3分でわかる月の土地の所有権
月の土地を持ってるんだけど...?
「宇宙法」というワードを口にすると、「月の土地を持ってるんだけどこれって有効なの?」という質問を受けることがよくあります。
月の土地という響きは夢のあるお話ですし、月だけでなく火星の土地についても売買されているようです。
こうした天体の土地の売買は有効なのでしょうか?
宇宙条約と天体の領有禁止
まず、宇宙条約2条は以下のように規定し、国家が天体を所有することを禁止しています。
月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠又はその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない。
宇宙は誰のものでもなく(≒みんなのもの)、早い者勝ちということにはなりません。
したがって、少なくとも(宇宙条約に批准している)国家が月や火星の土地を取得したり、売買することは禁止されているのは明らかです。
民間企業の場合は?
国家による民間への監督と責任
ところで、月の土地を取引しているのは民間会社です。
宇宙条約は「国家による」天体の所有が禁止されているだけであって、民間が所有することまでは禁止していないようにも思えます。
実際に、月の土地を売り出している業者はこの点を根拠としているようです。
しかし、宇宙条約6条は以下のように規定し、国家の民間に対する監督と責任について規定しています。
条約の当事国は、月その他の天体を含む宇宙空間における自国の活動について、それが政府機関によって行われるか非政府団体によって行われるかを問わず、国際責任を有し、自国の活動がこの条約の規定に従って行われることを確保する国際的責任を有する。月その他の天体を含む宇宙空間における非政府団体の活動は、条約の関係当事国の許可及び継続的監督を必要とするものとする。国際機関が、月その他の天体を含む宇宙空間において活動を行う場合には、当該国際機関及びこれに参加する条約当事国の双方がこの条約を遵守する責任を有する。
つまり、国家は自国の民間事業者の宇宙活動を監督し、宇宙条約の規定に従って行われることについて責任を負っています。
「土地を持つ」とはどういうことか?
ここで考える必要があるのは、「土地を所有する」ことの意味です。そもそも私たちはなぜ土地を持つ(所有する)ことができるのでしょうか?具体的には、「主権が及んでいない土地を私たちのものにする」というのはどのような意味なのでしょうか?
まず前提として、土地を単に占有しているだけでは所有していることになりません。所有権が認められるには、その占有状態を国家が認めていること(国家が禁止していないこと)が前提です。
民間が土地を所有する権利は、その国が管轄しています。
もし、主権が及ばない土地について民間が占有、管理し始めて所有権があることを表明した場合、国がその土地を自国の領域に編入(追認)することによって、このような民間の主張が認められることになります。
国家による追認が可能か?
では、国家が上記のような追認ができるかというと、前述のとおり、国家による天体の所有が禁止されているためできません。
また、宇宙条約が作成される過程で、天体の所有が禁止される“national”には国家だけでなく民間(私人)も含まれるという合意もなされているようです。
したがって、国家と同様、民間による月の土地所有は認められないことになります。
まとめ
このように考えると、売買できない土地をあたかもできるかのように装って商品として売り出しているので、詐欺になるのではないかとも思えますが、あくまでジョーク商品として販売している限りは詐欺とはいい難いでしょう。
むしろ、法的観点というよりも、宇宙に関心を示させる、宇宙開発の当事者となるきっかけという意味では、非常に良い教材のように思えます。
確かに、今後、人類が月へ当たり前に行く時代が到来すれば、この商品をめぐるトラブルが発生する可能性はあります。
しかし、そのようなトラブルを乗り越え、「月の土地」をきっかけに宇宙開発に目覚めた次世代、次々世代が、より技術を発展させてくれることに期待です。
参考:
・宇宙ビジネスのための宇宙法入門第2版 小塚荘一郎・佐藤雅彦
・宇宙資源開発に関する法研究会報告書 西村高等法務研究所