について 中村恵

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